第488話 帰還か、探索か

「まさか、またこんな化け物と戦う羽目になるとは……でも、今回は意外とすんなり勝てたな」

「一度戦った相手ですし、それに私達も成長しましたわ。まあ、レナさんがいなければ危ない相手だったかもしれませんけど……」

「でも、俺一人でも絶対に勝てない相手だったよ。皆がいてくれてよかった」

「それよりもそのオリハル水晶?というのはどうするつもりかしら~?」



ヒリンはレナが取り出したオリハル水晶に視線を向け、非常に興味深く覗き込む。このオリハル水晶は伝説の魔法金属のオリハルコンの素材でもあり、加工前でも金貨数百枚の価値は存在する。


前回の時に回収したオリハル水晶は、ムクチが加工したオリハルコンのイヤリングとして競売に品に出されたが、紆余曲折経てルイの元に渡った。その際にルイは金色の隼に多額の金銭を支払ったが、結局はイチノを救うためにダリルがその金銭さえも差し出してしまった。


オリハル水晶は滅多な事では手に入らず、今現在は大迷宮にしか出現しないブロックゴーレムを倒す事でしか得られない。一時期、ブロックゴーレムを倒した事でオリハル水晶が手に入ると知った冒険者たちは煉瓦の大迷宮に殺到したが、結局はレナ達がブロックゴーレムを倒した後にオリハル水晶を手に入れたという冒険者が現れたという話は聞いていない。



「それにしてもブロックゴーレムがまだ存在した何て……正直、運がいいのか悪いのか分かりませんわ」

「こんな状況でなければ素直に喜べたのにね」

「そうだな、今回は何とか倒す事がは出来たが……余計な体力を使わせやがって、このこのっ」

「ちょ、コネコ!!死体を蹴るのは止めなさいっ!!」

「これ、死体というよりは抜け殻みたいなもんじゃないのか?」



ブロックゴーレムとの戦闘で思わぬ体力を使ってしまったレナ達だが、結果的には倒す事には成功して貴重なオリハル水晶を入手する事が出来た。だが、レナ達の目的はあくまでもゴブリンキングであってブロックゴーレムではない。


それでも希少なオリハル水晶を手に入れられた事は嬉しく、オリハル水晶に関してはレナが預かる事が決まった。最終的にブロックゴーレムを倒したのはレナであるため、帰還した後にオリハル水晶をどのように取り扱うかは後で話す事を決めてレナ達は今回は引き返すべきかを話し合う。



「ふうっ……思っていた以上に大迷宮の探索は精神的にも体力的にもきついですわね。皆さん、予定よりも早いですが一度引き返しませんか?」

「え?もう戻るのか?」

「僕はそれがいいと思うよ。ルイさんからも無理はするなと言われていたし、それにこれだけ探しても見つからないとなるとこの近くにはゴブリンキングがいないのかもしれないし……」

「あたしは反対だな、こんだけ歩き回ったのにまた戻って一から探しなおすのは面倒だし……」

「僕もコネコに賛成だな。こっちはこの日のために食いだめしてきたんだ。今の僕は力が有り余ってるからいくらでも戦えるぞ!!」

「僕は……ドリスの意見に従うよ」

「私はどっちでもいいけど~?」

「意見が分かれたか……う~ん、俺はもう少し探索した方がいいと思うけど」



話し合いの結果、ドリス、ミナ、ナオは帰還する事を提案するが、レナ、コネコ、デブリはもう少し残って探索を進める事、ヒリンの場合は中立の立場を示す。意見が半々に分かれてしまい、残って探索を進めるべきか、それとも一度帰還して態勢を整えるかを話し合う。



「御三方の気持ちは分かりますけど、ここは無理をする必要はありませんわ。ここは一度引き返して準備を整えなおしましょう」

「弱気になるなよドリスの姉ちゃん、あたしたちならこれぐらい平気だって」

「いえ、そういうわけにはいきませんわ。確かに今は動いても問題なかったとしても、何も見つからずに無意味に体力と時間を浪費すれば明日以降の探索に影響が出てしまいます。戻れるうちに戻っておいた方が賢明ですわ」

「う~ん……そういわれると戻った方がいいのかな?」

「そうね~手がかりも見つからないまま、ここに残っても仕方ないかもしれないわね~」

「何だよ、ヒリンのおねにいまで反対するのか?」

「お、おねにい……それってお姉ちゃんとお兄ちゃんを合わせたのかしら~?」

「姉ちゃんみたいな兄ちゃんだからおねにいだよ」



ヒリンはコネコの自分の呼び方に戸惑うが、話し合いの結果、やはり体力が残っているうちに引き返した方がいいという話の流れとなる。ドリスの意見は正論であるため、ヒリンも彼女の意見に賛成した以上、多数決で帰還する事が決まった。



「では、今日のところは戻りましょう。コネコさん、戻ったらコネコさんの好きなお菓子を食べさせてあげますから我慢してください」

「あたしを子供扱いするなよ!!じゃあ、この間遊びに行ったときに食べさせてくれたチーズケーキを作ってくれよ!!」

「結局食べるんじゃないか!!それなら僕はチョコレートケーキを3つだ!!」

「デブリ君も頼むの!?」

「分かりましたわ、腕によりをかけて作りましょう!!」



コネコとデブリの要求にドリスは承諾し、彼女は家に戻ったら二人の望むものを作ることを条件に帰還に賛成させた。二人が承諾した事で一人残された反対意見を貫く事も出来ず、レナも帰還に賛成せざるを得なかった。

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