第460話 母との思い出

「何だよ姉ちゃん、そのでかいぬいぐるみ……あ、分かった。そのぬいぐるみを抱いてないと夜眠れないとかだろ。駄目だぞ姉ちゃん、そういうのが許されるのは子供の時だけだからな。あたしも半年前に卒業したぞ」

「あれ、割と最近の話のような……」

「ち、違うよ~これはね、お母さんが作ってくれたぬいぐるみなんだ」



ミナによると母親が幼い頃に彼女のために作ってくれたぬいぐるみらしく、ミナにとっては一番の大切な代物だった。だからこそアリアが運んできてくれた事にミナは感謝する。



「このぬいぐるみ、お母さんが僕のために作ってくれた大切なぬいぐるみなんだ。お母さんが死んじゃう前に作ってくれた大切な物なの」

「ああ、そういう事だったのか……いいな、姉ちゃんの母親は優しくて。あたしの両親なんて赤ん坊の頃に孤児院の前に捨てた薄情者だからな」

「え?あっ……ご、ごめんね」

「別に謝る必要はないって」



母親の話をするとコネコは少しだけ羨ましそうに語ると、ミナは慌てて謝罪する。しかし、そんなコネコに対してレナは彼女の身体を掴むと、片腕で持ち上げた。



「寂しがる必要はないよ、コネコにだって家族はいるでしょ?」

「うわわっ!?ちょ、兄ちゃん?」

「血の繋がりなんて関係ないよ、大切なのはお互いを想う気持ちだって俺はじーじとばーばから教わったよ。コネコが家族だと思う大切な人がいるのなら本当の両親なんて気にする必要はないよ。それとも、コネコは本当の両親の所に行きたいの?」

「……そうだな、あたしの家族は孤児院の奴等と、それに今は兄ちゃんやおっちゃんもいるからな。寂しくなんかないや」



レナの言葉にコネコは同意するように嬉しそうに頬ずりを行い、その様子を見てレナは微笑み、まるで本当の兄妹のように接する。実の家族がいないという点ではレナもコネコも同じであり、それでも自分の事を大切に育ててくれた人達こそが家族だと思っている。


そんな二人を見てミナは少しだけ羨ましそうな表情を浮かべていると、その気持ちが兄弟や姉妹が欲しかったという羨望か、あるいは気軽にレナに接触できるコネコが羨ましいと思ったのかは不明だが、その気持ちを確かめる前に彼女の背後の方から聞き慣れた声が響いてきた。



「ちょ、そこのミナさん!!危ないですわ~!!」

「ドリス、止まって!!このままだとぶつかっちゃうよ!?」

「えっ……な、何!?」

「何だあれ!?」



ミナは振り返ると、街道から自動二輪車のような形状をした乗物に乗り込んだドリスとナオの姿が存在し、二人は氷塊に吹き飛ばされないように掴まった状態で接近してきた。


嫌な予感を覚えたレナはコネコを咄嗟に下ろして二人の前に立つと、付与魔法を発動させて氷塊を受け止める。両手だけでは不安なの念のために足元にも付与魔法を纏わせると、しっかりと正面から迫りくる氷塊を受け止める。



「ふんっ!!」

「きゃっ!?」

「うわぁっ!?」



レナが受け止めた事でどうにか氷塊は停止する事に成功したが、その際にドリスとナオは衝撃で手を放してしまい、空中に放り出されてしまう。咄嗟にミナはドリスの方あをお姫様抱っこで受け取めると、レナはナオの方を正面から抱きしめる形で受け止めた。



「ふう、危なかった。大丈夫、ナオ君?」

「あ、ありがとうございます……ひゃっ!?そ、そこはお尻で……」

「あ、ごめん!?」

「ドリスさんも大丈夫?」

「はい、ありがとうございますわ……いたた、少し身体を痛めたようですわ」



ナオを受け止める際にレナは彼女の尻を鷲掴みにしてしまい、ドリスの方はミナに受け止められた際の衝撃で身体を痛める。いったい何がどうなってこんな状況に陥ったのかと不思議に思うと、コネコはレナが手放した際に横転してしまった乗物に視線を向けて驚きの声を上げる。



「うわ、何だこれ!?これ、乗物か?」

「ああ、それは私が作り出した「バイク」という乗物ですわ。子供の頃から材料を色々と集めて組み立てていたんですけど……どうも失敗ですわね」

「ばいく?なんだそれ?」



レナ達は初めて見る「バイク」という乗物に視線を向け、試しに触ってみたり、ハンドル部分に触れる。外見に関してはレナ達は知らないが「大型自動二輪車」と酷似しており、違いがあるとすればハンドル部分にはブレーキの類は存在せず、車輪の方もタイヤではなくドリスの作り出した氷塊の魔法で作り出した氷の円盤である事が発覚した。


ドリス曰く、彼女が子供の頃に読んだ勇者の絵本の中で「バイク」と呼ばれる乗物を参考にして作り出した代物らしく、外見はそれっぽく作り出せたのだが、タイヤやエンジンやブレーキに関しては残念ながら再現出来なかったという。



「本物のバイクは「がそりん」という燃料を使って地面を走る乗物のようですけど、私のバイクの場合は私の氷塊の魔法で作り出した氷の円盤を車輪の部分に嵌め込んで動かしてますの」

「何でまたそんな物を……姉ちゃん、最近はやっと飛べるようになったんだろう?」

「確かに最近はまともに飛べるようになりましたけど、やはり飛竜やレナさんのスケボと比べると速度の面で劣りますわ。氷塊に高速回転を加えれば速度は劇的に上昇しますけど、流石に自分の乗物を高速回転させながら移動するわけにもいきませんので……」

「な、なるほど……」



ドリスの氷塊の魔法は彼女の意思で自由自在に氷塊を空中に浮揚させ、高速移動も行える。但し、より速度を生み出す場合は氷塊に高速回転を加えなければならず、ドリスが氷塊に乗り込んだ状態で高速回転を行えば彼女は目が回る所か吹き飛ばされてしまう可能性もあった。

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