第468話 意外な人物の協力

「あら~そこにいるのはレナさんじゃありませんか~?」

「えっ……あ、どうも」



廊下を歩いている途中、何故かレナは魔法科の教室にて「ヒリン」と出会う。彼女、否、彼がどうして休校している教室にいるのかと不思議に思ったレナは話しかける。



「ヒリンさんも学校に来てたんですか?」

「ええ、私は忘れ物を取りに来てたんですよ~それと、私の事はヒリンでいいですよ~同い年ですから敬語もいりません~」

「はあ……分かった、ヒリン」



おっとりとした口調に女性としか思えない程の綺麗な顔立ちなのだが、彼はれっきとした男性で服の内側には圧縮された筋肉質な肉体を持つ。学園内一の美少年なのだが、その戦闘ぶりを見せられた生徒達はヒリンの事を影で「漢の娘」と呼んでいるという。


それはともかく、ヒリンは教室に忘れ物をして取りに戻って来たらしく、彼女はそのままレナに頭を下げて立ち去ろうとした。だが、そんな彼女(彼)を見てレナはある事を思い出す。



「あ、あの!!ヒリンさんは……確か治癒魔導士でしたよね?」

「え?はい、そうですけど~?」



急に呼び止められたヒリンは不思議そうに振り返ると、自分が治癒魔導士である事を肯定した。彼の肉体を見た人間の殆どがヒリンの事を戦闘職だと勘違いしやすいが、ヒリンは正真正銘のアイリと同じく治癒魔導士である。


どうして治癒魔導士のヒリンがデブリにも匹敵する怪力を誇り、鋼鉄のような筋肉を持っているのかは甚だ疑問だが、ヒリンが治癒魔導士である事を思い出したレナは駄目元に協力を申し出た。



「実は今、治癒魔導士の人に協力して欲しい事があるので探してたんだけど……どうか話だけでも聞いてくれないかな?」

「なるほど~では聞かせてください」



ヒリンはレナの言葉に頷き、とりあえずは話だけでも聞く事にした。そんな彼女にレナはここまでの経緯を話し、大迷宮に現れたゴブリンキングの討伐のために回復役となる人間が必要な事を話すと、ヒリンは納得したように腕を組む。



「そういう事情でしたか~それで私の力が必要なんですね~」

「そういうわけなんだけど……出来れば協力してほしい」

「う~ん……」



レナの頼みにヒリンは困ったように考え込み、髪の毛を掻きまわす仕草を行う。外見はどうみて美少女なので普通の男性ならばどぎまぎしただろうが、レナは真剣に頼む。



「無茶を言っている事は分かってるけど、こっちもそれ相応の報酬は約束する。力を貸して欲しい」

「報酬……例えば?」

「最低でも金貨30枚、いや倍の60枚を支払ってもいい」

「き、金貨60枚……!?」



今回のゴブリンキングの討伐に関しては団長のルイの方から報酬を支払う事が約束されており、その金額は一人当たりに「金貨30枚」を支払うという。但し、レナの場合は金銭が目的ではなく、ロウガの気持ちが痛い程理解出来るので自分の分の報酬をヒリンに渡してでもいいと考えた。


日本円に換算すると600万円の報酬を支払うという言葉にヒリンは動揺を示し、それだけの報酬となると金級の冒険者でも簡単に稼ぐ事は出来ない金額だった。下手をすると銅級や銀級冒険者の年収に等しく、たった一回の依頼で得られる報酬金額としては悪くない話である。



「金貨60枚ですか……それだけあれば御師匠様の誕生日に御祝いの品も買えるし、ヘンリー君が欲しがってた魔石も買ってあげられるし、ブラン君が欲しがってた魔法腕輪もあげられるわ~」

「じゃあ、引き受けてくれるの?」

「ええ、勿論ですとも~こちらの方からよろしくお願いします~」

「ありがとう……いででっ!?」

「あ、ごめんなさい~……つい興奮して力を込めてしまいました~」



握手しただけでレナの右手の骨が悲鳴を上げ、危うく大迷宮に挑む前に手の指を骨折仕掛けるという事態に陥ったが、意外な味方の協力を得られたレナは早速ヒリンを連れてクランハウスへ戻る事にした――





――クランハウスへ辿り着くと、レナは皆にヒリンの紹介を行う。まさか連れて来た相手が先日の対抗戦で戦った魔法科の生徒という事に驚かれるが、そもそもヒリンの場合は他の生徒と違ってレナ達に強い敵意は抱いておらず、あっさりと受け入れられた。



「改めてよろしくお願いします、ヒリンと申します~」

「ほう、君がイルミナの言っていた子か。色々と噂を耳にしているよ、サブ魔導士が弟子の中でも特に可愛がっている子達の一人だね」

「そんな事は無いですよ~?サブ魔導士は優しい方ですから~弟子の誰に対しても優しいですよ~」



ルイはヒリンと顔を合わせるのは初めてだが、イルミナからは事前に話を聞いていたのでヒリンが男性である事を知っていた。だが、実際に顔を合わせてみるとどう見ても男性には見えず、本当に彼が男性なのかと思ってしまう。


だが、ヒリンは一度切れると性格が豹変し、まるで二重人格のように狂暴性が増した性格へと変貌してしまう。本人によると身体が傷つけられると我慢ならず、暴れるのを我慢出来ないという。

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