第472話 「反発」から「反転」
「あっ、良かった。闇属性の魔法も取り込むことが出来るんだ」
「な、何だと!?そんな馬鹿なっ……」
レナは自分の闘拳に纏った「黒霧」を見せつけると、ブランは衝撃を受けた表情を浮かべた。まさか自分の魔法が本当に取り込まれるなど思ってもいなかったのだろうが、実際に目の前で闘拳の周囲に螺旋の軌道を描きながら纏う黒霧を見せつけられれば認めるしかない。
しかも取り込まれたのは闘拳の箇所に触れた黒霧だけでなく、レナの肩の部分にまとまりついていた黒霧の方も闘拳を少し近付いただけで取り込まれてしまう。その様子を見てブランは完全に自分の魔法が取り込まれた事を理解して引きつった表情を浮かべる。
「ふ、ふんっ……単発の俺の初級魔法を取り込んだつもりでいい気になるなよ。俺の初級魔法は合成魔術でこそ真価を発揮するんだ。いくらお前の付与魔法が他の魔法を取り込むといっても、俺の黒炎までは取り込めないはずだ!!」
「そうですわね、なら今度はブランさんの黒炎を試してみましょう」
「えっ!?」
「あ、ちょっと待って……今、付与させている魔力を解放するから」
ブランの発言を聞いてドリスが彼の提案を受け入れるようにレナに促すと、レナはまずは先に自分の闘拳に纏った闇属性の魔法を解除するために掌を構えた。
反発の応用で闘拳に付与した地属性の魔力を解放させようとした時、不意にレナは相手の攻撃を取り込み、逆に自分の意思で返す事が出来るので新しい技名を思いついた。
「よし……反転」
「わあっ!?」
掌を突き出して付与魔法を解除させた瞬間、衝撃波と共に黒霧が前方に向けて拡散し、辺り一面に広がる。まるで煙幕のように前方の方向に拡散した黒霧を見てブランは唖然とするが、すぐに気に入らなそうに自分の魔法を簡単に放出したレナに振り返る。
「ちっ……本当に俺の闇夜の魔法を取り込んで自分の攻撃に利用できるのか」
「これで風、火、水、雷、そして闇属性の魔法をレナさんは取り込める事が発覚しましたわね」
「す、凄いですね!!これなら聖属性の魔法も取り込めたりして……」
「いや、どうかな……基本的に聖属性の魔法は「光」の攻撃なんでしょ?いくら何でも光を取り込むなんて出来るのかな……」
聖属性の魔法はアイリが扱うような「回復魔法」も含め、性質上は「光」を放つ魔法だと世間一般には知れ渡っている。回復魔法を発動させるときも癒しの光を放ち、攻撃に利用する際も閃光の如く強烈な光を放つ。
レナの扱う地属性の付与魔法が他の魔法を取り込むという事は間違いないが、聖属性の魔法に関しては「光」という性質上、取り込むことが出来るとは考えにくかった。
「さあ、次はレナさんの付与魔法がどの程度の威力の魔法を取り込めるのか実験ですわ!!今までは威力の抑えた初級魔法でしか試してませんけど、ここからは私も合成魔術で対応しますわ」
「……なるほど、俺らを呼び出したのはそういう事か」
「はわわっ……も、もしかして僕も手伝うんですか?」
「うん、そういう事になるのかな……皆、今日はよろしくお願いします」
ブランとヘンリーを呼び出した理由は実を言えばこの2人が各園内でも優れた攻撃魔法を扱えるからであり、他のサブの弟子達を呼び出さなかった理由は相性的に彼等の魔法は今回のレナの訓練には向いていないからである。
結界魔法を得意とするシュリは攻撃魔法は不得手としており、ヒリンの場合は治癒魔導士なので論外、魔法剣士であるツルギはレナと同じく「付与」に関する魔法の使い手のため、出来れば実験に付き合ってもらいたかったのだが、サブの方から何故か断られた。
「俺の見立てだと、闘拳に纏う付与魔法の魔力が強い程に強力な魔法も取り込めると思う。だけど、極化を引き起こした状態だと物体その物に魔力が完全に抑え込まれて魔法を取り込む事が出来ないのは確認してる」
「きょ、極化……それって、魔法剣士の中でも超一流の人間にしか扱えない現象の事ですか?」
「極化だと……なるほど、道理で老師がツルギの奴を呼び出さなかったわけだ。あいつはまだ極化には至ってないからな。しかも自分と同じ魔法剣士ならともかく、付与魔術師の奴に先を越されたと知ったらたまったものじゃないしな」
「あ、なるほど……そういう意味でしたの」
サブがレナの訓練にツルギを呼び出さなかった理由をブランが語るとレナとドリスは納得し、ヘンリーも頷く。ツルギの立場から考えれば自分と同世代の人減にまだ自分が到達していない「極化」の領域に先を行かれたと知れば彼の心情は穏やかではなくなるだろう。
ツルギが今回の訓練に参加させなかった意図を汲み取り、極化に関してはレナ達も含め、ブランとヘンリーも黙っている事にした。そして改めてレナの「魔法拳」の訓練が開始されようとした。
「では、まずは最初に名乗りを上げたブランさんからレナさんの魔法拳に協力してもらいますわ」
「ちっ……本当にいいんだな?いっておくが、手加減はしないぞ。腕が焼け焦げても知らないからな」
「大丈夫……さあ、やって」
「はわわっ……どきどきします」
ブランは少し離れた場所に移動するとレナも右腕を伸ばして付与魔法を発動させて準備を行う。今回は失敗すれば本当に腕が焼け焦げる危険性もあるため、一先ずは「二重強化(ダブル)」を発動させて通常よりも多めの魔力を闘拳に付与させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます