第464話 ゴブリンキングの打倒のために

「ぐっ……も、もう」

「もう……」

「限界、だ……」

「俺もだ……」



2人は同時に最後の一口を口にすると、デブリは椅子から転げ落ちてしまい、ダンゾウは立ち上がろうとしたが膝を崩してしまう。その様子を見て他の者達は盛り上がり、勝負はどうやら引き分けに終わったようだった。



「し、信じられねえ……あのダンゾウさんと大食いで渡り合える人間がいるなんて!!」

「こいつ、新人だったよな。なんて奴だ……!!」

「尊敬するぜ……」

「あ~……君達?盛り上がっている所、悪いんだが片付けてくれないか?」

『ひいっ!?団長!?』

「なんでそんなに怯えるんだっ!?声を掛けただけだろう?」



ルイが声を掛けると団員達は顔色を青くして引き下がるが、そんな彼等の反応にルイは若干傷付きながらもデブリとダンゾウの様子を伺う。大食い勝負をしていただけなのにまるで全力で戦ったかのような汗を流しながら二人は起き上がる様子はなく、仕方なくルイは厨房の人間に声を掛けた。



「……バケツに水を2杯汲んできてくれ。今すぐにだ」

「は、はい!!」






――しばらくした後、頭が水浸しになったデブリとダンゾウも交え、ルイは同じ机に座り込む。ちなみにダンゾウの場合は体格さもあるので彼だけは隣の巨人用の机と椅子に座ってもらい、話し合いに参加して貰う。



「全く、入団初日に色々と騒ぎを起こしてくれるね君達は……」

「いや、今回はあたし達のせいじゃないし……騒いでたのはデブリの兄ちゃんだけじゃん」

「ううっ……ま、まさか僕と互角に渡り合える相手がいるなんて」

「ふっ……俺はまだまだいけるぞ」

「何だと!?よし、なら二回戦だ!!」

「もう止めなってっ!!厨房の人達に迷惑でしょっ!!」



珍しくミナが怒ったようにデブリに叱りつけると、厨房の方に存在した料理人達があからさまに安堵した表情を浮かべた。二人のせいで食材が尽きかけ、これ以上に料理を要求されたらどうしようかと困っていた様子だった。


金色の隼は人数はレナ達を含めても30人程度しか存在しないが、巨人族も含まれているので普段から食料に関しては定期的に保存している。だが、デブリとダンゾウのせいで予備の食糧庫まで空になったらしく、これ以上の料理は出せない様子らしい。



「それよりもルイ、俺に何か用か?新しい仕事か?」

「いや、そういうわけじゃないがダンゾウ、君の協力が必要になるかもしれない。この事は他言無用で頼む」

「……こいつらにも聞かせも問題ない話なのか?」



他言無用という言葉にダンゾウはレナ達に視線を向けるが、すぐにルイは肯定した。今回の件はそもそもはレナ達が発端であり、まずは本題に入る前にルイはロウガの仲間達との関係を話す。



「ロウガと死んだ彼の仲間達は元々、僕とダンゾウ、そしてカツの三人と同期なんだ」

「え、そうだったんですか?」

「ああ、僕達はこの王都のギルドで冒険者となり、共に黄金級冒険者を目指して切磋琢磨してたんだ」



ルイ曰く、ロウガ達は彼女達と同じ時期に冒険者に成ったという。それぞれが冒険者集団を組んで次々と依頼を達成し、階級を順調に上げていった。その頃のルイもロウガもいずれは黄金級冒険者へと昇格するのが確実だと言われていた。


実際にルイは黄金級冒険者へと昇格し、彼女の仲間達も同時期に黄金級冒険者へと昇格を果たした。一方でロウガの方は仲間達と共に金級冒険者へと成り上がり、あと少しで黄金級冒険者の昇格試験を受ける立場まで上り詰めたという。だが、そこで煉瓦の大迷宮で悲劇に遭い、結局彼以外の仲間は死んでロウガは片足を失って冒険者家業を引退するしかなかった。



「ロウガの仲間達は私達と同期だったんでよく交流していたよ。最初の頃はいがみ合いもしたが、何だかんだで良好な関係は築いていた。今の君達のようにね」

「じゃあ、ロウガさんの仲間さん達はルイ団長達とも面識があったんですね」

「ああ、あいつらは良い奴等だった。共に依頼を引き受けて仕事を一緒にした事がる、きっと生きていれば全員が黄金級冒険者へといずれ昇格していただろう……それだけに奴等が死んだと聞いた時は残念だった」

「ああ、カツに至っては大泣きして鎧が錆びる程だったよ」

「そうなんですか……」



ルイ達に取ってもロウガの死んだ仲間達は友人に等しい関係だったらしく、彼等の死を語る時は顔色が暗くなった。だが、彼等以上に悲しんでいるのはロウガであるのは間違いなく、ロウガの悲痛はルイ達も理解出来た。



「ロウガの片足を奪い、仲間を殺したゴブリンキングに関しては僕達も捜索を続けている。だが、一向に成果がない。何度も繰り返して調査を行っているんだが、僕達の前にゴブリンキングが現れる事はなかった」

「俺もカツも何度か大迷宮に潜ったが、ゴブリンキングどころか普通のゴブリンさえも見かけない。だが、ゴブリンキングが討伐されたという話は聞いた事がない以上、あの迷路の何処かにゴブリンキングが潜んでいるんだろう」

「手がかりはないんですか?」

「残念ながら……だが、今までゴブリンキングに襲われて行方不明になった冒険者の情報をまとめた所、その多くが白銀級以下の冒険者だと判明したよ」

「白銀級以下……ですか?」



ルイの言い回しにレナ達は疑問を抱くと、彼女は自分が調べた範囲の情報を頼りにゴブリンキングの被害者の数を告げる。

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