第491話 戦争で最も活躍する称号とは……

「廃れた理由を話す前に先に魔力感知の技術を見出した人間の事を説明しましょう。最初に他人の魔力を感知する技術を開発したのは伝説の勇者の一人である「マリア」です」

「マリア……大魔導士マリア様の事ですの!?」

「ええ、戦場の女神と呼ばれ、歴代の勇者の中でも最も魔法の才能に長けた人物だと伝えられています。彼女が残した魔法技術の数々が現在の魔術師の礎となっているといっても過言ではありません」



勇者である「マリア」の名前はレナでさえも聞いたことがある存在であり、この世界で最も偉大な魔術師だったと知っていた。レナが好きな勇者は重力の勇者だが、一般的に過去に召喚された勇者の中で最も優れた魔術師は誰かと言われれば彼女の名前が真っ先に上がる。




――勇者マリアが残した魔法技術は現在にも伝わり、彼女によって現在のヒトノ国は存在するといっても過言ではない。彼女は他の勇者の中でも群を抜いて功績を上げており、数々の歴史家がマリアを超える魔術師はもうこの世に現れないだろうと言い切るほどに有名な人物だった。





魔術師として生まれた者ならば必ずはマリアの存在を知っており、全ての魔術師にとっては憧れの対象といっても過言ではなく、ドリスが最も尊敬している魔術師でもあった。既に死後から何百年も経過しているが、未だにマリアを上回る魔術師は一人も生まれていない。



「魔力感知を見出したマリアはその力を使い、驚くべきことに10キロも先の敵の存在を感知したといいます。その力のお陰でマリアは未然の危機を防ぎ、待ち伏せする敵や強大な力を持つ魔物の接近を事前に気づいて人々を守ったと言います」

「じゅ、10キロ!?魔力感知とはそんな広い距離を感知できるんですの!?」

「凄いっ……コネコやシノでも数十メートルぐらいが限界なのに」



コネコとシノの場合は意識を集中させれば気配感知の範囲を数十メートル、あるいは100メートル近くにまで感じ取る事は出来る。しかし、彼女たちの場合は人が多い場所や気配を相手が殺す術を持つ者を感知する事は難しく、ましてや何キロも先の生物の気配を感じ取る事は出来ない。


だが、伝承によるとマリアの場合は魔力感知の能力で10キロ先の生物の気配を感じ取り、この力を使って彼女は人の刻の脅威となる存在を事前に察知して人々に危険を知らせたという。だが、残念ながら現在の時代では彼女が生み出した魔力感知の技術を習得している魔術師は殆どいないという。



「そう、確かに魔力感知と呼ばれる能力自体は素晴らしい能力だ。実際にマリアはこの魔力感知の技術をヒトノ国の魔術師に伝え、長い間、この技術は魔術師の間で重宝されていた。しかし、時代が経過するにつれてこの魔力感知を扱う魔術師は極端に数が減ってしまった……悲しいことにね」

「えっ!?ど、どうして?」

「理由は二つ、魔力感知が重宝されていたのは戦が盛んな時代だったからです。過去の時代では戦争で最も活躍するのは魔術師の称号を持つ人間たちでした。彼等は前線に立たされ、生き延びるために魔力感知の技術を覚えざるを得なかったのです」

「戦争……」



イルミナの言葉にレナとドリスの表情が暗くなり、ルイとイルミナもため息を吐き出す。どんな時代でも国同士の諍いは絶えず、場合によっては武力で相手を支配しようとする国も存在した。




――戦争において意外なほどに活躍が期待されるのは「戦闘職」の人間ではなく、高火力の魔法で相手を蹴散らす力を持つ「魔法職」の人間、つまりは「魔術師」だった。彼等の扱う魔法は地球で例えるならば「兵器」になり得る破壊力を誇り、戦闘職の扱う剣や弓矢などの武器とは比較対象にもならない。




かつての戦争ではより多くの優れた魔術師を率いた国家が勝利するのが当たり前の時代だった。特に魔法の中でも破壊力に秀でた「砲撃魔法」の使い手は重宝され、100人の兵士よりも魔術師の称号を持つ人間1人が価値があるとさえ言われていた。


実際に砲撃魔法を扱える魔術師を部隊単位で率いればそれは正に兵器と呼ぶにふさわしく、実際に過去の大戦で活躍した人間の殆どは魔術師であった。将軍職に魔術師がつく事も珍しくはなく、戦闘職よりも魔法職の人間が優遇されていた時代でもある。


だが、戦争当時の魔術師にとっては正に最悪の時代と呼ばれ、魔術師であるという理由だけで無理やりに国の兵士として徴兵され、戦わされる。反抗しようものなら敵国に寝返る前に殺される事も珍しくはなく、もう魔術師は人ではなく戦争に勝つための道具だと見なされていた。




そんな時代だからこそ魔術師が前線に立つことも珍しくはなく、彼等は生き延びるために必死に戦い続けた。そこでマリアが残した「魔力感知」の技術は彼等が生き残るために必要不可欠な技術だったという。魔力感知の技術のお陰で彼等は敵の存在を事前に感じ取り、生き残る術を身に付ける。

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