第511話 大迷宮のゴブリンキング
「何だ、ここ……」
「ひ、広い……」
「煉瓦の大迷宮にこんな場所があったなんて……」
レナ達が到着した場所はこれまでに煉瓦の迷宮の中で訪れたどの広場よりも広大な空間だった。恐らくは100メートル近くの幅は存在する広間であり、更に中央部の方には魔法陣の紋様が刻まれた「台座」が存在した。
「兄ちゃん、あれって……」
「うん、間違いない……転移台だ。ここにあったのか」
「あれが転移台……という事はあれを使えば僕達は地上へ戻れるのか?」
「……その前に、あの「敵」をどうにかする必要があるようですわね」
転移台を発見したにも関わらずにレナ達は喜ぶことも出来ず、彼等の視界には広場の反対側の壁にて座り込む巨大な緑色の巨人が存在した。一見はトロールにも見間違えるほどの巨体だが、トロールと違う点があるとすれば脂肪で覆われた肥満体系のトロールとは違い、異様なまでに筋肉が発達し、更に人間のように武器や防具を身に付けていた。
恐らくは巨人族の冒険者から奪ったと思われる鎧兜、更には棍棒を傍に置く巨大な生物はレナ達に気づいていないのか、先ほどから何かを食べているのか咀嚼する音が鳴り響く。極めつけには巨人の傍にはらくは魔物の骨か何かを無理やりくっつくて作り出されたと思われる「檻」があった。その檻の中にはこれまでに行方不明になった冒険者達が閉じ込められているらしく、その殆どが女性である。
「あ、あれは……攫われた冒険者なの?」
「酷い、いったい何てことを……!!」
「い、生きてるのかよあれ……」
無数の魔物の骨で作り出された檻の中には先ほどの女性のように虚ろな瞳で天井を見上げる女性たちの姿が存在し、どれほど長い時間を過ごしていたのか、全員の身体が薄汚れて衣服も原型を留めていなかった。全員が異常なまでに痩せ細り、中には自害しようとしたのか首筋を掻きむしった傷跡がある者もいた。
生きているのも奇跡としか言いようがない状態の女性冒険者達の姿にレナ達は見ていられず、檻の隣で食事を行う巨人を睨みつける。すると視線を感じ取ったのか、座り込んでいた巨人はゆっくりと振り返り、その顔を晒す。
――グガァッ……!?
口元に元は男性の冒険者だと思われる死骸を咥えていた「ゴブリンキング」はレナ達の存在に気づくと、表情を険しくさせた。その圧倒的な威圧感にレナ達は無意識に後ずさるが、ゴブリンキングは男性の死骸の頭をかみ砕くと、ゆっくりと起き上がって手に残った死骸の残骸を投げ捨てる。
捕まえた冒険者たちを「保存食」の代わりに檻の中で拘束していたらしく、ゴブリンキングは自分の食事の邪魔をしたレナ達に対して怒りを露にするように咆哮を放つ。
「グォオオオオオオオオッ――!!」
鼓膜が震える程の大音量の鳴き声にレナ達は耐え切れずに両耳を塞ぐと、ゴブリンキングは胸元を傍に落ちていた棍棒を掴むと、そのまま武器として使うのではなくレナ達の元へ向けて投擲を行う。
「フンッ!!」
「……喰らうかぁっ!!」
しかし、投げつけられた巨大な棍棒に対してレナは左手の籠手に付与魔法を発動させると、そのまま掌底を繰り出して棍棒を重力の衝撃波で弾き返す。その光景を目撃したゴブリンキングは驚きのあまりに目を見開き、投げたはずの自分の棍棒が逆に跳ね返されて自分の元へ向かう光景に咄嗟に両腕を交差して棍棒を防ぐ。
レナの「反発」によって弾かれた棍棒はゴブリンキングの肉体に衝突すると、金属音が鳴り響いてあろうことか棍棒の方が砕けてしまう。その光景を見てレナ達は驚きを隠せず、鎧兜を身に付けているとはいえ、金属製の棍棒が破壊するほどの勢いで衝突したにも関わらずにゴブリンキングは怯む様子も見せない。
「……ガアアアッ!!」
ゴブリンキングは腕に出来た痣を見て真顔になると、天井に顔を向けて声を放つ。その行動にレナ達は何の真似かと天井に視線を向けると、そこには見覚えのある赤色の体色と毛皮で覆われたゴブリンの群れが存在した。
『ギッギッギッギッ……!!』
「あ、あれは……亜種!?しかもあれだけの数がいるなんて……」
「50……いや、80……もっとか!?ひゃ、100匹はいるじゃないか!?」
「全然気づかなかった……くそ、これだけの奴らと戦わないといけないのかよ!?」
「泣き言を言っている場合じゃない!!戦うぞ、皆!!」
「う、うん!!」
「……ロウガさんの仲間の無念、晴らして見せます!!」
まるで蝙蝠の如く天井に張り付いていた大量のゴブリン亜種の登場にレナ達は戦闘態勢に入ると、ゴブリンキングは号令を下した。
「グガァッ!!」
『ギィイイイイッ!!』
天井から躊躇なく100匹近くのゴブリン亜種が落下すると、それらに対してドリスは両手を重ね合わせて合成魔術の準備を行い、レナも持ち込んでいた魔石を取り出す。
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