第479話 それぞれの修行

――ナオがロウガから指導を受けることを約束した頃、デブリの方はダンゾウに稽古を付けてもらっていた。彼の弟子であるジャイに協力してもらい、彼はジャイが支える巨大な砂袋に体当たりを行う。この稽古は本来は巨人族専用の稽古なのだが、デブリは人間でありながらもダンゾウの許可を得て励む。



「どすこいっ!!」

「ぐうっ……うわっ!?」

「ジャイ!!その程度で倒れるな!!これはお前の鍛錬でもあるんだぞ!!」

「く、くそっ……チビの癖にやるじゃねえか」

「まだまだ……!!」



デブリの突進の威力にジャイは衝撃を受けきれずに転倒してしまい、その度にダンゾウが叱りつける。一方で頑丈な砂袋に体当たりを何度も行うデブリの方も疲労が蓄積しており、大量の汗を掻く。


ジャイが立ち上がって砂袋を構えるとデブリは突撃し、既に30回近くも砂袋に体当たりを仕掛けていた。その様子を見ながらダンゾウはデブリの様子を伺い、彼の勢いが最初の頃と比べると弱っている事に気づいて怒鳴りつける。



「ぐあっ!?」

「どうしたデブリ!!この程度でもう疲れたのか、お前はその程度か!!」

「ううっ……まだだぁっ!!」

「だ、ダンゾウさん……こいつは少し、休憩させた方が……」

「甘ったれるな!!この程度の鍛錬でへばるような軟弱者は金色の隼にはいらん!!この程度の鍛錬でへこたれるような男が前衛を務められん!!」



ジャイとデブリが鍛錬を開始してから既に相当な時間が経過しており、体当たりの特訓以外にも既に二人は相当な運動を行っていた。それでもダンゾウは一切休憩を与えず、気合と根性で乗り越えるように促す。


ダンゾウも二人が限界を迎えようとしている事は承知しているが、ここで甘やかすわけには行かず、自分の胸元を強く叩く。それだけの行為で轟音と振動が周囲に響き、ダンゾウは険しい表情を浮かべて怒鳴りつける。



「俺たちのような戦闘職の中でも「力」に特化した称号を授かった者の役割は一つ!!前衛として仲間を守り、同時に敵を圧倒する存在であり続けなければならん!!仲間を守りながらも敵を屠る圧倒的な力を身に着けろ!!」

「力……」

「人間だろうと巨人だろうと関係ない、男として生まれたのならば仲間を守り、敵を打ち破り、大業を成す漢になれ!!」

「「うおおおおっ!!」」



デブリとジャイはダンゾウの言葉に疲労が蓄積されている身体に活を入れて立ち上がり、特訓に励む。その若者たちの姿にダンゾウは頷き、自分が若かりし頃に受けていた鍛錬を課す――





―――その一方でミナとコネコの方はカツの元で指導を受け、二人はカツを相手に戦い続けていた。カツは武器を持たずに二人の前に立ちはだかり、手招きを行う。



『どうしたお嬢ちゃん?この程度でなのか?』

「くっ……舐めんなっ!!」

「このぉっ!!」

『おっと、危ない』



カツに対してミナは槍を突き刺そうとするが、そんな彼女の槍をカツは片手で柄の部分を掴んで止める。凄まじい握力にミナの槍は掴まれたままびくとも動かず、ミナは必死に引き寄せようとするが逆にカツが腕を動かして槍を掴むミナを放り投げた。


コネコは咄嗟にカツの元に駆けつけ、彼の脛の部分に踵を叩きつける。だが、全身を甲冑で包み込んでいるカツに対して打撃は効果が薄く、逆にコネコが踵を痛めてその場で足を抑えて涙目になる。



「きゃあっ!?」

「いったぁあっ!?あ、足がぁっ……!?」

『おっ?今、何かしたのか……?』

「こ、コネコちゃんっ……く、螺旋槍!!」



ミナは地面に叩きつけられ、コネコも踵を抑える。その様子を見てカツは呆れたように声を上げるが、ミナは諦めずに痛む身体で立ち上がると、自分の得意とする戦技を放つ。だが、迫りくる槍に対してカツは両手を振りかざすと、正面から受け止めた。



『ふんっ!!』

「そ、そんなっ!?」

「止められたっ!?」



槍その物を高速回転させる事で貫通力を増したミナの槍に対し、あろうことかカツは両手で柄の部分を挟んで抑えつける事で回転を止める。流石に腕が痺れたのかカツは槍を手放すときは手のひらを振るが、ミナが絶対の自信を持つ戦技が破られた事に変わりはない。


彼女の扱う螺旋槍はミナの母親の家系に伝わる必殺の戦技であり、普通の槍騎士では到底扱えない戦技である。彼女の家系の人間の中でも螺旋槍を扱えるのは現時点ではミナとあと一人だけなのだが、その戦技をカツはあろうことか力業で防いだ。



『いてて……中々の技だな。だが、あの坊主の攻撃と比べたらどうってことはないな』

「くっ……」

「くそっ……」

『まあ、そう落ち込むなよ。俺を相手にここまで粘る奴は久しぶりだ、お前らはまあまあ強いよ』



カツは久々に自分を相手にして中々倒れない二人を褒めたたえるが、彼に慰めの言葉を掛けられる方が逆にミナとコネコのプライドが傷つけられ、何としても見返してやりたいという思いを抱く。



(この野郎、絶対にぶっ倒してやる……!!)

(この人、本当に強い……けど、こんな人にレナ君は一人で挑んで負けなかったんだ!!)



コネコとミナはカツと向き直り、まだ戦えることを示すために身構える。そんな二人に対してカツは嬉しそうに両腕を広げて迎え入れた。



『おっ?まだまだ動けるか?じゃあ、俺をもっと楽しませろ!!』

「その余裕……すぐに吹っ飛ばしてやる!!」

「はああっ!!」



カツに対してミナとコネコは全力で挑み、試合と呼ぶにはあまりにも気迫がある二人にカツも手加減しながらも受け止めた。





――こうして三日間ほど、レナ達はそれぞれの修行を行い、そして遂にゴブリンキングの討伐の準備を整えて煉瓦の大迷宮に挑む日が訪れた。

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