第475話 魔石

「あれ……ドリスさんの魔法腕輪、なんか色が変わっていない?」

「ええ、そうですわ!!やっと気づいてくれましたね、実を言えば魔法腕輪を新調しましたの!!」



ドリスはレナが魔法腕輪を指摘すると嬉しそうに自分の腕輪を摩り、今まで彼女が身に着けていたのは銀色の腕輪だったが、いつの間にか赤色に輝く魔法腕輪に取り換えられていた。



「この腕輪は母が私のために用意してくれた物です。イチノから無事に戻ってきたときに渡された代物ですの。ちなみに設計は母が自ら手掛けてアリス商会の専属鍛冶師に制作を依頼した代物ですわ!!」

「へえ、そうだったんだ……うん、ドリスさんはやっぱり赤色が似合うね」

「あ、ありがとうございます。そう素直に褒められると照れますわね……前に使っていたのは父様が渡してくれた魔法腕輪だったので気に入ってましたが、やはり今後の戦闘を考えるともっと頑丈で魔石が簡単に外れないように魔法腕輪を身に着けた方がいいと言われましたの」

「確かに魔石がなければ俺たち魔術師は碌な魔法も発動できないからな……」

「ううっ……僕も杖がないと落ち着きませんからわかります」



魔術師の殆どの人間は魔石を装着した武器か防具を身に着けており、魔石という存在は魔術師にとってはなくてはならない代物である。理由としては魔石のありなしでは魔法の発動の際に掛かる身体の負担が大きく違う。




――魔石とはそもそも何なのか、答えはこの世界の自然環境で生まれた奇跡の鉱石であり、魔術師以外の人々にも重要な存在である。この世界では魔石を利用して人々の生活が成り立っているといえる。




例えば一般人の場合でも彼らは魔石を扱う力は持たないが、魔道具の類を使えば彼らでも魔石の力を使いこなすことが出来る。例としては調理の際に火を使うときは火属性の魔石を利用して火を生み出したり、あるいは飲み水や風呂に水を入れるときは水属性の魔石を扱う。


魔石にも様々な種類が存在し、それらを使い分けて人々は生活している。だが、最も魔石を有効活用しているのは誰かといわれると、やはり魔術師であるのは間違いない。




付与魔法や初級魔法を除き、殆どの魔法は魔石の補助がなければ発動する事さえも難しい。特に砲撃魔法のような高威力の魔法は魔力の消耗量も大きく、もしも魔石の力を借りずに発揮させようとすれば体内の魔力を一気に奪われ、場合によっては死に至る可能性も高く、実際に過去に自力で魔法を発動させようとした魔術師が死んだという事故もあった。


レナのような付与魔術師の場合は魔石の力を借りずとも魔法の力を行使できるが、そのレナ自身も魔石の力を借りなければ付与魔法の維持はできない。ドリスも場合も同様で彼女の扱う初級魔法は魔石の力を借りなければ真の効果は発揮できない。正に魔術師にとっては魔石とは剣士にとっての剣、武士にとっての刀に等しい存在と言える。





極端に言ってしまえば魔石を真の意味で使いこなせるのは魔術師を置いて他に存在せず、彼らは魔石を扱う事で強大な力を持つ魔物にも対抗できる。実際に火竜のような圧倒的な存在を相手にする場合、剣を持った剣士よりも魔石を身に着けた魔術師の方が対抗する力を持っているだろう。



(……魔石?)



レナはドリスが身に着けている腕輪に視線を向け、彼女が装着している魔石はドリスが現時点で扱える「風属性」「火属性」「水属性」の3つである事を知る。普段からドリスはこの魔石の力を借りて魔法を発揮しており、レナも地属性の魔石を装備に装着していた。


だが、ここでレナはドリスの魔法腕輪に取り付けられいる3つの魔石に視線を向け、不意に何かが思いつきそうになった。地属性しか適性がないレナだが、もしかしたら魔石を使えば一人の時でも魔法拳を扱う方法があるのではないかと思いつく。



「あっ……!?」

「ん?」

「……おい、急にどうした?」

「レナさん?」



いきなり声を上げたレナに他の3人は不思議そうな表情を浮かべると、レナは自分の思いついた方法を試すため、駄目元で3人に相談を行う。



「あの……良かったらだけど、もしも余っている魔石があったら分けてくれない?tもちろん、お金は払うからさ――」






――同時刻、クランハウスの方ではナオは訓練場にてロウガと向き合い、彼女は全身から汗を流しながらロウガと向き合う。そんな彼女に対してロウガも息を荒げながらも笑みを浮かべた。



「どうした、その程度でもうへばったのか……そんな事で俺の代わりにゴブリンキングの仇を討つなんてよく言えたな」

「くっ……ま、まだまだ!!」

「ふんっ!!」



ナオはロウガに向けて駆け出すと拳を振りかざすが、そんな彼女に対してロウガは義足ではない足を振りかざし、適格にナオの鳩尾を貫く。



「ぐふっ!?」

「おらぁっ!!」



ロウガは渾身の力を籠めるとナオの体を吹き飛ばし、そのまま彼女は地面に転がり込む。片足が義足の状態でありながら、凄まじい蹴りを放つロウガに対してナオは戦慄した。

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