第490話 魔力感知
「つまり……今までにゴブリンキングが見つからなかったのは気配を殺す事に長けているゴブリン亜種が偵察を行い、冒険者の動向を報告していたからか?」
「あくまでも憶測にしか過ぎない。だが、これまでにゴブリン亜種が発見されたという報告は受けていない」
「最後に冒険者が訪れた日の後から誕生したという可能性もありますが……本来、突然変異種のゴブリン亜種が一度にしかも十数匹に同時期に誕生したとは考えにくいですね」
「では、お二方はゴブリン亜種はもっと前から誕生していてゴブリンキングに従っていたと思うのですか?」
「そういう事だね」
ルイの言葉にレナとドリスも不思議に納得してしまい、亜種というのは上位種よりも希少で本来ならば滅多に誕生する存在ではない。厄介なのは今回の亜種は暗殺者の気配感知すら探知できないほどに巧みに気配を殺すという点であり、しかも冒険者に見つからずにゴブリンキングに報告を行っていたとしたら非常に厄介な存在だった。
あくまでもルイとイルミナが語るのは憶測でしかないが、不思議とレナとドリスは納得してしまう。二人の推測が正しければこれまでにゴブリンキングが探索のために訪れた冒険者たちに見つからなかった理由も理解できる。だが、この憶測が正しい場合は対抗策が非常に難しい。
「暗殺者のコネコさんの気配感知でさえも気づかれないほどに巧みに気配を消すゴブリン……的としては非常に厄介な存在ですわ。大迷宮へ潜る度に常に警戒しなければなりませんし、一瞬の油断も許されません」
「シノに協力してもらって探して貰っても上手く見つかるかどうか……」
「ふむ……こうなったら残された手段は一つしかないね」
「団長、まさか二人を呼び寄せたのはあの技術を授ける気ですか?」
思い悩むレナとドリスに対してルイはイルミナに意味深な視線を向け、彼女は驚いた表情を浮かべる。いったい何の話かとレナとドリスは顔を上げると、ルイは椅子から立ち上がって真剣な表情を浮かべながら告げた。
「君たちに僕達の魔術師としての技術を教えよう。少々、きつい訓練になるかもしれないがこの技術を覚えられれば君たちはゴブリンキングを見つけ出す事が出来るかもしれない」
ルイの言葉にレナとドリスは顔を見合わせ、魔術師としての「技術」という言葉に不思議に思う。確かにこの場に存在するのは全員が魔術師ではあるが、それぞれの職業が異なる。
各々が覚える魔法の系統が異なるため、同じ魔法を扱えないのに魔術師としての技術を教えるというルイの言葉に戸惑う。ちなみにルイは「支援魔術師」イルミナは「砲撃魔導士」レナは「付与魔術師」でドリスは「初級魔術師」それぞれが全く異なる魔法の使い手だった。
「技術、ですか?それはどんな技術なんですの?」
「かつては魔術師ならば誰もが覚えていた技術だ。だが、世界各国が同盟を結び、戦争を行わなくなってから廃れた技術だよ。今の時代では一流と呼ばれる魔術師でさえも習得していない者も多い」
「この技術は本来ならば習得自体は難しい事ではありません。しかし、魔術師という存在が前線に立つ時代が終わりをつげ、今のように後方支援として活躍する時代を迎えてからは殆どの人間が扱わなくなった技術です」
「それは……どんな技術なんですか?」
二人の説明にレナとドリスは興味を惹かれ、自分たちに何を教えてくれるのかと期待と不安を抱くと、ルイは淡々と答えた。
「魔力感知、という言葉を知っているかい?」
「魔力感知……?」
「……思い出しました!!そういえば前に魔法学園の授業で習いましたわ!!」
魔力感知という言葉にレナは聞き覚えはないが、魔法学園にて魔法科の生徒として通っているドリスは過去に受けた授業で「魔力感知」に関する知識を身に付けていた。
「あの時の授業では……魔力感知とは文字通りに魔力を感じ取る魔術師だけが扱える能力のはずですわ。分かりやすく言えば暗殺者の気配感知が生物の気配を感じとる力ならば、魔術師は魔力を感じ取る力があるという事です」
「魔力を感じ取る……他人の?」
「そうだ、君たちも魔術師なら気づいているかもしれないが、我々が扱う魔力というのは言ってみれば生命力の源のような力だ。私達はこの魔力を利用して様々な現象を引き起こすことが出来る」
ルイの説明にイルミナが頷き、二人によると「魔力感知」の能力とは暗殺者の「気配感知」と似通った部分があり、暗殺者が他人の気配を感じとるならば魔術師は他人の魔力を感知する力を持つという。
魔力とは生命力の源というのがこの世界の常識のため、当然だが人種以外の生物の肉体にも魔力は存在する。それがゴブリンやオークのような魔物でも例外はなく、生物である以上はどんな存在だろうと魔力を宿しているという。
「魔力感知の技術を覚える事が出来ればどれだけ巧みに隠れていようと存在を感知する事が出来る。仮に気配感知に引っかからないほどに気配を殺せる隠密能力を持っていたとしても、魔力を消す存在はいないはずだ。なにしろ魔力とは生命力その物だからね、魔力を消すという事はその生物は死んだことを意味するんだ」
「な、なるほど……でも、そんな技術がどうして廃れてしまったんですの?」
ドリスはルイの説明を受けてそれほど素晴らしい技術が現代では誰も扱わなくなった事に疑問を抱く。そこでイルミナが代わりに説明を行う
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