第509話 腕  ※閑話も追加してます

――まさかのヒリンまでも戦闘不能の状態に陥ったレナ達は転移台を探すために場所の移動を行う。動けないデブリ、ナオ、ヒリンの三人に関してはレナ、ミナ、ドリスが抱えて移動する事になった。



「悪いなレナ……無理するなよ」

「大丈夫だよ、付与魔法を使ってるから平気だって……」

「ううっ……い、意外と重いよヒリンさん」

「すうっ……」

「外見は細身ですが、筋肉質な肉体をしていますからね。きっと体重も重いんでしょう」

「ドリス、女の子に対して重いなんて失礼……あ、ヒリンさんは男の子だったね」



付与魔法の力を借りてレナはデブリを背中で抱え込み、ミナもヒリンを背負う。ドリスに関してはナオに肩を貸し、コネコが先行して様子を伺う。このような状況では気配感知を行える彼女の力が役立つ。


レナとドリスの魔力感知は範囲は広いが負担が大きく、レナの場合は常時発動する事も出来るが付与魔法の発動時には魔力感知を行うと通常時よりも負担が掛かる事が発覚した。一方でコネコの方は常に気配感知を発動して行動しても特に影響はなく、彼女は迷宮内の魔物の気配を感じ取りながら移動を行う。



「……こっちの通路の方から嫌な気配を感じる、多分だけど魔物が待ち伏せてるな」

「どれどれ……なるほど、確かに3体ぐらいいるね」



コネコが気配感知を発動させ、魔物が存在する通路を示すと念のためにレナも魔力感知を行い、様子を伺う。彼女の言う通りに通路の先には3体のコボルトが待ち構えていた。



「グルルルッ……」

「ガアアッ!!」

「ウガァッ!!」



曲がり角の通路からコボルト達の様子を伺うと、どうやら食事中なのかコボルト3体が血なまぐさい肉を食い漁っていた。その様子を見たレナはコネコに頷き、デブリを床に下ろして魔銃を引き抜く。



「動くなっ!!」

『ガアッ!?』



通路に飛び出すとレナは魔銃を構え、コボルトの注意を惹く。食事に夢中だったコボルト達は驚いた顔を向けると、レナは即座に3発の弾丸を発射した。3発の弾丸はコボルトの頭部を貫通し、一瞬にして仕留めた。



『ガハァッ……!?』

「ふうっ……大丈夫、終わったよ」

「うわっ、凄いな……相変わらず兄ちゃんの魔銃は恐ろしいな」

「そうですわね、砲撃魔法よりも早く、しかも攻撃力も高い。まさか我が家の家宝をここまで使いこなせる人がいるなんて思いもしませんでしたわ」

「返せと言われても返さないよ」



レナの魔銃は元々はドリスの家の家宝だったのだが、彼の父親が金に困って売却し、現在はレナの手に渡った。普通の人間が魔銃を使っても豆鉄砲程度の威力も引き出せず、重力を操る付与魔法の使い手であるレナ以外に扱える人間などいない。


大抵の相手は魔銃を使用すれば撃退できるため、ブロックゴーレムやゴブリンキングなどの脅威的な存在でなければレナの弾丸だけで対処できた。付与魔法を使って弾丸の回収を行うと、レナはコボルト達の死骸を確認して彼等が何を食べているのかを調べる。



「何だろう、これ……何かの肉?」

「結構臭うな……オークの肉か何かか?」

「どれどれ、僕に見せてみろ。魔獣関連の食材を見分けるのは得意だぞ」

「これ、食材といえるのかあんちゃん……」



少しは体力を取り戻したのかデブリはコボルト達が争うように食い漁っていた肉を確認すると、彼等が何の肉を食べていたのかを調べるために伺う。だが、しばらく見ていたデブリは悲鳴を上げた。



「ひいっ!?こ、これは……」

「どうしたのデブリ君!?」

「じ、人肉だ……人間の肉だ!!」

「えっ!?」

「ほ、本当ですの!?」



デブリの言葉にレナ達は驚き、彼は地面に落ちている肉の塊の正体が人肉だと見抜き、顔色を青くして口元を抑えた。レナ達も確認するとどうやら人の腕だったようだが、無残にも食い荒らされてすぐに気づく事が出来なかった。


コボルト達が人間の腕を食らっていたという事実にレナ達は動揺を隠せず、どうして人間の腕をこんな場所でコボルト達が食していたのかを疑問を抱く。この煉瓦の大迷宮はかなり前から冒険者が立ち寄れない状況に陥っているため、現在はレナ達以外に冒険者は存在しないはずである。


