第485話 魔石と魔法拳

「来いよ、相手にしてやる」

『ギギィッ!!』



挑発されたと判断した3体のゴブリンはレナに向けて同時に飛び掛かり、手にしていた武器を振りかざす。彼らが所持しているのは魔獣から回収した牙と骨を組み合わせた「手槍」であり、三方向から同時に突き出す。


だが、レナは槍が自分の身体に触れる前に闘拳を装備した右手を構えると、事前に握りしめていた「雷属性の魔石」を握りしめる。そして槍が届く前に付与魔法を発動させるのと同時に魔石を砕いた。




「――三重強化トリプル!!」

『ギィアアアアッ!?』




手槍が触れる前にレナが差し出した右腕の闘拳から電流が迸ると、レナを取り囲んでいたゴブリン達の身体に電流が襲い掛かる。その結果、ゴブリン達は黒焦げと化し、床に倒れこむ。


その様子を確認しながらもレナは右腕に視線を向け、魔石を破壊した瞬間に発言した電流を闘拳に纏わせ、雷属性と地属性の魔法拳を完成させた。重力によって電流が螺旋の軌道を描きながら闘拳に纏いつき、その様子を確認したレナは拳を開いて砕け散った魔石の残骸を確認する。



「ふうっ……成功か」

「ちょちょ、何だよ兄ちゃんそれ!?」

「今のドリスさんの力を借りずに魔法拳を発動させたの!?」



最後のゴブリンを倒したレナの姿を見て他の者たちは驚き、見事に闘拳に雷属性の魔力を纏わせたレナの元に集まる。レナは皆に見られながらも闘拳に抑えた電流が暴発しないように気を付けながら説明を行う。



「うん、実は色々と訓練した結果、他の人に魔法を施してもらわなくても魔法拳を発動させる手段が見つかったんだ」

「ど、どうやってだ!?お前は地属性しか適性がないと言ってたじゃないか!?」

「これを使ったんだよ」



驚くデブリにレナは魔石の残骸を見せつけるが、既に砕かれた時に蓄積させていた魔力を解放した魔石は硝子の破片のように色を失っていた。この状態では最早何の使い道もなく、少し力を入れるだけで簡単に砕けてしまう。



「これは雷属性の魔石だよ。これを使って俺は雷属性の魔法拳を発動する事に成功したんだ」

「ま、魔石?いや、でも魔石を使っても適性がなければ魔法は使えないだろ?」

「レナさんの場合は魔法の補助として魔石を使用したのではなく、魔石を破壊する事で強制的に内部に蓄積されていた魔力を解放したのですわ」

「解放!?でも、そんな事をして大丈夫なの?」



事情を知っているドリスの話にミナは不安そうな表情を浮かべ、魔石を砕けばどのような事が起きるのかはこの場の誰もが知っていた。




――各属性の魔力を蓄積する魔石と呼ばれる鉱石は魔術師や一般人を支える素晴らしい力を秘めた素材である。だが、取り扱いに気を付けなければ大惨事を引き起こす危険な代物でもあった。




例えば火属性の魔石や雷属性の魔石が何らかの表紙で壊れた場合、一気に内部に蓄積されている魔力が暴発して「火炎」や「電流」を発散してしまう。過去に火属性の魔石の取り扱いを間違えた人間が魔石を壊したときに発生した火災で焼け死んだという前例も存在する。


実際にレナが扱っている「魔石弾」に関しても元々は高純度の地属性の魔力を秘めた魔石を弾丸状に削り取った代物に過ぎず、この弾丸が対象に触れて破壊する事で強烈な重力の衝撃波を生み出して相手を吹き飛ばす道具だった。なので魔石が破壊する行為自体は非常に危険な事であるのは間違いない。だが、その事を承知した上でレナは魔石を破壊しても大丈夫な装備を整え、訓練も行っていた。



「俺の身に着けている闘拳はアダマンタイト……つまりは世界で一番硬くて耐久力も高い魔法金属で構成されているからね。だから並大抵の事では壊れる事もないし、魔法に対する耐性もミスリルやヒヒイロカネも高いから魔石を砕いたとしても俺には影響はないんだよ」

「そ、そういえば前にもそんなことを言っていたな……」

「でも、魔石を壊して魔法拳を発動させるなんて……本当に危険はないの?」

「そうだね……強いて言うとすれば、魔石をいちいち破壊しないとならないから繰り返して使えない。つまり、魔法拳を発動するには毎回魔石を失う事になるのが難点かな」

「魔石って……安い奴でも結構高いんだろ?」

「うん、だから今回はそんなに用意する事は出来なかったよ」



レナは腰に取り付けた小袋を開き、中身を見せつけると火属性、雷属性、水属性の小さな魔石が3つだけ入っていた。今回のために用意した代物であり、この3つの魔石を使い切るとレナは魔法拳を自力では発動できなくなる。



「一度使った魔石はもう使えなくなるのは難点だけど、その代わりに発動させた魔法拳は簡単には消えないんだよ。こんな小さな魔石でも付与魔法を維持し続ければ30分ぐらいは持つよ」

「そうだったんですか……ですが、戦闘の度に魔法拳を使用していたら」

「当然、破産だね……今の時点でダリルさんに無理して買ってもらった物だしね」

「強力な攻撃方法を思いついたというのに……世知辛いですわね」



魔石を戻したレナはため息を吐き出し、残念だが魔石を使用した魔法拳は控えなければならず、折角新しく覚えた魔法拳も多様は期待できそうになかった。

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