第489話 探索難航

――ドリスの提案を受け入れ、レナ達は転移石で帰還を果たす。尚、帰還のさいはちゃっかりとブロックゴーレムを構成していた煉瓦の回収も行い、ムクチとゴイルの土産として持って帰った。


ブロックゴーレムを構成していた煉瓦は魔炉の素材としては最高級品であるため、鍛冶師からは非常に人気が高い。しかも再びオリハル水晶を手に入れて戻ってきたレナ対に対してルイ達は非常に驚かされる。


結果としてはゴブリンキングの発見は出来なかったが、驚異となるブロックゴーレムを倒してオリハル水晶を回収していた事に関しては大収穫だった。オリハル水晶に関しては金色の隼が一時的に預かり、今回の件が終了次第に取り扱いを話し合う事が決まった。



「そうか……ゴブリンキングは見つからなかったか」

「私達も探索は続けましたが、やはり魔物と戦い続けながらの捜索となると体力的にも精神的にも厳しく、一度引き返すしかないと判断しました。提案を帰還したのは私なので責任は私にありますわ」

「ドリス、それは違うよ!!皆で賛成したんだからドリス一人が責任を負うのは間違ってる!!」

「落ち着き給え、別に私は君たちを責めているわけじゃないさ。むしろ、無事に帰ってきてくれたことに安心してるよ」



クランハウスのルイの部屋にてレナ達は報告を行い、残念ながらゴブリンキングの討伐を果たせなかったことを告げた。だが、今回の探索でブロックゴーレムとゴブリンの亜種を倒した事は事実のため、それだけで成果としては十分である。


それにルイの方も最初の探索で都合よくゴブリンキングと遭遇できるとは考えておらず、むしろブロックゴーレムという強敵を相手に勝利したレナ達に驚く。



「まさかブロックゴーレムが再び現れるとは想定外だったけど、君たちのお陰でブロックゴーレムの脅威は取り除かれた。それにゴブリンの亜種が現れたという話も気にかかるね」

「はい、亜種は上位種よりも希少な存在……しかもゴブリンの亜種など地上でも滅多に見られません。しかも複数体も現れたのが気になります」

「ああ、こんな短い期間にブロックゴーレムが現れた事も気になる。それに知性の高いゴブリンキングが現れた事も……ただの偶然であればいいんだが」



報告を聞き終えたルイは難しい表情を浮かべ、この半年間の間に大迷宮にてブロックゴーレムが出現した事、ゴブリンの亜種が誕生した事、そして異常に知性が高く警戒心が強いゴブリンキングが現れたことが気になった。


これらの現象がただの偶然なのか、あるいは大迷宮で何か「異変」が起きているのではないかと考えるが、現状ではこの3つの件に関連性は見当たらない。だが、共通点があるとすればどれも大迷宮内で発生した事件という事である。



(大迷宮で何かが起きている……いや、考えすぎか?)



レナはルイの考えを読み取り、彼も大迷宮で何か起きているのではないかと睨んでいた。最も現状ではそれを確かめる術があるとすれば大迷宮に挑むしかなく、ルイは引き続きレナ達の調査を命じた。



「今日のところはしっかりと身体を休んで明日の探索に備えてくれ。ああ、それと……レナ君とドリス君には少し話がある。残ってもらえるかい?」

「あ、はい」

「分かりましたわ……では、約束のケーキは後で構いませんか?」

「おう、先に姉ちゃんの家に行ってるからな!!」

「すぐに戻ってくるんだぞ!!」

「……ケーキ?」



ドリスがコネコとデブリに許可を得ると、話を聞いていたルイは不思議に思うが、レナとドリスだけが残って他の者は退出すると、ルイは自分の傍に控えていたイルミナも交えて話を行う。



「ゴブリンキングは見つからなかったのは仕方がないとしても……そのゴブリン亜種というのはコネコ君の気配感知でさえも反応がなかったという話は本当かい?」

「ええ、それは本当ですわ。私も全く気づきませんでした」

「まさか死体の下に隠れているなんて思いもしませんでした」

「団長……これはやはり」

「ああ、最悪の予想が当たったのかもしれない」

「最悪の、予想……?」



二人の言葉にレナとドリスは顔を見合わせると、ルイは資料を取り出す。これまでに集めたゴブリンキングの被害者の情報がまとめられていた。資料を確認したうえでルイはイルミナにも顔を向け、説明を行う。



「ロウガの冒険者集団パーティが襲われた後、私達も含めて冒険者ギルド側もゴブリンキングの調査を行ったという話は前にしただろう?だが、結局は成果は得られずに被害者だけが増していた」

「その話は伺っていますが……それはゴブリンキングが金級冒険者を恐れ、白銀級以下の冒険者しか狙わないのが原因ではなかったのですか?」

「現状ではそれしか考えられないと思う。だが、冷静に考えてくれ?ゴブリンキングは巨体だ、そもそも隠れるのには適した肉体ではない。なのに今まで送り込まれた調査隊は何故見つけ出すことが出来なかったのか……いくら大迷宮が広大な場所とはいえ、手がかりさえ残さずに隠れる事など出来るとは思えない」

「それはまあ、確かに……」

「考えられることがあるとすればゴブリンキングは単体ではなく、配下を使って大迷宮内を把握しているという事です」



ルイとイルミナの言葉にレナとドリスは頷き、先に戦ったゴブリンキングも多数のゴブリンを従えていた事を思い出す。ならば大迷宮のゴブリンキングも自分の配下を築いていてもおかしくはない。

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