第469話 ヒリンの助っ人

「まさか兄ちゃんがヒリンの姉ちゃん……いや、兄ちゃんか。紛らわしいな、ナオの兄ちゃんの時もそうだったけ、二人ともちゃんとした服を着ろよ!!ナオの姉ちゃんはスカートを履け!!ヒリンの兄ちゃんはタンクトップだ!!」

「す、スカート!?いや、僕の場合は動きやすい恰好をしたいからそういうのは……」

「た、タンクトップ?タンクトップとは何かしら~……」

「そういうコネコちゃんも短パンしか履かないのに……」

「ナオの姉ちゃんに言われる筋合いはねえよ!!姉ちゃんだっていつもズボンじゃないか!!」

「あうっ……す、スカートは恥ずかしいんだよぅっ」



コネコの理不尽な要求にナオとヒリンは困った表情を浮かべるが、レナ達の中で女性らしい服装を身に着けているのはドリスぐらいである。ミナもコネコもナオもスカートの類は滅多に吐かず、せいぜいパーティ会場の時にドレスを着込んだぐらいしか機会がなかった。


だが、冒険者という家業では動きやすい恰好をするのが前提条件であり、スカートを履かない女性も多い。無論、全員がスカートを履かないわけではないが、冒険者家業は激しく動く場合が多いので大半の人間がズボンを履いている。



「まあまあ、落ち着きなよコネコ。服装は個人の自由だから無理強いは駄目だよ」

「何だよ、兄ちゃんだって皆のスカート姿は見たいだろ?」

「うん、まあ……見たいと言えば見たいかな」

「み、見たいんだ……」

「ええっ……」

「あらあら~なら今度履いてきましょうか~?」

「いや、お前は履かなくていいぞ!?」



レナがミナのスカート姿を見たい事を肯定すると、ナオとミナは頬を赤らめ、ヒリンも何故か満更でもない表情を浮かべるがデブリが突っ込みを入れる。だが、これで戦力面に関しては揃い、後はシノが集まれば完璧なのだが、クランハウスの出入口の方で犬の鳴き声が響く。



「ウォンッ!!」

「うわっ!?何だっ!?」

「お、狼!?」

「すいません、扉を開いたら急に入り込んだんです!!」



室内で狼の鳴き声が響き渡ると、レナ達の元に目掛けて見覚えのある黒色の毛皮の狼が現れ、すぐにレナの前に立ち止まる。慌てた様子でクランハウスに存在したが冒険者達が駆けつけるが、ルイが彼等を抑える。



「大丈夫だ、この狼は問題ない。そうだね、レナ君?」

「あ、はい……うちで飼っている狼です」

「クゥ~ンッ……」

「な、何だ……驚かせるなよ」

「勝手に建物の中に入らないように調教しとけよ。それとそいつの足跡はちゃんと掃除しとけよ。こんな事でロウガさんの面倒を掛けるなよ全く……」



レナの言葉を聞いて冒険者達は安心した表情を浮かべ、注意を行うとその場を立ち去っていく。クロはレナの元に近付くと身体を擦り寄り、首輪に取りつけられている鞄を差し出す。


シノ本人ではなく、クロが訪れた事に驚きながらもレナは羊首輪を外し、鞄をコネコに手渡す。その間にクロはレナに擦り寄り、甘えてくる。昔は犬も飼っていた事があるのでレナはクロを手慣れた手つきで撫でまわす。



「ウォンッ!!」

「よしよし、相変わらず元気だな?シノはどうしたの?」

「鞄を開けばいいのか?」



クロをレナがあやしているあいだにコネコが鞄を開くと、中に丸まった羊皮紙が入っている事を確認した。中身を確認するとシノから手紙らしく、コネコが内容を読み上げた。



「何々……ダリル商会、用心棒、忙しい、援軍不可……何だこれ?」

「暗号……いや、要点だけを書いて送ったようですね」



首輪に取りつけられていた羊皮紙はシノが要点だけを書き込んだ手紙らしく、内容を見る限りだとダリル商会の仕事が忙しくて援軍には参加できないという内容らしい。シノは金色の隼に所属しているが、あくまでも副業であって彼女はダリル商会の元で用心棒として働いている。


ちなみに入って来た当初はレナがダリルから受け取っている給金の一部を、彼女に支払う事で働いていたが、最近では正式に用心棒としてダリルに雇用されている。給金も意外と高く、彼女の目的である大量の金貨を集めて自分の里に戻るために魔法学園に通う時やレナに付き合って行動を共にするとき以外はダリルの屋敷に控えて働いている。




――ダリル商会は王都でも最近では有名になりつつあり、なにしろ何かと噂の話題になるレナが世話になっている商会なので他の商会から一目置かれている。だが、今は亡きカーネのように王都の外部から訪れたダリルが商人として成功していくのを快く思わない者も存在し、チンピラを雇って嫌がらせを行う輩も少なからず存在した。


そんな輩に対応するのはダリルがイチノから一緒に連れて来た傭兵やシノの役目であり、表の護衛役はダリルが連れ出した傭兵が行い、シノの場合は嫌がらせを行ってきた輩の雇い主などを調べ、その人間の調査を行って弱味を握り、二度とダリル商会に手を出さないように約束させる事も何度かあった。用心棒というよりは忍者としてダリル商会の敵になりうる存在を牽制し、警戒を行うのがシノの役目である。


現在のダリル商会はヒトノ国からも信頼も厚く、今まではカーネ商会が王都の商業を牛耳っていたのに対し、現在ではカーネ商会にも対抗出来る程の力を身に着けた。実際にカーネ商会に専属契約を結んでいた鍛冶師達もレナがミスリル鉱石を大量に入手するようになってからはダリル商会に鞍替えする物も多く、現在の王都の商会の中で最も飛躍的に発展を遂げているのはダリル商会で間違いはない。そのため、ダリルの用心棒としてシノも多忙となり、残念ながら今回のゴブリンキングの討伐には参加できないという。

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