第507話 帰還不可
「えっ……な、何で帰れないんだ?それは壊れてないんだろ?」
「いえ、この場合は壊れているかどうかは問題ではないのです。この転移石は何故か魔力を失い、もう使い物にはなりません……恐らく、先ほどの戦闘の影響で皆さんの転移石が壊れたのも偶然ではありません」
「ど、どういう意味なの?」
「魔石とは通常は硬く、そう簡単には壊れたりはしません。転移石も魔石の一種なので余程酷い扱い方をしなければ壊れる事などはあり得ませんが、魔石の特徴として魔力を失った魔石は例外なく脆く壊れやすくなると聞いたことがありますわ」
「あっ!?」
ドリスは説明を行いながら彼女は手にしていた転移石を地面に向けて落とすと、簡単に砕け散ってしまう。その様子を見てコネコ達は自分たちが所有する転移石に視線を向け、壊れた原因を理解した。
「どうやら戦闘の最中、私達は死霊騎士に近付きすぎたせいで所持していた魔石の魔力を奪われたようですわ。現に私の魔法腕輪に装着している魔石の方も買い換えたばかりなのに大分魔力が消耗していますわ」
「そんな……」
「俺の装備に取り付けている魔石は高純度の魔石だったから魔力は完全には奪われなかったようだけど……よりにもよって転移石が使えなくなるなんて」
「それじゃあ、あたし達はもうここから脱出できないのか!?」
大迷宮へ脱出する主な手段は「転移石」に限られているため、大迷宮に挑む冒険者はほぼ必ずこの転移石を所持している。各大迷宮は非常に広く、脱出手段も持たずに挑むのはあまりにも無謀なのでどんな冒険者だろうと敵ず所持して挑む。
しかし、レナ達の場合は所持していた転移石が使えなくなったことで脱出は出来ず、残された手段は救助を待つか、あるいは別の脱出法を模索するしかない。
「この煉瓦の大迷宮には現在、私たち以外の冒険者はいません。一定の時間内に戻らなければ金色の隼の冒険者の方々が救援に駆けつけてくれる手はずですが、この広大な迷宮で救助を待ち続けるのにも限界がありますわ」
「じゃあ、どうするの?」
「転移台を探そう。それしか方法はないと思う」
「転移台?何だそれ?」
レナの言葉にデブリは首を傾げ、彼は大迷宮に訪れる度に転移石を使用して外界へ脱出していたので知らないのも無理はないが、この大迷宮内には外の世界へ繋がる「転移台」と呼ばれる台座が何処かに存在するはずだった。
「ほら、俺達が大迷宮に挑むときに転移魔法陣で移動したでしょ?あれと同じようにこの迷宮の何処かに外へ通じる転移魔法陣が刻まれた台座が何処かに存在するはずなんだよ」
「そうなのか!?そんな便利なものがあるならわざわざ高価な転移石を使わなくても……」
「いえ、そんな簡単な話ではありませんわ。転移台は確かに各大迷宮に必ず存在しますが、その場所に関しては日ごとによって変化するのです」
「えっ!?どうして!?」
「理屈は分からないけど、転移台は1日おきに場所を移動する仕組みらしいんだ。前に荒野の大迷宮でコネコが岩山の上に転移台を見つけてくれた事があったんだけど……次に来た時はその岩山の上にはなかったんだ」
「あ~……そういえばあったな。ミナの姉ちゃんがいないときにあたし達がミスリル鉱石を回収するときに確かに見たな」
レナとコネコは二か月ほど前までは頻繁に荒野の大迷宮に訪れていた時期があり、その時に二人は偶然にも転移台を発見した事があった。3メートルほどの幅の円形型の台座に転移魔法陣が刻み込まれ、使用する際は台座の上に乗って念じるだけで転移できる。実際に一度だけレナ達は台座を利用して転移した事があるが、翌日に同じ場所に訪れた時は転移台はまるで最初からなかったよう消え去っていた。
大迷宮から脱出する方法は転移石を使用するか、あるいは転移台を利用して元の世界に戻る方法の二通りしか存在しない。転移台が固定の場所に存在し続けない以上、転移石を持ち込まずに大迷宮に挑む冒険者は滅多にいない。
「しかもここが煉瓦の大迷宮である事が最悪ですわ……遮蔽物も多く、周囲を見渡す方法がない以上は通路を歩き続けて転移台が存在する場所を探しあてなければなりません」
「で、でも昨日もこの前も僕達は結構歩いてたけど、転移台なんて見つからなかったぞ!?」
「過去に転移石を失って三日間この迷宮を彷徨い続けた冒険者達もいる話だからね。その冒険者は金級冒険者で組んだ
「怖いこと言うなよ!?というか三日間も歩き回らないと分からない場所にあるのか!?」
「いや、1日おきに転移台の場所が変動したと考えれば仕方のない話ですわ。しかもこの煉瓦のだ迷宮内では時間の感覚が狂いますから、自分たちがここにどれだけいるのかも分からなくなります」
「まじかよ……じゃあ、本当にあたし達は今場所を歩いて転移台を探さないといけないのか?」
「……そうなる、のかな?」
「あら~……」
全員が既に疲労状態に陥り、更に転移台を探すために探索を再開しなければならないという状況に全員の顔色が悪くなった。
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