第492話 暗黒時代の魔術師
「遥か昔、魔術師が戦争の道具として利用されていたころ、彼等は常に戦争の時は最前線に立たされていました」
「え、最前線に……?」
「本来ならば後方支援を得意とする魔術師が前線に立つなど今の時代ではありえない発想だと思うだろう?だが、当時の魔術師は今ほどに魔法の技術が発展しておらず、あくまでも戦争の兵士として繰り出されていたんだ。それが後に「暗黒時代」と呼ばれる魔術師にとっては最悪の時代だったそうだよ」
「暗黒時代……」
以前にも聞いたことがある単語であり、レナ達は冷や汗を流す。この世界の中で最も戦争が繰り返された時代と呼ばれ、同時に魔王や勇者と呼ばれる存在が実在した時代でもある。
「暗黒時代の魔術師たちは戦争に駆り出された場合、彼等の役目はより多くの敵を屠る事が義務付けられていた。だからこそ魔術師は否が応でも前線に送り込まれ、多くの敵兵を討ち取らなければならなかったんだ」
「そんなの……酷すぎますわ」
「そうだね、今の僕達からしてみれば信じられない扱い方だ。だが、当時の魔術師は生き残るためには何としても敵を屠る以外の方法はなかったんだ。だけど、大魔導士マリアが残してくれた魔力感知の技能のお陰で彼等の扱いは一変する」
「最前線に立たされた魔術師たちは魔力感知の技能を習得し、敵の位置を把握する事が出来るようになります。これによって伏兵などの存在を事前に把握し、対策を行えるようになりました。ですが、敵味方の中に魔力感知を行える存在がいた場合、決着が長引くようになりました」
「互いに相手の位置を把握できてしまえば戦術は意味をなくし、お互いに有利な状況に持ち込む事が出来くなくなるからね。そのお陰というべきか魔力感知の技術が浸透してからは戦争のやり方が大きく変わってしまったんだよ。それが暗黒時代の終焉にも繋がったという人も多いね」
ルイとイルミナによると今までは戦争の道具として扱われていた魔術師たちだが、魔力感知の技術が広がった事で彼等の価値が一変したという。最前線に立たされ続けた魔術師達だが、魔力感知のお陰で彼等は敵の位置を把握し、戦争を有利に進める存在へと進化した。
しかし、年月が経過するにつれて魔力感知を習得した魔術師の数が増大した結果、戦争が意味を為さなくなった。互いに戦の際にはどんな陣形や戦術を整えようとも敵に位置を完全に把握され、伏兵や奇襲が意味を無くす。
また、お互いの位置と戦力を把握できる事で戦闘を挑む前にどの程度の被害が出るのかを予測できるため、戦争では自分たちに少しでも有利な状況を作り出す戦法を取ろうとしても、結局は相手側も敵の位置と数を把握できるために戦法が読まれてしまう。そのせいで今まで利用されていた戦略や戦法が意味を為さなくなった。
魔術師に偏りすぎた戦い方しか知らなかった国々は魔力感知という優れ過ぎた技術によって戦争に中々決着がつかなくなってしまい、そうなると戦争を無駄に長引かせれば国力が消耗して民衆も不満を抱く。結局は戦争を続けても相手に勝利する事も敗北する事もなくなり、無駄に戦を長引かせて互いの戦争を引き起こした国家同士で無駄に国力を失うばかりの戦が続く。
やがて暗黒時代は終わりをつげ、国々は同盟を築く事で長き戦争は終わりを告げた。そして現在の時代へと至り、平和な時間が流れていくうちにいつの間にか魔力感知という技術は廃れたという。
「魔力感知の技術が最も活躍していた時代は終わりを告げました。そのせいで現在の時代には魔力感知の技術を伝承されるどころか、存在その物が失われかけています」
「なるほど……でも、どうしてそんなに技術がなくなりかけているんですか?」
「単純に言えば普通の魔術師ならば覚える必要もない技術だからね。基本的に今の魔術師は「後方支援」の役目を任される事が多い。つまり、必然的に魔術師は一人で戦う事はなく、魔術師を守るための前衛の人間が存在するのは当たり前の時代だからね。まあ、レナ君のような例外もいるのだけれども……」
「確かに言われてみればそうですわね」
基本的には現在の時代では魔術師が単独で戦うなどありえず、レナやドリスのような特殊な魔法職の人間でもなければ普通の魔術師が単独で戦う事はあり得ない。だからこそ魔力感知の技術は衰退したという。
「魔力感知を覚えるよりは気配感知を習得している人間を味方にすればいいだけの話だからね。それに魔術師という人間は職業上、戦闘職の人間よりも身体能力が低い。だから斥候などの役割を任される事もないし、戦力が最も期待できる魔術師を動かしてわざわざ敵の位置を探らせるという危険な真似を行う人間もいなくなった」
「それに魔力感知に関しては習得は難しくはなくとも、感知する範囲や規模などは個人差が存在します。そのせいで必ずしも万能な技術ではりません」
「個人差?」
イルミナ曰く、魔力感知は個人によって感じ取れる範囲が異なるらしく、例えば彼女とルイも魔力感知を習得してはいるが、その感知できる範囲は大きく異なるという。
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