第494話 天才

(……間違いない、確かに一つだけじゃない。これってもしかして……)



レナは自分とドリスの周囲を旋回するように動く魔力を感じ取り、同時に別の場所からも魔力を感じ取った。この時点でレナは目隠しされた状態で瞼を開くと、ゆっくりと右腕を上げる。その様子を見てルイとイルミナは驚いた表情を浮かべ、レナに尋ねた。



「……どうしたんだい、レナ君?」

「まさか、魔力をもう感じ取ったんですか?」

「あの……もしかしてですけど、イルミナさんの作り出した魔法があるのは……ここですか?」



二人の言葉に対してレナは自分の頭上を指差すと、そこにはイルミナが対空させた光球が存在した。その反応を見てルイとイルミナは驚いた表情を浮かべ、訓練を開始してから数分足らずで正確に魔法の位置を把握したレナに驚きを隠せない。


ルイはイルミナに対して頷き、本当にレナが当てずっぽうで魔法の位置を把握したのではないかを確かめるため、光球を操作して場所の移動を行う。するとレナは光球が移動した事を察知して指を動かし、正確な光球の位置を指差し続けた。



「あ、今動かしましたよね……止まった、ここにありますよね」

「……凄い」

「信じられない……まさか、本当にこんな短時間で魔力の感知する事が出来るなんて」



心底驚いたようにルイとイルミナは感嘆な声を上げ、確かに魔力感知の技術は人によってはすぐに覚えてしまう人間もいる。しかし、魔術師としては一流であるルイとイルミナでさえも魔力感知を覚えるのには1時間程度の時を要した。だが、レナの場合は数分足らずで身に付けてしまう。



(やはり、この子は天才だ……こんな短時間で魔力感知の切っ掛けを掴むなんて、もしかしたら魔術師としての才能センスは僕たちを凌駕するかもしれない)



レナの言葉が真実である事を確かめたルイは興奮を抑えきれず、改めてレナが魔術師としてどれほど優れているのかを思い知らされる。だが、彼女が更に驚かされるのはこの後だった。




「――それと、ルイさんは場所を移動してますよね。さっきまでは椅子に座っていたけど、今は壁際の方へ移動してますね」

「……えっ?」

「なっ……!?」




予想外のレナの指摘にルイは驚きを隠せず、イルミナでさえも動揺を隠しきれずにルイに振り返った。実際に彼女は自分の椅子から壁際の方へ立っており、レナは初級魔法の魔力を感じ取るどころか、もうルイの肉体に宿る魔力の位置さえも掴んでいた。


ルイだけではなく、現在のレナは隣に座るドリスやイルミナの位置も魔力を通じて感じ取り、正確な居場所を見抜いていた。それどころかルイ達だけではなく、クランハウスの建物内に存在する人間の魔力を感知し、誰がどこにいるのかも把握する。



(……あ、クランハウスの前で待っているのはきっとコネコ達だな。へえ、こうしてみるとデブリ君の魔力が一番強いんだ)



しかも魔力を感じ取って位置を把握するだけではなく、レナの場合は魔力の大きさを感知して強弱を測る事も出来た。レナやドリスを除くと意外なことに魔力が強いのはデブリである事も判明し、治癒魔導士であるヒリンの方もドリスに匹敵する魔力を所有している事を感じ取った。



(へえ、これが魔力を感じ取るという事なんだ……何か、不思議な感覚だな)



魔力感知の技術を会得したレナは未知の感覚に新鮮さを覚え、その一方で感知できる距離を自分の意思で伸ばすことが出来る事を知る。


この調子で何処まで遠くの人物の魔力を感じ取れるのかと試そうとしたとき、だいたい100メートルという距離でレナは頭痛に襲われた。



(うっ……流石にこの距離が限界か)



半径100メートルがレナの魔力感知の限度らしく、それ以上の距離を探ろうとしたら頭痛が激しくなって意識を乱されてしまう。


だが、100メートル圏内であれば魔力感知を発動し続けても特に影響はなく、既に数十秒近くは維持しているが何も負担らしい負担は襲い掛かってこない。目隠しを取り払い、レナは瞼を開くとルイとイルミナに魔力感知の技術を覚えた事を報告した。



「ルイさん、イルミナさん、魔力感知を覚える事が出来たと思います。もう他の人の魔力を感じ取れるようになりました」

「そ、そうか……」

「す、素晴らしいですね……流石はレナさんです」



今回ばかりはレナの報告にルイとイルミナも冷や汗が止まらず、もしかしたら自分たちはとんでもない逸材を引き入れたのではないかと考える。その一方で未だに目隠しを行っているドリスが一言もしゃべらない事にレナは疑問を抱き、ドリスに話しかけてみた。



「ドリスさん?大丈夫?あんまり無理はしない方が……ドリスさん?」

「…………」

「ど、どうしたんだい?」

「何かありました?」



ドリスの様子を伺ったレナは彼女の様子がおかしい事に気づき、心配した風に顔を覗き込むと、ドリスが鼻血を流している事に気づく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る