第461話 魔動バイク
「ですが、この私が自作した「魔動バイク」ならば話は別ですわ。車輪の部分に私の氷塊の魔法で作り出した円盤を装着し、それを高速回転させる事で高速移動も行えるようになりましたの!!その速度はきっとレナさんのスケボにも劣りませんわ!!」
「でも、あまり速度を上げ過ぎると操作も難しくてさっきみたいに急に止まる事も出来ないんだけどね……」
「なるほど、だから突っ込んできたわけか」
レナ達はドリスが制作した「魔動バイク」に視線を向け、確かに移動速度だけならばレナのスケボにも匹敵するだろう。但し、あまりに移動速度を上昇させすぎると操作も難しくなり、急に立ち止まる事や停止するのも難しいらしい。
重量の方も相当に存在するのかドリスは横転した魔動バイクを持ち上げようとしたが動かす事が出来ず、ナオの二人がかりでどうにか起き上げた。その様子を見て運ぶのも難しい代物らしく、残念だが現段階では彼女には扱いきれない代物だったようだ。
「ふうっ……速度は問題ないのですけど、やはり乗りこなすにはもう少し練習が必要ですわね」
「問題はそれだけじゃないよ……ほら、僕達の通った地面を見てよ。跡が残ってるよ……こんなの見られたら絶対に怒られるよ」
「確かに車輪の方も問題がありますわね。といっても、街中ならともかく外へ行くときは問題ないのではないですか?」
「ドリスの姉ちゃん、なんでこれ車輪が二つしかないんだよ?馬車みたいな奴にすれば転ぶ事もないんじゃないのか?」
「確かにそれは私も考えましたわ。実際、自動車と呼ばれる勇者様が残した四輪の乗物もあります。ですが、私はこのバイクの方が格好いいと思ったからこれを作ったのです!!」
「格好良さの問題!?」
車輪が4つならばバランスに関しては安定するのだが、ドリスはどうしてもバイクを乗りこなしたいらしく、妥協せずに運転の練習を行う事を決意した。
最もこの調子では魔動バイクを完全に乗りこなせるようになるには時間が掛かりそうであり、レナのスケボ以上に扱いの難しい乗物なだけにドリスでも完全に操れるようになるまで相当な時間を必要とするだろう。
「おい、何の騒ぎだ!?クランハウスの前で何を騒いでるんだ!?」
「あ、ロウガさん……って、どうしたんですかその恰好?」
騒ぎを聞きつけたのかクランハウスの扉が開かれると、何故か掃除用具を抱えたロウガが現れた。彼の恰好を見てレナ達は驚くが、建物の前に存在したのが彼等だと知ってロウガはバツが悪そうな表情を浮かべる。
「いや、俺は明日からの掃除に備えて用意をしていただけで……そ、それよりもクランハウスの前で何を騒いでるんだお前等!!近所迷惑だろうが!!」
「近所迷惑と言っても……」
「人の気配なんて全然しないよな」
レナ達は周囲の建物に視線を向けるが、結構騒いでいるにも関わらずに人の気配は感じられず、誰も姿を現さない。街道にも人の姿はなく、王都中が静まり返っていた。火竜の襲来が恐れられる状況のため、王都を離れた人間も多く、残っている者達も建物の中に引きこもっていた。
とりあえずはレナ達をロウガは中に入れると、ドリスの運んできた魔動バイクに驚くが、すぐに気を取り直してレナ達に注意を行う。
「お前等な……言っておくが、お前達はもう正式に金色の隼の団員になったんだ。つまり、お前等が不始末を起こせば金色の隼の責任になるんだよ。それを踏まえて今度からは目立つ行動は辞めろ、分かったか?」
「はい、すいませんでした……」
「騒いだのはドリスのせいなんですけど……」
「ナオ!?そこは親友として庇う所ではありませんの!?」
「親友でも限度があるよ!!」
「ていうか、勝手に試験をやらせたロウガのおっさんに問題を起こすなと怒られるのは納得いかねえ……」
「う、うるさい!!ともかく、これからは金色の隼の団員として自覚して行動しろ!!」
コネコに痛い所を突かれたロウガは足早に立去ろうとしたが、その途中で義足を嵌めている足の方が痛み、彼は膝を付く。
「ぐうっ……」
「だ、大丈夫ですか?」
「何処か痛めたんですか?」
「いや……気にするな。へっ、おかしなは話に聞こえるかもしれないが、もうなくなったはずの足が痛みやがる」
ロウガは義足に触れて苦笑いを浮かべ、彼はもう存在しないはずの右足に「幻肢痛」に悩まされていた。もう足は存在しないはずなのに未だに足が痛むかのような苦しみに苛まれ、ため息を吐き出す。
かつて闘脚と恐れられたロウガだが、煉瓦の大迷宮に出現したゴブリンキングに敗れて彼は片足と仲間を失った。最初の頃は復讐に駆られてゴブリンキングの討伐に乗り出したが、今の彼はもう戦える状態ではなく、討伐隊に参加しても足手まといである事は自覚していた。
仲間と自分の足を奪ったゴブリンキングに復讐したという気持ちは残っているが、今の自分ではどうする事も出来ない事にロウガは悔しく思う。ルイの勧めで現在は若手の冒険者の指導役を任せられているが、心の中では何処かでゴブリンキングの討伐を諦めきれない自分がいる事を知っていた。
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