第508話 薬の副作用

「畜生……こんな苦労して倒したのに何も手に入らないし、しかも転移石まで使えなくなるなんて……全部、お前のせいだぞ。このこのっ!!」

「ちょっと、落ち着いてコネコちゃん!?」

「コネコさん、あまり無暗に大きな声を上げれば魔物に見つかってしまいますわ」



死霊騎士の兜を蹴り飛ばそうとしたコネコをミナが抑えつけ、ドリスが慌てて彼女を落ち着かせる。この状態で魔物に発見されて戦闘に陥れば非常に不利であり、今現在のレナ達の戦力で戦えるのはもう半分しかいない。


デブリとナオは死霊騎士との戦闘の影響で身体を動かす事も難しく、ヒリンも先ほどの回復魔法の乱用で魔力を大幅に消耗していた。一方でレナの方も極化を発現させた影響は残っており、何事もなく戦えるのはドリス、ミナ、コネコの3人だけである。



「と、とりあえずは場所を移動しませんか?。魔物に見つかる可能性もありますけど、まずは転移台を見つけないと……」

「ナオ、無理は駄目ですわ。そんな身体で動けば無事ではいられません」

「くっ……は、腹が減った。誰か、食べ物を持ってないか?」

「私もちょっと疲れたわ~……」

「あ、そうだ。ヒリンさん、これ良かったら使ってよ」



魔力を失ったヒリンもナオとデブリほどではないが疲労が大きく、壁に背中を預けて休んでいた。そんな彼女を見てレナは前にアイリから受け取った魔力回復薬マナ・ポーションの事を思い出し、彼女に差し出す。



「これは……魔力回復薬かしら?でも、色合いは市販の物より綺麗ね~」

「知り合いの魔術師から頂いた物なんですけど……市販の物よりも効果が高いそうなんで良かったら飲んでください?」

「いいの?なら遠慮なく受け取らせてもらうわ~最近では魔力回復薬も簡単には購入できなくなったし……あら?市販の物よりも飲みやすくていいわね~……それに身体が楽になってきたわ」



ヒリンはレナから魔力回復薬を受け取ると、彼女はそのまま飲み込む。量は元からあまりないので一気に全部飲み込んだらしく、ヒリンは満足そうに頷いた。


通常の回復薬とは異なり、市販の魔力回復薬の場合は即効性はなく、魔力が回復するまでには時間が掛かってしまう。しかし、アイリが作り出した魔力回復薬は市販の物よりも魔力の回復速度が速く、彼女は驚いた表情を浮かべて立ち上がった。



「これは……本当に凄いわね~身体がもう動かせるようになったわ~」

「おおっ、流石はアイリさん……じゃあ、ヒリンさんも戦えそう?」

「ええ、これなら問題な……いっ……?」

「ヒリンさん?」



ヒリンは身体を動かして身体の疲れが抜けた事を示そうとしたが、唐突に話の途中で立ち止まり、徐々に身体が傾いていく。



「うっ……」

「ヒリンさん!?」

「ちょ、どうしたんだ!?」

「おい、大丈夫か!?」



倒れそうになったヒリンを慌ててレナ達は抱えると、彼女は瞼を閉じて動かず、まさか毒物が入っていたのかとレナは焦った瞬間、寝息が聞こえてきた。



「すうっ……すうっ……」

「えっ……ね、寝てる!?」

「何で急に……」



唐突に眠り始めたヒリンにレナ達は戸惑い、彼女の身に何が起きたのかと焦ったが、どうやらアイリが渡した魔力回復薬の影響なのか眠り始めたらしい。即座にデブリが硝子瓶を拾い上げて臭いを嗅ぐと、彼は眩暈を起こす。



「うっ……!?こ、この薬……きっとまずいぞ。臭いを嗅いだだけで頭がくらくらしてきた」

「ええっ!?」

「兄ちゃん、何を飲ませたんだよ!?」

「い、いや……アイリさんから貰った魔力回復薬の新薬なんだけど」

「それってもしかして私が前に飲んでいた魔丸薬を作ったという人の事ですの?」

「そう、その人!!」

「だとしたら……薬の副作用かもしれませんわ」

「えっ!?副作用!?」

「はい、私も前に魔丸薬を多めに飲んだ時、強烈な睡魔に襲われて立ち眩みを覚えた事があります。その時は自分の部屋にいたので大事には至りませんでしたが、あの薬を飲みすぎるとどうやら副作用が起きて強制的に意識が奪われるようですわ」

「あの薬、そんな副作用があったの?」

「ええ、ですけど本当に飲みすぎなければ問題はありませんでしたわ。だから私は1日に3粒しか飲まないように気を付けていたのですけど……もしかしたら今回の薬にも同じような副作用があったのかもしれません」

「じゃあ、ヒリンが眠り始めたのはその薬の副作用のせいなのか!?」

「その可能性が高いかと……」



硝子瓶を手にしたドリスは言いにくそうに答えると、レナはアイリが渡した薬が「試薬品」である事を思い出す。アイリと会ったときは特に気にしなかったが、彼女は「試薬品」という言葉を使っていたのはもしかしたらアイリ本人も薬の効能を完璧には把握していなかった可能性がある。


この状況下でヒリンが意識を失い、しばらくは目を覚ましそうにないため、更に戦力が減ってしまった。レナはちゃんと薬の効能を把握していなかったアイリを少し恨んだ。






※その頃のアイリ


アイリ「へっくしょんっ、風邪ですかね……(´ω`)」

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