第470話 魔法拳の練習

「つまり、シノも忙しいから今回の討伐は手伝えそうにないのか」

「あら~」

「え、マジかよ……シノの姉ちゃんがいないとなるときつくないか?」



戦闘面においてはシノは他の仲間達の補助に回る事が多く、実際にシノのお陰で窮地を脱した場面は何度もある。だが、そのシノが討伐に参加できないとなると戦闘の負担は増すが、ここまで来た以上は彼女の力を借りずとも挑まなければならない。


既に今回のゴブリンキングの討伐は団長であるルイからの依頼として受理され、報酬に関しては一人当たりに金貨30枚支払うと約束していた。それに今回の件はナオがロウガの仇討ちしたいと仲間達に相談した事が発端のために、今更引き下がれるはずがなかった。



「どうする?シノの姉ちゃん抜きで戦うとなると結構きついと思うぞ?」

「前回のゴブリンキングの時も皆が力を合わせたから勝てましたのに……でも、ナオのために諦めるわけにはいきませんわ」

「ドリス……ありがとう」

「戦うとなると……やっぱり、レナ君の力が重要だね」



ゴブリンキングとの戦闘で最も貢献したのはレナである事は間違いなく、実際に極化を発現させてゴブリンキングに止めを刺したのもレナである。だが、ここで問題となるのは前回の戦闘でレナは魔石弾を全て使い切ってしまった事だった。



「ごめん、皆……前の戦いのときに魔石弾を使い切ったから、ゴブリンキングと戦う時は魔銃は当てにならないんだ」

「え!?あの凄い威力の攻撃が出来ないのか!?」

「それは困りましたわね……あの攻撃が出来ないとなると、遠距離からの攻撃が行えるのは私だけになりますわ」



魔石弾が使用できないという話に他の者達も戸惑い、レナとしても魔石弾が利用できないのは痛いが現状ではどうしようもなかった。魔石弾を作り出すには高純度の地属性の魔石を用意し、ムクチやゴイルに製作を頼まなければならない。


だが、イチノに訪れる前にレナはマドウから受け取った地属性の魔石の中でも高純度の魔石を使用し、二人に魔石弾の製作をしてもらっていた。そのせいで現在の手持ちの地属性の魔石の中で前回程の純度が高い魔石は持ち合わせておらず、仮に魔石弾を作って貰っても前回のゴブリンキング戦で使用したような威力の高い魔石弾は期待できなかった。


そもそも魔石弾を作り出す事自体が時間もかかり、現在はダリル商会の仕事で忙しいはずの二人に迷惑をかけるのも忍ばれる。火竜がいつ襲来するかも分からない時期に無用な時間を過ごすわけにはいかず、今から高純度の地属性の魔石を見つけ出して別の鍛冶師を探す時間も惜しい。



「でも、その魔石弾じゃない方の弾丸は撃てるんだろ?」

「撃てるには撃てるけど……戦ってみた感じ、ゴブリンキングの肉体にはあんまり怪我を与えられないと思う」



イチノで戦ったゴブリンキングの皮膚は異様に硬く、下手をしたらロックゴーレムを上回る頑丈な皮膚を持っていた。レナの魔銃は貫通力に優れ、大迷宮の頑丈な壁にさえもめり込む威力を誇るが、それでもゴブリンキングに致命傷を与えられる保証はない。頑丈すぎる肉体によって弾丸が弾かれる可能性も高く、あまり当てには出来なかった。


なので今回の肝となるのはやはりレナの「極化」と「魔法拳」となりそうだった。極化の方は前回の戦闘ではゴブリンキングの止めを刺しており、その威力は魔石弾にも決して劣りはしない。また、魔法拳に関してはまだ実験の余地があるため、もしかしたらゴブリンキングの打倒に役立つ可能性はある。


時間は惜しいが、今すぐにゴブリンキングの討伐に向かわなければならないわけでもなく、数日程は時間をかけて各自が訓練を行い、ゴブリンキングの打倒の準備を整える事も出来た。そして今回の依頼人であるルイも協力する事を約束した。



「ゴブリンキングに挑む以上、準備は万全に整えないとならない。そこで君達にはよく考えてゴブリンキングを倒す策を練って欲しい。僕達も時間が空いている時は協力を惜しまないよ」

「デブリといったな、お前は見込みがある。俺の弟子達と訓練をするか?」

「おお、望むところだ!!」

「巨人族の方と訓練ですか~楽しそうだから私も混ぜて貰っていいですか~?」

「ん?ああ、それは構わないが……」



デブリはダンゾウに訓練を誘われて承諾すると、ヒリンも彼の訓練に興味を抱いたのか申し出る。その様子を見て残りの者達も他の人間を訓練に誘う。



「ではレナさんは私と魔法拳の訓練をしましょう。魔法拳を発動させるには私の初級魔法を利用するのが一番でしょうし、共に頑張りましょう!!」

「なるほど……それもそうだね、なら一緒に訓練しようか」

「じゃあ、あたしはナオとミナの姉ちゃんと一緒に訓練か……また新しい技を教えてくれよナオの姉ちゃん」

「いや……悪いけど、僕はロウガさんの所に行くね。やっぱり、今回の件はロウガさんに話しておくべきだと思うし」

「あっ……そうだよね、うん、それが良いと思う」



ナオの言葉にミナは頷き、今回の依頼はロウガにも関わりがある事なので秘密にせず、彼の許可を得るのも大事だと判断した。なのでロウガの事はナオに任せ、レナ達は訓練に励む事にした。

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