第478話 お前に託す

「ロウガさん……僕はロウガさんの仇を討ちたい理由の半分はロウガさんのためです。だけど、もう半分の理由は僕自身のためなんです」

「お前自身のため……?」

「僕は強くなりたい、そのためにはロウガさんの力が必要なんです……だから貴方の技を教えてもらいたい。その代わりに僕は貴方の仲間の仇を討ちたいと思っています」

「……なるほど、つまりは俺を利用しようとしているわけか」

「はい、そう捉えられても仕方ありません」



ナオの言葉を聞いてロウガは苦笑いを浮かべ、馬鹿正直に自分の内心を晒した彼女に呆れてしまう。ナオの行為は人の弱みに付け込む事に等しく、決して善意だけの行動とは言えない。


だが、ここまで戦ってきたロウガだからこそナオの才能は痛いほどに分かり、戦闘技術は粗削りではあるが、彼女と同じ年齢の頃だったロウガとは比べ物にならない強さを誇っていた。



(……こいつなら、もしかしたら)



ロウガは自分よりも才能があり、そして復讐とはいえ、強くなるためならばどんな手を使うという強い信念を感じた。その姿は黄金級冒険者を目指していた自分自身の姿と重なり、ロウガは考え込んだ末にナオに語り掛ける。



「……いいだろう、そこまで言うなら俺の技を叩きこんでやる」

「ほ、本当ですか!?」

「但し、これは交換条件だ!!お前には俺の足技を全部教えてやる代わりに、お前も俺の夢を果たせ!!」

「ロウガさんの……夢?」

「……黄金級冒険者だ」



ナオはロウガの言葉を聞いて目を見開き、彼は自分に黄金級冒険者を目指せと言っていることを悟った。しかし、その夢を果たすのはナオの復讐を果たす事と同じく困難な道のりであり、闘脚と呼ばれたロウガでさえも果たせなかった悲願でもあった。



「お前に俺の技を教えてやる条件はお前がいつか必ず黄金級冒険者になれ!!言っておくが、もしもこの条件を果たせなかったら俺がお前を必ずぶっ殺す!!いいか、これは取引だ!!俺の足技でお前は強くさせる、その代わりに俺の果たせなかった夢を果たせ!!」

「僕が……黄金級冒険者に」



黄金級冒険者を目指す、それはどれほど困難な道のりなのかナオは想像さえできず、そもそも格闘家系統の職業の人間が黄金級冒険者になったという前例は殆ど存在しない。これまでの歴史上でもせいぜい2、3人しかいない。


だが、ロウガは本気でナオがこの条件を引き受けなければ技を教えるつもりはなかった。自分が果たせなかった夢を彼女に代わりに果たすように促す。



「さあ、どうする!?お前の覚悟を見せてみろ!!俺を超えて黄金級冒険者に昇格する自信はあるのか!?」

「自信は……ありません。だけど……僕は強くなりたい」

「なら俺の条件を引き入れる覚悟はあるのか!!」

「……はい!!僕は強くなる、強くなって……貴方を超えて見せます!!」



ナオがきっぱりと自分を超えると発言した事にロウガは黙り込み、やがて口元に笑みを浮かべた。



「いいだろう、ならまずはゴブリンキングを倒してみせろ。俺の最高の技を叩きこんでやる」

「は、はい!!よろしくお願いします!!」

「だが……まずはクランハウスの掃除を手伝ってくれ。俺一人でやるとなると1日がすぐに終わっちまう。そうなるとお前の鍛錬の指導どころじゃないんだよ」

「ええっ……」



ロウガの言葉にナオは自分の弟子入りを認めてくれた喜んだが、そんな彼女に対してロウガは神妙な表情を浮かべながら掃除用具を取り出す。先日の試験の罰でロウガは一週間の掃除を命じられており、その掃除の途中であることを告げてナオに手伝うように願った――






※今回はここまでです。明日以降は他の仲間たちの修行も描きます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る