第493話 個人差

「例えば……僕の場合は自分を中心に半径30メートル以内の生物の魔力を感知する事が出来る」

「えっ!?それは凄いですわね!!」

「私の場合はせいぜい10メートル程度です」

「10メートルも凄いと思いますけど……」



ルイの言葉にドリスは驚き、イルミナの言葉を聞いたレナは彼女も十分に凄いと思った。だが、ルイによると感知できる距離は自分の方が優れているが、だからといってイルミナよりも魔力感知の能力に長けているというわけではないらしい。



「但し、僕の場合は魔力感知を長時間の意地は出来ないんだ。せいぜいが数秒、運が悪ければ一瞬でしか感知できない」

「私の場合は数分は維持できます。また、戦闘中でも一応は使用できます。その場合は効果時間は極端に短くなりますが……」

「え?じゃあ、ルイさんの方が感知できる距離が広いけど、長時間の意地は出来ないんですか?」

「ああ、それと魔力感知を発動する度に一定の間を置かないと発動が出来ないんだ。結構な集中力を使うからね、使用した後は頭が少し痛くなるのが厄介でね」

「私の場合は少し脱力感に襲われる程度ですね」

「なるほど……個人によって魔力感知の性能や負担が異なるのですね」



ルイの場合は感知の範囲が広いのに対して発動時間は数秒、イルミナの場合は感知の範囲はルイに劣るが長時間の維持も行え、更に魔力感知を発動する際の負担に関しても異なるという。



「魔力感知を発動させた際の効果、それに伴う負担は個人によって大きく異なるらしいんだ。大魔導士マリアは10キロも離れている敵の位置を捉える事は出来たといわれているが、魔力感知を発動させた際の負担に関しては特に何も伝わっていないね」

「それと魔力感知はあくまでも技術であって技能ではありません。暗殺者のような気配感知の技能とは異なり、技術を磨けば効果も大きく伸びる可能性があります。実際に私は最初の頃は3メートル先までしか感知できませんでしたが、1年ほど使い続けて10メートル先まで感知できるようになりました」

「僕の場合は習得したときからあまり変わりはないね、まあ強いて言うならば昔よりは早く発動できるようになったぐらいかな……」

「なるほど……でも、どうやってお二人は魔力感知の存在を知ったんですの?今は扱われていない技術なのでしょう?」

「それは僕達と師と呼べる魔術師から教わったんだが……まあ、師の事はいつか話してあげるよ。今は君たち二人にも魔力感知を覚えてほしい」



魔力感知の技術は人によっては効果も持続時間も異なる物らしく、普段から使い続ける人間もいれば、覚えたても全く扱わない魔術師も多いという。


ルイがレナとドリスだけを呼び止めたのは魔術師である二人しか魔力感知を覚える事が出来ないためであり、この技術を身に付ければゴブリンキングを見つけ出す可能性は高まる。だが、問題があるとすれば習得までにどれくらいの時間が掛かるのか、それとレナとドリスがどこまで魔力感知を扱いこなせるかである



「魔力感知の習得自体はそれほど時間は掛からないと思う。実際に僕もイルミナも1時間程度で発動の切っ掛けを掴めた。後は練習を繰り返せば自然と扱えるようになれるさ」

「習得の練習自体もそれほど難しくはありません。なんなら今この場でも行いますか?」

「えっ!?ここで?そんな簡単な方法なんですの?」

「練習方法自体は単純だからね、才能がある人間ならすぐに覚える事が出来るよ。まずはこの布を使うんだ」

「布?」



説明しながらルイは机の引き出しから布を取り出し、それを座っているレナとドリスの目元に巻き付けて目隠しを行う。完全に視界が封じられた状態になった二人に対し、練習方法の説明を始めた。



「まずはこのように目元を隠した後、他の魔術師が魔法を使う。練習に最も適しているのは「光球」の魔法だね」

「光球……聖属性の初級魔法ですか?」

「攻撃性能を持たず、それでいて火球と違って熱も持たずに強い光だけを発する魔法です。この光球を発動させ、御二人の周囲を不規則に漂わせます。御二人は視界を封じた状態で光球の位置を探ってください」

「視力に頼らず、魔法の力を感覚で感じ取れという事ですか……やってみせますわ!!」

「が、頑張ります……」



本当に単純な練習方法にレナは驚くが、ドリスはやる気に満ちていた。そんな二人を見てルイとイルミナは頷き、練習を開始した。イルミナは杖を取り出して魔法を発動させると、二人の傍へと接近させた。


部屋の中が沈黙に包まれ、レナとドリスは視界が封じられた中でイルミナが発動させた魔法の位置を把握するために五感を集中させる。イルミナが作り出した光球から発せられる聖属性の魔法を感じ取り、その正確な位置を探ろうとした。しかし、練習を開始してから何分と経過しないうちにレナは違和感を抱く。



(あれ……?これって、もしかして……)



レナは目隠しで視界を封じられた状態の中、更に瞼を閉じて意識を集中させていると、何となくではあるが自分の周囲に「何か」が通り過ぎるような感覚に陥った。その何かの正体がイルミナの作り出した光球なのかと思ったが、ここでレナは不思議に思ったのは彼が感じ取った「魔力」は一つだけではなく、複数感じる事だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る