第513話 魔法拳の弱点

四重強化クワトロ……!!」

『ギィイイイッ!!』



風属性の魔石を掴んだ闘拳をレナは上に構えた瞬間、周囲から同時にゴブリンの集団が飛び込み、レナに襲い掛かろうとした。その光景を見たミナは慌てて助けに向かおうとした。



「レナ君!?危ないっ!!」

「いえ、危ないのは私達ですわ!!身体を伏せてくださいましっ!!」

「えっ!?」



しかし、レナの救援に向かおうとしたミナをドリスが慌てて彼女を止め、そのまま頭を抱えて身体を伏せる。そんな彼女の反応にミナは戸惑うが、次の瞬間に彼女の言葉の意味を理解する。




魔法拳ブレイク!!」

『ギィアアアアアッ――!?』

「グガァッ!?」




風属性の魔石をレナが握りしめて破壊した瞬間、風属性の魔力が闘拳へと流れ込み、直後にレナは魔法を解除して強烈な衝撃波を拡散させた。そのあまりの威力に四方から飛び掛かってきたゴブリン亜種の大群は吹き飛ばされ、広間の壁際にまで叩きつけられ、運が悪い個体は天井にまでめり込む。


通常の「反発」や「衝撃解放」をはるかに上回る威力と規模の衝撃波を生み出したレナは周囲の邪魔者が消え去ったことを確認すると、ゴブリンキングに睨みつける。ゴブリンキングの方も衝撃波の余波を受けて身体がよろめくが、それでも戦意は失っていないのかレナを睨みつける。



「い、いったい何が起きたんだ!?」

「す、凄い衝撃でした……」

「兄ちゃん、すげぇっ……」

「ふ、ふふっ……これがレナさんのとっておきですわ」

「ど、どういう意味なの?」



あまりの攻撃の威力にレナの仲間達は動揺する中、一人だけレナの訓練に同行していたドリスは乱れた髪の毛を正しながら説明を行う。彼女はレナの特訓に付き合っていたため、先ほどレナが何をしたのかを説明する



「レナさんの魔法拳は闘拳や籠手、あるいはレナさん自身が身にまとった地属性の魔力に他の属性の魔力を取り込むのは皆さんも知ってますね?」

「あ、ああっ……そういえば団長がそんな事を言ってたな」

「付与魔法を発動させたとき、レナさんは自分の武器に魔力を取り込んで攻撃を行うだけではなく、その魔力を一気に解放させる事で遠距離攻撃も行えるようになりました。そして色々と実験の結果、風属性の場合だと衝撃波が生み出せることが発生しました」

「衝撃波?」



ドリスによるとレナが取り込んだ魔力の属性によって発生する現象を把握した結果、雷属性の場合は電流、水属性の場合は冷気の塊、風属性の場合は衝撃波という風にそれぞれの属性の特徴の攻撃が行えるという。



「これまでにレナさんが魔法拳で試した属性の中、最も威力が大きいのは意外な事に風属性の魔石でしたわ。風属性の魔力を取り込む事により、レナさんは強烈な衝撃波を生み出せる事が発覚しました」

「た、確かに凄い威力だったな……けど、それなら最初から使えばよかったんじゃないのか?」

「いえ、レナさんの魔法拳は威力の調整が出来ないのですわ。魔法拳は身に付けた魔力を一気に解放するしか攻撃手段はなく、取り込んだ魔力が強いほどに威力は上昇しますが、レナさんの意思では威力を弱める事は出来ません」

「えっ!?じゃあ、今ので魔石一つ分の魔力を全部使い切ったのか?」

「そういう事ですわ。レナさんの魔法拳の唯一の弱点ですわね」



レナの魔法拳の最大の弱点は取り込んだ魔力を一気に解放する事しか出来ず、魔石などを使用して魔法拳を発動させたとしても、取り込んだ魔力で殴りつける以外の攻撃方法は「拡散」することしか出来ない。しかも本人も拡散させるときに生じる威力の調整は出来ず、しかも一度発散させた魔力はもう取り戻せない。


強力な攻撃が行える半面に貴重な魔石を消費しなければ大きな威力は期待できず、正直に言えばかなりコストが掛かる技だった。しかもこれまでの道中に魔石を消耗したため、残されたレナの魔石はもう水属性の魔石しか存在せず、攻撃の好機は一度しかなかった。



(こいつが最後か……使い所を間違えないようにしないとな)



左手に握りしめた水属性の魔石を見たレナは懐にしまいなおし、ゴブリンキングへと向き直る。もう既に配下のゴブリン亜種は存在せず、自分しか残っていないというにも関わらず、ゴブリンキングは逃げる様子はない。



「グガァアアアアッ!!」

「ギャアッ!?」

「グギィッ!?」

「なっ!?あいつ、自分の仲間をっ……!?」



それどころかゴブリンキングはレナに吹き飛ばされたゴブリン亜種に視線を向け、壁際にめり込んだ数体のゴブリンに目掛けて拳を叩きつける。自分の配下に弱者などいらないとばかりにゴブリンキングは辛うじて生き残っていたゴブリン亜種を殺すと、レナ達と向き直った。


改めてレナ達はゴブリンキングと向き直り、その威圧感に無意識に身体を震わせた。しかし、今回の体の震えは怯えからくるものではなく、前回のイチノで戦ったゴブリンキングの時とは違い、今のレナ達は戦意を奮い立たせて堂々と向かい合う。



「へへっ……前の戦いの時は兄ちゃんにいい所を取られたけど、今回はあたしも活躍するぞ!!」

「腹が減ってるけど、あと一回ぐらいなら戦えるか……!!」

「ロウガさんの仲間の無念、必ず晴らして見せます」

「よし、頑張ろう皆!!」

「ええ、私達なら勝てますわ!!」

「……行くぞっ!!」



誰一人としてゴブリンキングに怯えず、武者震いを抑えながらレナ達はゴブリンキングに向けて駆け出した――

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