第515話 勝ちは勝ち

「はあっ……はっ……た、倒したの?」

「あ、ああっ……そうだよ、勝ったんだよな?あたし達……」

「……念のために様子を調べよう」



倒れ込んだゴブリンキングにミナは槍を引き抜くと、血まみれになりながらも彼女は自分が頭部を突き刺したゴブリンキングの様子を伺う。確実に脳まで攻撃は達しており、レナ達も調べた限りでは確実に死亡していた。


ゴブリンキングが死亡した事は間違いはなく、仮にこの状態からどのような治療を施したところで復活を果たす事など有り得ない。しかし、あまりにも呆気ない終わり方にレナ達は戸惑いを隠せない。



「えっ……本当に倒したのか?」

「ええ、間違いありませんわ。確実に死んでいます」

「し、信じられない……こんなにも呆気なく終わるなんて」

「本当に死んだのか?」



以前に遭遇したゴブリンキングとの戦闘ではレナ達は追い詰められ、挙句の果てには死にかけた。しかも今回はシノの援護もなく、一人欠けた状態での戦闘だった。それにも関わらずに戦闘の結果は誰一人として怪我一つ負う事もなく倒す事が出来た。


いくらゴブリンキングとの戦闘が初めてではないとはいえ、あまりにも呆気なく感じさせるほどに順調に終わってしまった。掴まっていた女性冒険者を救い出し、更にはゴブリンキングの討伐を果たした。結果から言えば最高の出来なのだが、どうしてもレナ達は納得しきれない。


ここまでの道中で誰もが疲労を蓄積し、特にデブリとナオに至っては先ほどまでは動くのもきつい状態だった。それにも関わらずにゴブリンキングという大物を相手に犠牲も出さずに勝利したという事実にレナは動揺を隠せない。



(このゴブリンキングが前に戦ったゴブリンキングよりも弱かったのか……でも、大迷宮で生まれた魔物が地上の魔物よりも弱いなんてことがあり得るのか?)



大迷宮で生まれたゴブリンキングと地上で戦ったゴブリンキングの強さに関してレナは違和感を拭えず、あまりにも今回戦ったゴブリンキングが「弱い」と感じてしまう。しかし、結果から言えば犠牲も出さずに掴まっていた者たちも救い出す事には成功した。正に最高の結果だと言える。



「や、やったな!!なんか、呆気ない気がするけど……これで帰れるんだろう?」

「そ、そうだな。何はともあれ、僕達の勝ちだ……勝ちだよな?」

「はい……これで、ロウガさんの仲間の仇を討てたはずです。それに殺された冒険者の人たちの分も晴らす事が出来たはずです」

「そうですわね、私達の友情の勝利ですわ!!」

「う、うん!!僕たちの勝ち、だよね?」

「うん……ミナが倒したんだよ。凄かったよ、最後の攻撃」



レナ以外の者たちもゴブリンキングをあっさりと倒した事に戸惑いを隠せないが、どんな経緯であれゴブリンキングは討ち果たされた。それは紛れもない事実のため、すぐにレナ達は引き返す事にした。



「なんか、あっさり勝てて気が抜けそうだけど……とりあえず、勝ちは勝ちだろ?ならヒリンのおね兄ちゃんを連れて戻ろうぜ?」

「そ、そうだな……ヒリンの奴、大丈夫か?」

「私の魔法はそう簡単には破られませんとはおもいますけど、すぐに迎えに行きましょう。きっと、驚きますわ」

「僕は捕まってた人たちの様子を見てくるね!!お~い、大丈夫ですか!?」



ゴブリンキングを倒したので脅威は消え去り、すぐにコネコは通路に置いてきたヒリンの迎えに行き、それにナオとデブリも続く。一方でミナとドリスの方はレナに壁際に移動された女性冒険者達の元へ駆けつけて様子を伺う。


残されたレナはゴブリンキングに視線を向け、身体に触れてみるが既に冷たくなっていた。もうしばらくすれば死体は大迷宮に吸収されてしまい、素材を回収する事は出来なくなってしまう。大迷宮のゴブリンキングともなると上質な素材がはぎ取れるのだろうが、今は人命を優先して素材の回収は行わず、早急に移動する必要があった。


ゴブリンキングが大迷宮に吸収される前にレナは様子を観察し、不意にある事を思い出す。それはゴブリンキングがレナ達が訪れる前に食事を行っていた事を思い出し、恐らくは捕まえた人間を捕食していたのだと思われるが、そもそもどうしてゴブリンキングは冒険者を殺さずに檻の中にわざわざ閉じ込めていたのかを疑問に抱く。



(何で人間なんかを捕まえたんだ?)



全ての魔物にとっては人間など餌の対象にしか過ぎず、人間を捕まえて殺さずに檻の中で捕食する魔物など滅多にいない。しかも大迷宮の魔物の場合は地上種よりも希少が荒く、人間を見たら見境なく襲い掛かるはずだった。それなのに大迷宮に入り込んだ冒険者を捕まえ、檻の中に閉じ込めていた事にレナは嫌な予感を覚えた。



(さっき、食べていたのは間違いなく人間の男の人だった。という事は人間を捕まえて保存食として扱っていた?わざわざ人間を食べるためだけに……?)



大迷宮内に生息する魔物だけではなく、捕まえた人間を檻の中に拘束して捕食していたという事実にレナは倒れているゴブリンキングの謎の行動に違和感を覚え、女性冒険者達の方へと振り返る。

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