ゴブリンキングが出現してからかなりの数の冒険者が行方不明となり、既にゴブリキングに殺されていると思われたが生き残りが存在し、今日まで逃げのびていたがコボルトに見つかって殺されたという可能性もある。だが、煉瓦の大迷宮の危険性を考え、仮にゴブリンキングの脅威から逃れた生き残りがいたとしても、今の今まで生き残れたとは思いにくい。



「どうして人の腕がこんな場所に……」

「み、見てください!!血痕がありますわ、どうやら奥の方に続いているようですが……」

「奥?」



ドリスが床を指差すと、確かに血痕が残っており、通路の奥へと続いていた。間違いなく、この腕の持ち主の物だと思われ、レナ達は血痕を辿ることにした。







※こちらの話は予約投稿をミスして昨日も投稿してました……(´;ω;`)これだけの話だとなんなのでここから先の話は閑話です。




――レナ達が金色の隼に入団し、それぞれが煉瓦の大迷宮に潜むゴブリンキングの打倒のために訓練を行っている頃、王城の方では連日に会議が行われていた。内容は当然だが火竜の件であり、討伐するべきか否かを話し合う。



「やはり、ここは我々から打って出るべきではないのですか?」

「しかし、勝算もなく挑むのは……」

「それに場所も問題だ。いくら竜騎士隊が戻ってきたといっても……」



会議室では議論が白熱し、火竜を倒す方法を話し合う。だが、いくら時間を費やそうと火竜を確実に倒せる方法など思いつかず、無意味に時間を無駄にしていた。その様子をマドウは疲れた表情で見つめ、会議に参加していたジオは同時にため息を吐き出す。



(この様子では今日も話し合いは終わりそうにないな……全く、こんな事に時間を無駄にするなどバカげている)



ジオは延々と議論を繰り返す大臣や将軍たちの姿を見て頭を抑えるが、その一方でジオ自身も名案が思い付いたわけでもないので口を挟む事も出来ない。このまま話し合いを続けても良案が出てくるとは思えないが、だからといって無策に挑んで勝てる相手ではない。



(マドウ大魔導士もサブ魔導士も流石に顔に余裕はないか……ゴロウ将軍はいつも通りか)



マドウとサブも難しい表情を浮かべて腕を組んだまま動かず、ゴロウの場合は普段通りに無表情を貫いているが、やはり内心は落ち着かないのか時折、眉だけを動かしていた。今回の相手が相手だけにこの国の誇る大魔導士も将軍も名案など思いもつかず、このままでは無意味に時間だけが過ぎ去っていく。


しかし、ここでヒトノ国の大将軍にしてジオの兄に当たるカインが口を開く。彼の声は決して大きくはないが、不思議と他の人間の耳に響いた。



「……いい加減にしろ」

『っ……!?』



カインが言葉を発した瞬間、議論が白熱していた会議室が静まり返り、カインの圧倒的な迫力に押されてしまう。誰もが冷や汗が止まらず、カインの方に恐る恐る視線を向けると、カインはゆっくりと起き上がる。



「いつまでこんな事を続けるつもりだ?これ以上、時間を無駄にして何の意味がある。こうしている間にも火竜はこの王都へ現れるのかもしれないんだぞ」

「あ、兄上……それは分かっていますが」

「黙れ」



弟であるジオであろうとカインは辛辣な態度を取り、そんな彼の反応にジオは兄が本当に怒っている事を察する。普段の彼はゴロウと同様に物静かで滅多に言葉を口に発する事はしない。しかし、その兄が会議に口を挟んだという事はそれほど自体が切迫している事を嫌でも思い知らされた。



「……飛竜の様子を見てくる、結論が出るまで俺を呼ぶな」

「か、カイン大将軍……それはあまりにも勝手すぎるのでは……!?」

「何か文句があるのか?」

「ひっ!?」



カインの発言に将軍の一人が異を唱えようとしたが、カインに睨みつけられて縮こまってしまい、それを見たカインは黙って部屋を退室した。その様子をマドウは疲れた表情を浮かべて見送る事しか出来ず、頭を抱える。



(参ったのう……火竜と戦う前にこの調子では内部争いが起きてしまう。しかし……どうする事も出来んか)



マドウも現在の状況がまずい事は把握しているが、それでも打つ手がなく、頭を悩ませるしかなかった――

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