第458話 魔弾
「あれ……さっきドリスさんが壊したはずなのに」
「人形の事を言っているのかい?あれはもう新しいのを取り換えたんだよ。見事なまでにバラバラにされていたからね」
「なるほど……あの、ちょっと試したい事があるのであれ壊してもいいですか?」
「別に構わないが……何をする気だい?」
レナはルイに許可を取ると世界樹製の人形に視線を向け、右腕を構える。世界樹で構成された人形は砲撃魔法でも容易く破壊は出来ず、レナの場合は魔銃などを使用しないと破壊するのも難しいだろう。
至近距離から殴りつけたり、あるいは闘拳を飛ばす事が出来れば人形の破壊自体は出来るだろう。だが、レナは近付く事はせずに冷気と凍りの破片を纏った腕を構え、この状態で付与魔法を解除させるのではなく、一気に魔力を解放させて重力の衝撃波を生み出す「衝撃解放」を発動させればどうなるのかを試す。
「よし、皆離れてて……
「な、何っ!?」
「これはっ!?」
「うわぁっ!?」
闘拳に付与された魔力をレナが解放しようとした瞬間、闘拳に渦巻いていた冷気と凍りの破片が衝撃波に飲み込まれ、そのまま前方の方角へ向けて氷の破片が拡散した。その結果、横一列に並んだ3体の人形に氷の破片がめり込み、折角用意した新しい人形が倒れる。
その様子を見てレナ達は驚き、まるでこの世界には存在しないはずの「散弾銃」の如き威力を誇り、レナは唖然とした表情を浮かべて闘拳を確認する。室内の時は単純に魔法を解除したせいで風の魔力がその場で拡散したが、今回の場合は闘拳に付与させた魔力を衝撃波へと変換させた事により、闘拳に渦巻いていた水属性の魔力も巻き込んだように見えた。
「な、何だこの威力は……人形がボロボロじゃないか」
「凄い……」
「こ、これが兄ちゃんの付与魔法の力なのか?やっぱり兄ちゃんは凄いなっ!!」
「うん、本当に凄いと思う……」
レナ以外の者達は破壊された3体の人形を見て冷や汗を流し、コネコとミナは称賛の言葉を贈るが、レナ自身もまさかここまでの威力を引き出せるとは思わなかった。ドリスに至っては自分の魔法を取り込んだレナの攻撃に感動する。
「す、素晴らしいですわ!!レナさんが私の氷塊の魔法を取り込み、こんな凄い威力の魔法を生み出せるなんて……はっ!?これはまさか合成魔術ではないですの!?」
「合成魔術……そうか、ドリスさんの水属性の初級魔法と俺の地属性の付与魔法が合体したからこんな攻撃を引き出せたのかな?」
「その可能性は……あるかもしれません。ですが、他人同士で合成魔術を発動するなんて熟練の魔術師でも難しいのに……」
ドリスの言葉に人形の様子を調べるイルミナが推察を行い、確かにこれだけの威力を引き出せると考えるとレナの付与魔法とドリスの初級魔法が合体したからこそ威力が上昇したと考えられた。実際に合成魔術は単体の魔法よりも威力が上昇する傾向があり、本来ならば生活魔法と呼ばれている初級魔法さえも合成魔術ならば砲撃魔法にも匹敵する威力を引き出す事が出来る。
レナの付与魔法は今現在は他の属性の魔法を取り込み、その属性の攻撃を得られるだけではなく、更に「衝撃解放」を行えば驚異的な威力を発揮する事が判明した。氷塊の場合は氷の破片が重力の衝撃波によって加速して弾丸に放たれ、ひとつひとつの破片がレナの魔銃の弾丸と同程度の威力を誇った。
最もここまで凄い威力を引き出せたのはレナとドリスがどいらも優れた魔術師であった事が要因であるのは間違いなく、もしも並みの付与魔術師と初級魔術師が力を合わせてもここまでの威力は引き出せないだろう。そういう意味ではレナとドリスの相性は良く、興奮したドリスはレナの腕を掴む。
「レナさん、これからは共に戦う時はこの合成魔術を活用しましょう!!そうすればどんな敵でも倒せますわ!!そう、私達が力を合わせれば敵はいません!!」
「え?そ、そうかな……でも、確かにドリスさんの魔法は取り込みやすい気がする」
「そうでしょう?ならいっその事、レナさんはアリス商会に……」
「こらこらこらっ!!さり気無く兄ちゃんを引き抜こうとするんじゃねえよドリスの姉ちゃん!!」
慌ててコネコがドリスとレナを引き剥がし、少しでも隙を見せれば商会に勧誘してくるドリスに全員が呆れてしまうが、レナは破壊した人形の姿を見て考え込む。
レナは自分が扱う魔銃と同程度の威力を引き出した「合成魔術」を確認し、この力を使いこなせれば自分はもっと強くなれるのではないかと確信を抱く。その一方でこの魔法の弱点も気付く。
(けど、あくまでも他の人の魔法を取り込まないといけないのか……そう考えると一人では発動も出来ないか)
もしも、レナが地属性以外の魔法を扱えたのならば話は別だったが、生憎と地属性しか適性が存在しないレナでは単独ではこの合成魔術を発動する事は出来ず、そういう意味では大きな弱点とも言えた――
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