第463話 ルイの誘い

「じゃあ、デブリ君とシノにも手伝って貰おうか。シノならまだダリルさんの屋敷にいると思うし、デブリ君は……」

「ちょっといいかな?」

「わあっ!?」



レナは背後から囁かれ、驚いて振り返るとそこには何時の間にかルイが立っていた。ルイが気付かない内に背後まで迫っていた事にレナ以外の者達も驚くが、彼女は笑いながらレナの肩を叩く。


全く気配を立てずに背後に立っていたルイに対してレナは驚き、他の事に気を向けていたとはいえ、コネコとナオでさえも気づかなかった。魔術師とはいえ、やはり黄金級冒険者にして金色の隼の団長でもあるルイも只者ではない。



「君は魔術師としては優秀かもしれないが、まだまだ冒険者としては隙だらけだね」

「る、ルイさん……いえ、ルイ団長様」

「ふ、普通にルイさんでいいよ。団長様は辞めてくれ……いくら僕が君達の上司だからといってそこまでかしこまる事はないんだよ」

「分かったよ。じゃあ、ルイのねえちゃ……いや、ルイさんと呼ばせてもらうよ」

「どうして姉ちゃんと呼ぼうとして辞めたのかな?それは僕が姉ちゃんと呼ばれる程の年齢じゃないという事か?」

「あいてててっ!?髪の毛を引っ張んなよ!?痛い、痛いって、それ耳じゃねえよっ!!」

「ちょ、許してください!!うちの子、口は悪いけどいい子なんです!!」



コネコの態度にルイは額に青筋を浮かべながら彼女の猫の耳のような癖っ毛を掴むが、それを見たレナは慌てて止める。危うくアイデンティティを失うところだったコネコは涙目でレナの後ろに隠れた。



「全く、金色の隼に入った以上は子供だからと言って甘やかす事は出来ないよ。今度からはちゃんと敬語も教えないと駄目だからね」

「え~……面倒だな、そんな事言うなら兄ちゃんも連れて辞めちゃうぞ」

「そ、それは勘弁してほしいな……分かった、こうしよう。今度お菓子をあげるからちゃんと年上には敬意を払うんだよ?」

「え?お菓子?本当に?……分かった、約束だぞ?絶対だからな?」

「ああ、この王都で最高級品を用意しよう」



しれっと子供のコネコに取引を持ち掛けるルイにレナ達は呆れてしまうが、何だかんだで人当たりはいいのでコネコともすぐに打ち解けている辺りは流石だった。それはともかく、唐突に現れたルイに対してナオとミナは冷や汗を流す。


ルイは魔術師でありながら戦闘職のミナ、コネコ、ナオの3人にも気付かれずに接近しており、特に暗殺者であるコネコは気配に敏感なのにルイの接近に気付くことが出来なかった事に彼女よりも他の人間が動揺を示す。だが、ルイ本人は自然な感じでレナ達の会話に入り込む。



「それで、いったい何を話していたんだい?さっき、ロウガとすれ違ったが何か彼に関する話でもしていたのかな?」

「いや、それは……」

「あたし達でロウガのおっさんの仲間の仇討ちをしようとしてたんだよ。なあ、兄ちゃん?」

「ほう……」



ナオはルイの質問に対して咄嗟に誤魔化そうとしたが、それよりも先にコネコが素直に答えてしまう。その話を聞いたルイは興味深そうな表情を浮かべ、レナ達を見渡す。ルイの雰囲気が変わった事に気付いたナオは無意識に身構えてしまうが、一方でレナの方はルイに質問を行う。



「ルイ団長はロウガさんの仇のゴブリンキングの事に関してはどう考えているんですか?」

「ルイさんで構わないさ。それより、どう考えているとは?」

「その、ロウガさんのために仇討ちを手伝ったたりとか……」

「ふむ、その事か。まあ……とにかく立ち話も何だから場所を移動しようか」



レナの質問にルイは場所の移動を提案し、とりあえずは食堂の方へ向かう――






――時間帯も夕方近くだったのでルイと共にレナ達は食事を行う事が決まり、レナ達は食堂に入るとそこには見覚えのある顔が存在した。



「うおおおっ!!負けるかぁっ!!」

「ふっ……やるな、坊主」

「こ、こいつ……なんて食欲だ!?」

「あのダンゾウさんと張り合ってやがる!!信じられねえ……本当に人間なのか!?」



食堂の方では人だかりが出来ており、レナ達は不思議に思って覗き込むと、そこにはダンゾウと向かい合うように座るデブリが存在した。彼等の側に大量の空の皿が並べられ、どうやら大食い対決でも行っているのか二人はカツやエビフライや卵が乗ったカレーを食していた。


どちらも大皿のカレーを夢中に食らい、ほぼ互角の速度で食べ尽くしていた。調理場の方では忙しなく料理人達が動いており、調理に励んでいた。その様子を見てレナ達は唖然とするが、ルイは冷や汗を流す。



「ば、馬鹿な……あのダンゾウと互角に渡り合える大食いが居たのか!?しかも人間なんて……有り得ない!!」

「いや、デブリの兄ちゃん何してんだよ!?帰ったんじゃないのか?」

「まさか、いなくなったと思ったらずっとここで食べ続けていたんですの!?」

「な、何て熱気でしょう……食事をしているだけなのに今までにない気迫を感じます!!」

「デブリ君……」



デブリはゴブリンキングに挑んだ時よりも真剣な表情で食事を行い、そんな彼に対してダンゾウも負けずと食事を続ける。しばらくの間は食事を続けていた二人だが、やがて胃に限界が訪れたのか二人のスプーンが止まる。

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