第505話 聖属性の魔法拳
「ヒリンさん!!回復魔法はまだ使える!?」
「ああっ!?なんだこんな時に!?」
「レナ君!?」
レナはヒリンの元に駆けつけ、まだ回復魔法を扱えるのかを問う。この状況で自分に治療してほしいのかとヒリンは苛立った表情を浮かべるが、レナは右腕を差し出して彼に頼む。。
「俺の闘拳に回復魔法を掛けて!!早くっ!!」
「はあっ!?馬鹿かお前はっ……回復魔法は直にかけないと意味ねえんだよ!!自分の傷ぐらい唾でも付けて治しやがれっ!!」
「違う、傷の治療なんかじゃない!!」
回復魔法で傷の類を直す場合は直接に傷口に施す必要があるため、衣服や鎧などの装備を身に付けた状態では回復魔法を施しても意味はない。しかし、レナの目的は傷の治療ではなく、ヒリンの回復魔法を闘拳に取り込む事だった。
ここで仲間達もレナの意図を察すると、死霊騎士がレナを狙う前に時間稼ぎが必要だと判断した仲間達は動き出す。デブリとナオも体力に限界が近いにも関わらず、起き上がって構える。
『オオオオッ……!!』
「くっ……い、行かせるかっ……!!」
「お前の相手は……僕達だ!!」
「兄ちゃん、頼んだぞ!!」
「レナ君は僕たちが守る!!」
「やってやりますわっ!!」
「皆……ヒリンさん、早くしてっ!!俺の闘拳に回復魔法を!!」
「くそっ……どうなっても知らねえぞ!!うらぁあああっ!!」
レナを守るために死霊騎士の前にデブリたちは立ち塞がると、それぞれが身構える。その光景を見てレナは皆の思いを無駄にしないため、ヒリンに再度頼み込んだ。そんなレナの表情を見てヒリンは唇を噛み占め、仕方がないとばかりにレナの闘拳に手を伸ばす。
ヒリンはレナの闘拳に両手を構えると、そのまま回復魔法を発動させた。その瞬間、レナは意識を集中させて付与魔法を同時に発動させる。
「
「うおっ!?な、何だっ……!?」
闘拳に紅色の魔力が宿ると、ヒリンが施した回復魔法の聖属性の魔力が取り込まれ、螺旋の軌道を描きながら闘拳に聖属性の魔力が宿った。それを確認したレナはすぐに動こうとしたが、次の攻撃で死霊騎士を確実に仕留めなければならない。
今の状態で死霊騎士を倒せるのか不安を抱いたレナはヒリンに回復魔法を発動させた状態のまま前を向き、死霊騎士の様子を伺う。既に死霊騎士はミナ達と交戦を開始しており、デブリ達が猛攻を仕掛けていた。
「諸手突き!!」
「崩拳」
「飛燕脚!!」
「螺旋槍!!」
「氷鎖!!」
『オオオッ……!?』
死霊騎士は全身にドリスの作り出した氷鎖によって拘束され、魔力が完全に吸収される前にデブリ達は戦技を発動させて同時に攻撃を行う。ロックゴーレムや赤毛熊程度の耐久力の敵なら倒してもおかしくはない猛攻ではあったが、死霊騎士の甲冑を凹ませる程度で破壊には至らず、それどころか死霊騎士は反撃を仕掛ける。
『オアアアアッ!!』
「ぐあっ!?」
「あうっ!?」
「きゃっ!?」
腕を振り払うだけで死霊騎士はデブリ達を吹き飛ばし、ヒリンに回復魔法を施してもらっているレナに狙いを定めようとした。だが、そんな死霊騎士の背後からコネコとミナが追いかけ、訓練中に生み出した「合体技」を繰り出ために互いの顔を見て頷く。
コネコはミナの後方に移動すると、ミナは槍を構えて手元で高速回転させると、投擲を行う。更に空中に放り出された槍に向けてコネコは後ろ回し蹴りを放ち、より加速した槍が死霊騎士の背中に突き刺さった。
「行くぞ姉ちゃん……必殺!!」
「嵐槍!!」
『ウオオッ!?』
予想外の強烈な衝撃が死霊騎士の背中に走り、死霊騎士は前のめりに倒れそうになるが、どうにか踏みとどまった。だが、倒れる事は免れたがレナ達の前で大きな隙を生み出してしまい、十分に聖属性の魔力を闘拳に取り込んだレナは死霊騎士の元へ向かい、その後ろ姿にヒリンが叫ぶ。
「行けぇええっ!!」
「うおおおおっ!!」
死霊騎士は正面から迫ってくるレナに対して反撃を行おうとしたが、体勢が崩されたせいで反応が遅れてしまい、そんな死霊騎士に対してレナは「魔法拳」を繰り出す。
「だああっ!!」
『ッ……!?』
――死霊騎士の肉体に闘拳が衝突した瞬間、広間に轟音が鳴り響き、死霊騎士の肉体に強烈な衝撃が走った。今までのレナの攻撃は付与魔法を完全に吸収されて無効化されてしまったが、聖属性の魔力を取り込んだ闘拳の一撃は見事に死霊騎士を打ち抜いた。
闇属性の魔力に覆われた甲冑に対して聖属性以外の魔法を与えても吸収されてしまうが、聖属性の魔力を取り込んだ攻撃ならば通用する事が証明され、闘拳を叩き込まれた死霊騎士は胸元に亀裂が走る。更に攻撃するのと同時に闘拳に纏っていた魔力が解放され、聖属性の魔力が至近距離から放出した。
オァアアアアアッ――!?
甲冑に憑依していた悪霊は鎧が崩壊するのと同時に聖属性の魔力によって浄化され、やがて甲冑の色が漆黒から灰色へと変化を果たして床に倒れ込む。その様子を見てレナは死霊騎士を倒した事を確信すると、その場にへたり込む。
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