第506話 失われた転移石

「た、倒した……」

「やったぜ!!流石はあたしの兄ちゃんだ!!」

「レナ君、凄いよ!!」

「やりましたわね!!」

「うわっぷっ!?」



死霊騎士を倒したレナの元にまだ動けるコネコ、ミナ、ドリスが駆けつけて抱きしめ、その際に彼女たちの柔らかな身体の感触にレナは頬を赤く染める。だが、いつまでも勝利の余韻には浸っておられず、倒れてしまったデブリやナオの容態を伺う。



「デブリ君!!大丈夫?」

「は、腹減った……」

「ナオ!!無事ですの!?」

「ど、どうにかね……」

「ヒリンさんも……無事?」

「ううっ……さ、寒いわ~」



デブリの元にレナ、ナオの元にドリスが駆けつけると二人は意識がまだ残っていた。一方でヒリンの方は落ち着いたのか態度が元に戻っており、コネコがヒリンが脱いだ上着を渡す。



「ほらよ、ちゃんと服着ろよヒリンのおね兄ちゃん」

「ありがとう……ふう、流石に魔力を使いすぎたわ。ここまで私に魔力を使わせるなんて、レナ君たら鬼畜ね~」

「あれ、なんでちょっと嬉しそうなの……?」



ヒリンはレナの方を見ると意味深な表情を浮かべ、その際にレナは背筋が寒くなったが、そんな事よりも全員が無事であったことを喜ぶ。そして倒した死霊騎士の元にレナは向かうと、完全に悪霊は浄化されたらしく、胸元を砕かれた甲冑だけが残っていた。


甲冑の色合いがいつの間にか黒色から灰色へと変化をしており、どうやら甲冑に憑依していた悪霊が浄化された影響で完全に闇属性の魔力が失われ、ただの甲冑に戻ったらしい。



「……これ、ただの鋼鉄製の甲冑だね。別に魔法金属でもなんでもないから、多分持ち帰ったとしてもあんまり価値はないと思う」

「ええっ!?嘘だろ!?あんなに苦労して倒したのに……」

「よろしいではありませんか、あんな相手と戦って生き残れただけでも幸運ですわ」

「くうっ……は、腹が減りすぎて痩せそうだ。もう今日は帰らないか?」

「身体に力が入らない……これだと、歩くのも出来そうにない」

「私も疲れたわ~……」



死霊騎士と直に触れ合ったデブリ、ナオ、ヒリンの疲労の色は濃く、これ以上の探索は難しそうだった。他の人間も先ほどの戦闘で魔力と体力を大幅に消耗しており、これ以上の探索は危険だと判断したレナ達は引き返す事を決める。



「今日のところは一旦戻ろう、ゴブリンキングと遭遇しても今の状態だと勝てるとは思えないし……」

「ええ、大賛成ですわ。じゃあ、転移石で帰還を……」

「ああああっ!?」

「ど、どうした!?」

「ご、ごめん兄ちゃん……あたし、転移石を壊しちまった!!」

「ええっ!?」

「多分、さっきの戦闘の時に壊れたと思うだけど……」



転移石を使用して帰還を提案した瞬間、コネコが大声で悲鳴を上げる。いったい何事かと彼女に視線が集まると、コネコは涙目を浮かべて右手に掴んだ転移石を差し出す。


コネコは所有していた転移石を見せつけると、先ほどの戦闘の際に破損したのか転移石は見事にひび割れていた。この状態では転移石を使う事は出来ず、試しに発動しようとしても反応がない。



「参ったな、この状態だと使えないのか……」

「ううっ……ごめんよ兄ちゃん。わざとじゃないんだよ」

「謝らなくていいよ、それなら他の転移石で……」

「あ、あの……レナ君、実は僕も壊しちゃったみたい」

「ええっ!?」



ミナが申し訳なさそうな表情を浮かべて自分の所持していた転移石を差し出すと、コネコと動揺に転移石がひび割れていた。先ほどの戦闘でミナも転移石を壊したのかと思われたが、ここでデブリ達も自分たちの所有する転移石を取り出す。



「ぬあっ!?僕のも壊れてる!?」

「僕の転移石も……」

「私のも壊れてるわ……」

「ええっ……!?」

「これは……どういうことですの?」



どうやらデブリ達が所有していた転移石も罅割れている状態らしく、全員が先ほどの戦闘で転移石を壊してしまったのかと考えたが、それにしては不自然だった。


昨日まではどんなに激しい戦闘を繰り広げても転移石が壊れるような事態に陥らなかったが、今回の戦闘に限ってデブリ達の転移石が壊れた事に疑問を抱いたレナとドリスは自身が所持していた転移石の確認を行う。



「あっ……俺のも壊れてる!?」

「ええっ!?兄ちゃんのもかっ!?」

「じゃあ、ドリスのは……」



レナの所有していた転移石も他の皆と同じようにひび割れて壊れている事が発覚し、最後に残されたドリスに視線が向かうと、彼女は転移石を取り出す。


他の人間の転移石が壊れているのに対し、ドリスだけは死霊騎士から直接的な攻撃を受けていなかったのが幸いしたのか、転移石の方は傷一つ存在せず壊れている様子はなかった。それを確認したレナ達は安堵するが、ドリスは何か気づいたような表情を浮かべる。



「私のは……どうやら壊れてはいませんわ」

「あ、本当だ!!良かった、これで帰れるのか……」

「びっくりした……」



ドリスが所有していた転移石だけはひび割れは存在せず、綺麗な状態のままであった。それを見たレナ達は安堵してこれで帰還できると思った。



「なら、すぐに帰還しようよ。これ以上、ここにいるのは危険だろうし……」

「いえ、それは無理だと思います」

「え、どうして!?」

「……魔力が、感じられませんの」



しかし、ドリスは自身の転移石の色合いを見て異変に気づき、転移石に蓄積されているはずの魔力が失われている事を指摘する。そんな彼女の言葉にレナ達は驚き、慌ててレナは魔力感知を発動させると、ドリスの言う通りに転移石の魔力が枯渇している事に気づく。

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