第465話 ゴブリンキングの狙い

「これまでゴブリンキングによって襲われ、行方不明になったと思われる冒険者の数は30名近く……他にも迷宮内で死体としては発見された冒険者を含めた場合、恐らくは50名近くが被害を受けているね」

「50名!?」

「そんなに被害が出ているのですの!?」



予想以上の人数の多さにレナ達は動揺を隠せず、50人の冒険者がゴブリンキングによって殺されているかもしれない事態に驚愕せざるを得ない。


この王都にどれほど冒険者が滞在しているのかはレナ達も完璧には把握していないが、少なくとも50人となると小さな街の冒険者ギルドに所属する冒険者と同程度は存在するだろう。それほどの人数の冒険者がゴブリンキングの被害を受けているかもしれず、ルイも深刻な表情を浮かべた。



「ああ、僕の予想以上の数の冒険者がゴブリンキングの被害に遭っている。だが、大迷宮内で行方不明者や死亡者が多発するのは今回が初めてじゃないんだ、一定の周期で大迷宮内には危険な魔物が誕生し、大きな被害を生み出している。その度に冒険者ギルドは冒険者の精鋭を集めて問題の解決を行っているが、今回の場合は火竜の件もあって冒険者ギルドも下手に動けないんだ」

「火竜がいつ、王都に襲来するのかも分からない状況で、冒険者ギルドの精鋭を煉瓦の大迷宮に送り込み、調査を行わせる事は出来ないからな」

「なるほど、そういう事でしたの……ですが、それだと火竜の件が解決するまでは煉瓦の大迷宮に現れたゴブリンキングの討伐は出来ないのですか?」

「そういう事になるね……普通なら」

「普通なら?」



ルイの言葉にレナは引っ掛かりを覚え、何かルイに考えがあるのかと質問する前に彼女は先に被害を受けた特徴を話す。



「まず、確認した限りでは被害者の中で最も被害が多かったのは白銀級冒険者だ。煉瓦の大迷宮は王都に存在する3つの大迷宮の中でも危険区域だからね、煉瓦の大迷宮の場合は白銀級冒険者以下の冒険者は入れない処置がされている。但し、白銀級冒険者が同行している場合なら人数制限はるが、銀級や同級の冒険者の参加も許されているけどね」

「被害が大きいのが白銀級冒険者……では、金級冒険者の被害はどうなんですか?」

「こちらの方はロウガと冒険者集団を組んでいた物以外の被害者はいないね。そもそも金級冒険者の数も少ないというのもあるが……だが、ここ最近で金級冒険者が何名から煉瓦の大迷宮に挑んでいる。しかし、彼等は被害を遭っていない」

「どうしてでしょうか?ロウガさんの仲間達だけ襲われて他の金級冒険者は無事だったなんて……」

「そう、そこが重要なんだ。まず傾向を調べた限りではゴブリンキングに最初に被害を受けたのはロウガの冒険者集団の可能性が高い。ロウガが襲われる前の大迷宮内での失踪者や死亡の数は今ほどではなかった」

「では、どうしてゴブリンキングはロウガさん以外の金級冒険者を襲わなくなったのでしょうか?」



ゴブリンキングが最初に襲った金級冒険者がロウガの冒険者集団だった場合、ゴブリンキングは数人の金級冒険者を倒せるだけの実力を持ちながら彼等以外の金級冒険者に手を出していない事になる。そこがルイの最も注目した点だった。



「そうだ、ゴブリンキングはロウガを含めて複数名の金級冒険者を一度に倒せる実力を持ちながら、それ以降は金級冒険者に手を出してはいない。この事から考えるにゴブリンキングは冒険者に恐れを抱いた可能性もある」

「ルイ、それはどういう意味だ?」

「ロウガとの話を聞いた限り、ゴブリンキングには敗れたといっても決して無抵抗に敗北したわけではない。ゴブリンキングにも相当な負傷を与えたのは間違いない」

「そうなんですか?」

「ああ、ロウガは敗れはしたがゴブリンキングに冒険者が油断ならない相手だと思い込ませるだけの傷を与えたんだ」



ロウガの話を聞く限りではレナ達は彼が手も足も出ずに敗れたと思い込んでいたが、実際の所は彼とその仲間達はゴブリンキングに敗北したとはいえ、それ相応の損傷は与えたという。ロウガも元々は「闘脚」と恐れられた冒険者でもあり、片足を奪われながらもゴブリンキングに冒険者がどれほど厄介な存在なのかを心に刻ませる程に追い込んでいたのかもしれない。


ゴブリンキングはロウガ以外の人間を殺す事には成功したが、結局はルイとイルミナが駆けつけたせいでロウガを殺しきれず、迷宮に身を隠す。その後は大迷宮に入って来た金級冒険者以外の冒険者を狙っているようだが、ここで重要なのは金級冒険者に手を出さなかった事である。



「恐らく、ゴブリンキングは金級冒険者全員がロウガや彼と組んでいた仲間達と同程度の存在だと思い込み、無暗に手を出せば危険な存在だと思い込んでいるのかもしれない。そしてロウガを襲った時、全員が金級のバッジを身に着けていた事からゴブリンキングは冒険者の階級の存在を見抜いたのかもしれない」

「じゃあ、金級冒険者が襲われなかったのはロウガさんと同じ金級のバッジを身に着けていたからですか?」

「ああ、そして金級のバッジと黄金級のバッジはよく似ているだろう?だから僕やダンゾウが大迷宮に潜った時も襲ってこなかった。恐らく、ゴブリンキングの中では金色に輝くバッジを身に着ける冒険者は驚異的な存在だと捉えたんだろう」

「それで金色のバッジではない白銀級、銀級、銅級の冒険者が襲われていたのか……!?」



ルイの推測にダンゾウは驚き、道理で自分が大迷宮に入った時にはゴブリンキングに襲われなかった理由を悟る。

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