第473話 魔拳士

「黒炎!!」

「ぐっ!?」

「レナさん!?大丈夫ですの!?」



ブランは両手を重ねると闇属性と火属性の初級魔法を同時に発動させ、黒色の炎を放つ。ドリスの扱う「火炎槍」が直線に放たれる炎に対し、ブランの場合は火炎放射器のように広範囲へと放たれる。だが、今回は出力を調整したブランの攻撃はレナの闘拳のみに衝突した。


今まではあらゆる属性の魔法を瞬時に取り込んだレナの闘拳だが、腕に黒炎が纏った瞬間にレナは熱気に襲われ、闘拳に黒炎が渦巻く。あまりの熱気にレナは意識を奪われそうにいなるが、どうにか黒炎を操ろうとする。



(なんて火力だ……このままだと暴発しそうだ。だけど、負けるか!!)



闘拳に纏わりついた黒炎の熱気によって闘拳が過熱してレナは火傷を負いそうになるが、意地でも黒炎を取り込むためにレナは更に付与魔法を重ね掛けした。



三重強化トリプル!!」

「うおっ!?」

「す、凄い!!」

「成功しましたの!?」



闘拳に更に付与魔法の力を封じ込めた瞬間、地属性の魔力が強化されて黒炎を完全に取り込む。その結果、火傷しそうなほどに発熱していたはずの闘拳から熱が引き、闘拳の周囲に螺旋の軌道を描きながら黒炎が渦巻く。


先ほどまでは闘拳に直に纏わりついていた黒炎だったが、現在は闘拳の放つ地属性の魔力に取り込まれ、完全に支配化する事が出来たらしい。レナは黒炎を纏った自分の右腕に視線を向け、遂に単体の魔法だけではなく、合成魔術さえも取り込む事が出来る事が証明された。



(やった……やっぱり、魔力を高めておくと威力の高い魔法も受け入れる事が出来るんだ)



最初の「二重強化ダブル」の時は黒炎を取り込む所か危うく暴発しそうになったが「三重強化トリプル」に切り替えた瞬間に黒炎の制御に成功した事にレナは喜び、同時に前方に視線を向ける。そこには誰もいない事を確認するとレナは拳を引き、闘拳に付与した「地属性」と「黒炎」を一気に解放した。



衝撃解放インパクト!!」

「きゃあっ!?」

「な、何だと!?」

「あっついっ!?」



前方にレナが拳を振りぬいた瞬間、闘拳に纏わりついていた黒炎が衝撃波と共に放たれ、前方へと拡散した。飛距離はせいぜい10メートル程度だが、黒炎と衝撃波によって地面は抉れ、中級の砲撃魔法に匹敵する威力は誇った。


魔法を取り込むだけではなく、攻撃にも利用する事が出来るのは既に確認済みだが、やはりというべきか取り込んだ魔法の威力が高い程にレナの「衝撃解放」の威力も上昇していた。この事からレナは相手の魔法を取り込むだけではなく、反撃にも利用できる事を改めて思い知る。



「ヘンリー君、今度は砲撃魔法を試したいからその位置で俺に撃ってくれる?」

「ええっ!?ぼ、僕の砲撃魔法はブラン君の合成魔術とは威力が段違いですよ!?」

「喧嘩売ってんのかてめえは!?」



ブランの黒炎を取り込んだ事もあり、レナは炎の衝撃波によって抉れた地面を見て後で地属性の付与魔法で地面を整地しておく事を心に決める。この調子で次はヘンリーに協力してもらうため、彼にレナは頼む。


レナの発言にヘンリーは戸惑うが、彼は気弱な割には自分の強さには自信を持っており、実際に口だけではなくサブの弟子達の中でも彼の魔術師の才能は飛びぬけている。だからこそ実験の相手には相応しく、レナは今度は左手の籠手に視線を向けた。



(今度は闘拳以外の物で魔法を取り込めるのかも調べないとな……失敗したらただじゃすまなさそうだけど、やるしかない)



魔法拳の実験のためにレナは今度はヘンリーに砲撃魔法を頼み、その場で構える。そんなレナにヘンリーは戸惑いながらも杖を構えると、最後に確認を行う。



「じゃ、じゃあ……行きますよ!?」

「こいっ!!」

「どうなっても知りませんからね……サンダーランス!!」



ヘンリーの杖に取りつけられている雷属性の魔石から電流が迸り、それを見たレナは瞬時に左手の籠手に三重強化(トリプル)を発動させ、左手で身を防ぐ。その結果、レナに放たれた雷属性の砲撃魔法はレナに的中すると、籠手に吸収されるかのように電撃が消えさる。



「ぐぅうっ……!?」

「レナさん!!大丈夫ですの!?」

「ほ、本当に吸収した……のか?」

「そ、そんな……僕の魔法まで取り込むなんて信じられない……!?」



ブランの黒炎ばかりではなく、今度はヘンリーの魔法さえも取り込んだレナに3人は驚くが、一方で籠手に抑え込んだ電撃に対してレナは意識を集中させ、どうにか抑えこむ。下級の砲撃魔法とはいえ、ヘンリーのような実力者が放つ砲撃魔法の威力は高く、少しでも集中力を乱すと抑え込んだ雷属性の魔力が弾けそうだった。

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