第471話 ドリスとの訓練

――大迷宮に潜むゴブリンキングの討伐のため、レナ達は訓練を開始した。また、今回の件をマドウに伝えた所、現在は休校中となっている魔法学園の訓練設備を利用しても良いという許可を得たレナとドリスは朝早くから魔法学園に訪れる。


現在は休校中の魔法学園ではあるが、大迷宮が封鎖されている件に関してはヒトノ国も他人事ではいられない。王都に存在する3つの大迷宮はヒトノ国にとっても貴重な資源の供給源でもあり、特に煉瓦の大迷宮では希少な鉱石や魔物の素材を手に入れられる場所なので何時までもゴブリンキングの脅威を恐れて封鎖するわけにはいかない。


それに大迷宮は定期的に魔物を討伐しなければ繁殖を繰り返して数を増やし、危険度が高まる危険性もある。そのため、事態を重く見たマドウは特別にレナ達の訓練の許可を与えるだけではなく、サブに頼んで彼の弟子達にも協力してもらうことになった。



「……というわけで、不本意だがお前等に協力してやる。いいか、勘違いするんじゃねえぞ?俺達は老師とヒリンの奴に頼まれて手伝いに来ただけだからな」

「よ、よろしくお願いします……」

「ブランさんにヘンリーさん、本日はよろしくお願いしますわ」

「まさか二人が来てくれるなんて……驚いたよ」



今回の訓練はレナの「魔法拳」の実験を行うために魔法科の生徒にしてサブの直弟子でもあるブランとヘンリーも参加してくれた。ブランはドリスと同じく初級魔術師ではあるが、彼は闇属性と火属性を得意とする。一方でヘンリーの方は一流の魔術師でも扱える人間が少ないという広域魔法の使い手でもある。



「ブラン君にヘンリー君は魔法科の生徒の中でも優秀な魔術師ですわ。これは心強い味方が切れくれましたわね」

「ちっ……ドリス、お前も魔法科の生徒なら騎士科の奴等とつるんでばっかりいるんじゃねえよ」

「お断りしますわ。魔法科も騎士科も関係ありません、私が友人と認めた相手ならばどんな人であろうと関係なく仲良くしますわ」

「ふん、相変わらず喰えない女だな」

「あの、もしかしてブラン君……レナ君に嫉妬してるんですか?」

「ば、馬鹿野郎!!何を言い出すんだこの馬鹿っ!!」

「ひいっ!?ご、ごめんなさい!!」



入学当初は魔法科の生徒を馬鹿にするだけではなく、騎士科の生徒に対抗戦を挑んだブランではあるが、対抗戦でレナ達と敗北してからは心境の変化があったのか最近ではドリスとも普通に話せるようになった。ヘンリーの方は気弱だが、そもそも他の弟子と違って彼は魔法科の生徒に敵意は抱いておらず、対抗戦でもサブに気に入られていたレナが気になって戦闘を挑んだに過ぎない。


ブランとヘンリーという意外な助っ人を交えたレナは早速訓練を行うため、今回は自分の「魔法拳」の性質を見極めるために手始めに各属性の魔法との組み合わせを確認する。



「今の所は雷属性、風属性、水属性、火属性の4つは俺の付与魔法……というよりは地属性の付与魔法で取り込めることが発覚したんだ」

「なるほど……それで次は俺の闇属性を取り込めるのか確認したいわけか」

「ぼ、僕はどうすればいいんですか?」

「ヘンリー君の場合は後で協力してもらいたい事があるから……まずはブラン君に頼めるかな」

「ふんっ、いい度胸だな……腕が消し炭になっても知らねえぞ」



レナは闘拳を装着した腕を伸ばすと、付与魔法を発動させた。今回は「二重強化(ダブル)」や「三重強化(トリプル)」のような重ね掛けは行わず、闘拳に1回分の付与魔法だけを封じ込めた状態で実験を行う。ブランはレナの右腕に掌を構えると、彼は闇属性の初級魔法を発動させた。



「闇夜!!」

「うわっ……これは、煙幕?」



ブランが魔法を発動した瞬間に掌から黒煙を想像させる闇の魔力の残滓が放出され、掌を構えた方向に向けて煙の如き魔力が噴き出す。それを見たレナは煙幕のように身を隠す魔法かと思ったが、すぐにブランが訂正を行う。



「俺の魔法を目晦まし程度の効果しかないと思ってんのか!?この「黒霧」はな、あらゆる物に取りついて物理的な力じゃ引き剥がす事は出来ないんだよ!!」

「闇属性の初級魔法の闇夜は物体に触れると粘着質のある煙のように纏わりつくんです。だから、風の力で黒霧を吹き飛ばしたり、闇属性の弱点である「光」を放つ魔法で掻き消す事が出来ないんです」

「おい、ヘンリー!?あっさりと俺の魔法をばらすな!!」

「はわわっ!?す、すいません!!」

「なるほど……道理で離れないわけだ」



レナは自分の闘拳だけでなく、肩の方にもこびり付いた黒霧を見て眉を顰め、確かに腕を振っても煙が引き剥がされる様子はなく、むしろ範囲を広めている様子だった。


だが、付与魔法を施した闘拳の方に視線を向けると、今までの魔法剣と同様に闘拳の周囲に集まった闇属性の魔力が「螺旋」の軌道を描きながら闘拳に纏わりついているのを確認した。

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