第474話 魔法拳の弱点

「くっ……思ったよりも魔力を制御するのが難しいな」

「ううっ……ぼ、僕の魔法を二度も取り込むなんて……」

「おい、ヘンリー!!暴走するんじゃねえぞ!?ほら、飴玉をやるから大人しくしろ!!」

「わぁいっ!!」

「子供みたいな方ですわね……」



魔術師としてのプライドが傷つけられたのかヘンリーは涙目でぐずり始め、それを見たブランが慌てて飴玉を渡して落ち着かせる。ヘンリーは精神が追いつめられると暴走してしまう癖があり、対抗戦でレナに負けた時は学園を火の海に変えようとした。


精神が追いつめられたときのヘンリーの対処は甘いものを渡すしか方法はなく、彼の好物を渡せば落ち着いてくれる。ちなみに彼が今までに魔術師との戦闘で敗北したときは取り乱して泣き叫んで周囲の被害を考えずに魔法を暴走させようとしたからであり、そのせいで相手がヘンリーをなだめるために敗北を認めるしかない事態も多かった。


だが、精神面はともかく、ヘンリーの腕前自体は年齢の割には高いのは間違いなく、そんなヘンリーの砲撃魔法を受けて吸収する事に成功したレナは試しに腕を伸ばして拳を突き出す。



「ふんっ!!」



拳を振りぬく旅に籠手に纏った電流が迸り、闘拳でなくとも身に着ける防具に付与魔法を施せば魔法を取り込む事も可能だと証明された。だが、さきほどのヘンリーの砲撃魔法は威力は高いといってもあくまでも下級の砲撃魔法にしか過ぎず、そもそもレナは全ての電撃を籠手に取り込んだわけではない。



(攻撃を受けた時、電撃を全て吸収したようには思えなかった。確かに魔法を取り込む事ができたけど、もしかしたら取り込める魔法の力には限界があるのかも……)



電流を帯びた籠手を確認しながらレナは今後は付与魔法で他の人間の魔法を受けるときに注意することを決めると、完全にヘンリーの魔法が切れる前に籠手に帯びた電撃を開放することにした。



衝撃解放インパクト!!」

「うおっ!?」

「か、格好いいですわ!!」

「凄い……(ペロペロ)」



レナは籠手を伸ばした状態で付与魔法の魔力を発散させた瞬間、籠手に纏っていた電撃が前方に向けて放たれ、傍から見た人間にはレナがまるで左腕から直接雷属性の魔法を放ったようにしか見えない。


通常、砲撃魔導士は魔法を発動させる際は杖や魔法指輪などの魔道具を使わなければならず、あのマドウやサブでさえも魔法を発動するときは魔石の力を頼りにしている。自分の魔力だけで魔法を発動できないわけではないが、その場合だと砲撃魔法は高い威力と引き換えに相当量の魔力を消耗するのですぐに魔力切れを起こしてしまう。


魔石の補助がなければどんなに凄い砲撃魔導士だろうと砲撃魔法の真の力は引き出せない。しかし、レナの場合は相手の魔法を取り込み、まるで素手から砲撃魔法を放つように反撃が出来るようになった。



(凄い……魔法拳か、気に入った!!)



今まで自分が地属性以外の魔法を扱える日が来るはずがないと思い込んでいたレナだが、魔法拳ならば他人の魔力を吸収し、あたかも自分が砲撃魔導士のように他の属性の魔力の攻撃を行えると知って興奮する。その一方でレナは魔法拳の弱点にも気づく。



(あ、でもこれって……他の人の協力がないと発動する事もできないか)



レナの魔法拳はあくまでも他人の攻撃魔法を利用しなければ発動さえもできず、常に誰かの力を借りなければならない。ドリスが傍にいればいつでも彼女が扱える属性の魔法を取り込んで魔法拳を発揮できるだろうが、それだとドリスに負担をかけてしまう。


強力な技を覚えたと思ったレナだが、あくまでも魔法拳は他の人間の協力がなければ発動すらできない技術であり、単独では使用できないという致命的な弱点も存在した。もちろん、冒険者集団(パーティ)で行動しているときはドリスが参加しているので問題はないが、他のメンツは全員が戦闘職なので魔法拳の発動の援護はできない。



(魔法拳を使うとなるとドリスさんに頼りっぱなしになるな……でも、戦闘中に毎回ドリスさんに魔法拳の発動を手伝ってもらうのは悪いし、いろいろと問題があるかもしれない)



ドリスが傍にいればレナはいつでも魔法拳は発動できるのだが、戦闘中となるとドリスは後方支援、レナの場合は他の皆と接近して戦うことが多い。魔銃を使用して戦う事もあるが、魔銃は貫通力と弾丸の速度が高すぎるので仲間たちが前に出て戦っていると魔銃を使うことは難しい。



(この弱点さえ改善できればこれまで以上に戦えると思うんだけどな……何かいい方法はないかな)



魔法拳の実験を進めるうちにレナの研究意欲が高まり、より魔法拳の真価を発揮するにはどうすればいいのかと考える。ドリスに迷惑をかけず、自分ひとりの時でも魔法拳を発動させる方法を考えたレナは不意にドリスの装備している魔法腕輪のデザインが変化していることに気づく。

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