第486話 探索再開

「それよりも……このゴブリンの亜種達は何だったんでしょう。死体に紛れて奇襲を仕掛けるなんて、普通のゴブリンではありませんわ」

「体格はゴブリンと変わりないけど、強さ自体はホブゴブリンにも匹敵すると思う。それに人間との戦闘も慣れていた気がする」

「確かに普通のゴブリンよりも厄介な奴らだったな。だけど、修行した僕の敵じゃなかったけどな!!」



鼻息を鳴らしてデブリは倒したゴブリンの死骸に視線を向け、普通のゴブリンよりも厄介な相手であったのは認めるが、それでも今のレナ達の敵ではない。だが、これがもしも普通の冒険者ならば苦戦を強いられていただろう。


ゴブリン亜種の戦闘力はイチノを襲撃したホブゴブリンに匹敵、あるいはそれ以上の力を誇る。もしも修行を行う前のレナ達が対峙していたら今回のように上手く勝利できたとは限らない。実際にこの広場に存在するコボルトやオーク、そしてレナが遭遇したトロールを殺したのは彼等で間違いはない。



「魔物の中でも最弱と呼ばれているゴブリンがオークやトロールを殺すなんて……とは言えませんわね。ここは大迷宮、私達の常識が通る場所ではありませんわ」

「ここから先はこんな奴らも警戒して先に進まないといけないのか……」

「くそっ、こんな奴らにも気づけなかったなんて……あたしの気配感知もまだまだだな」

「でも~ここから先はどうしましょうか~?」

「ともかく、先に進もう。ここに留まっても仕方ないし……一応は素材を回収しておこう」



倒したゴブリン亜種の死体を解体し、大迷宮に吸収される前に素材の回収を行う。用心のために帰還後にゴブリン亜種の件もルイに知らせる必要があり、早急に素材の回収を行うとレナ達は探索を再開した――






――そこから先は特に何事もなく迷宮内の探索を続け、何度か魔物と対峙したが結局は現れたのはコボルトやファングといった魔物だけであり、ゴブリン亜種やゴブリンキングとは遭遇する事はなかった。


探索を開始してから1時間が経過した頃、流石に休憩を挟むべきだと判断したレナ達は食事を行う。二人が見張りを行い、その間に他の人間が食事を取る。



「ふうっ……大分歩き回ったと思うけど、ゴブリンキングの手がかりもないか」

「仕方ありませんわ。草原や荒野と違い、この大迷宮は正に迷宮……迷路という構造上、目当ての存在を見つけ出すのも難しいのは仕方ありません」

「でも~いつまでも見つからなかったら困りますわね~」

「そうだな……ここ、気が休まる暇もないからきついぞ」



荒野の大迷宮の経験者でもあるコネコですらも煉瓦の大迷宮は辛く、常に敵に備えて警戒を続けるのは精神的にも肉体的にも負荷は大きい。だが、ここで諦めるわけにはいかず、レナは休憩を終えると探索の再開を行おうとした。



「よし、そろそろ出発しようか」

「はあっ……食休みも取れないのはきついな」

「ほらほら、いくぞあんちゃん……ん?」



休憩を終えて全員が立ち上がろうとしたとき、コネコは何かに気づいたように視線を振り返り、そんな彼女を見てミナは不思議に思う。



「どうしたのコネコちゃん?」

「いや、あっちの角から一瞬だけ気配がしたような気がして……」

「何!?魔物かっ!?」

「でも、すぐに消えちまったよ。気のせいかな……」

「……念のために確認しておきましょう」



コネコの言葉が気になったレナ達は曲がり角に移動すると、緊張しながらも角を覗き込む。だが、その先は行き止まりの通路が存在するだけであり、特に魔物の気配はなかった。



「なんだ、誰もいないじゃないか……驚かせるなよコネコ」

「ごめんな、あんちゃん……でも、本当に何か感じた気がしたんだけどな」

「……ちょっと待ってください、この通路は僕たちが通った道じゃないですか?」

「えっ……あ、本当だ。確かにここを通ったよね、僕たち……?」



ナオの疑問にミナはすぐに自分たちが休憩前に通りぬけた通路だと気づき、それなのにどうして通路が行き止まりになっているのか疑問を抱く。そしてレナ達は嫌な予感を覚え、行き止まりの壁に視線を向ける。


レナは現在の状況にデジャヴを覚え、前にも同じような体験をしたような気がする。一番最初にこの煉瓦の大迷宮に訪れた時、似たような状況に出くわした事を思い出す。



「……ちょっと待ってください、あそこに壁だけ何故か小さくないですか?」

「小さい、というよりは壁の大きさがあっていないような……」

「3、4メートルぐらいの高さしかありませんわね……」

「何か、凄く嫌な予感がしてきたんだけど……」

「あらあら~?どうしたのかしら~?何かあの壁が気になるの~?」



レナ達の反応にヒリンは不思議そうに首をかしげるが、唐突に出現した通路を塞ぐ不自然な壁に対してレナ達は嫌な予感に駆られる。過去に大迷宮に訪れた時もレナ達は同じような経験をしており、その時はとんでもなく厄介な相手と戦わされた。





――そして話をしている間にも行き止まりの壁から人面のような窪みが出現すると、壁が震え始め、やがて通路を塞いでいた壁が人型の巨大な物体へと変化をしようとしていた。それを見たレナ達は真っ先に戦闘態勢へと入り、この状況で現れた「ブロックゴーレム」と向かいあう。

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