第457話 魔法拳

レナは自分の考えが正しいのかを証明するため、他の魔法でも自分の付与魔法で取り組めるのか確認する必要があると判断した。しかし、室内で魔法の実験を行うのは危険であり、ルイに頼み込んで外に移動する事を提案する。



「あの……まだちょっと試したいので、外に出ていいですか?」





――部屋の中で魔法の実験を行うと被害が出る可能性があるため、ルイはレナの提案を受け入れてクランハウスの訓練場へと移動を行う。外ならば誰にも迷惑をかけずに魔法の実験に集中できるため、レナは闘拳に付与魔法を発動させた状態でドリスに協力を求めた。



「よし、準備完了……ドリスさん!!」

「今度は加減はしませんわよ。火球!!」



離れた位置からドリスは火属性の初級魔法を発動させると、レナに目掛けて放つ。今回は実戦でも扱えるのかを試すため、ドリスはレナを攻撃するように魔法を撃ちこむ。


正面から迫りくる火球に対してレナは闘拳の掌を構えると、受け止めるように火球を握り締める。そして闘拳越しに火球を受け止めた瞬間、闘拳から放たれる魔力に変異が起きた。



「くっ……うおおっ!!」

『おおっ!?』



火球を受け止めた瞬間、闘拳から放出される紅色の魔力に火球が取り込まれ、炎の渦と化して闘拳に纏わりつく。その光景を見て誰もが驚きの声を上げるが、レナの方は腕から放たれる熱気に耐えながら火属性の魔法も取り込めた事に感動するなか、今回は暴発させないように気を付けて拳を放つ。



「せい、はあっ!!うん、特にこの状態でも激しく動いても問題はないか……あ、消えた」

「今回は魔力をそこまで込めませんでしたので……」



折角腕に取り組んだ魔力ではあるが、先の失敗を反省してドリスは魔力を調整して長時間は維持できない火球を生み出したらしく、すぐに消えてしまう。この事から残念ながら取り込んだ魔法の効果時間は相手が注ぎ込んだ分の魔力が消耗するまでしか維持できない事が発覚する。


取り込むといっても相手の魔法の力をレナの付与魔法であくまでも身に着けているだけに過ぎず、完全な制御下に納めたわけではない。従って魔法の効果時間に関しては魔法を発生させた相手がどの程度の魔力を注ぎ込んだのかで変わり、レナ自身にはどうしようも出来ない。しかし、ドリスの魔法を受けて相手が魔術師だったとしてもこれからは自分の付与魔法の力で取りこめるかもしれないという事実にレナは嬉しく思う。



(今まで魔術師との戦闘では相手が魔法を使う前に仕留めるか、土壁を作り出して防ぐ事が出来なかったけど……付与魔法で逆に相手の魔法を取り込めるのなら反撃の手段に使えるかもしれない。今の所は風属性と火属性と雷属性は問題なく取り込めるようだけど、他の属性はどうかな?)



同じ系統である地属性の魔法攻撃は性質上は取り込むのは難しく、場合によっては相殺してしまうかもしれない。しかし、まだ試していない闇属性、聖属性、水属性に関しては取り込める可能性がある。最も聖属性と闇属性は単体では攻撃には不向きとされるため、実質的に水属性を取り込むことが出来ればレナは一般的に魔術師が攻撃に利用する魔法を全て防ぐ事が出来ると証明される。



「ドリスさん、今度は俺に向けて打ち込んでくれる?」

「氷塊を?次は水属性を試したいという事ですの?」

「うん、ここまで来たら試せるものは全部試しておきたい」

「なるほど……分かりましたわ。それなら今度は余分に魔力を込めておきますわ」



レナの言葉にドリスは賛同し、両手を構えて掌に収まり切れる程の大きさの氷塊を生み出すと、目元を光り輝かせて見事な投球フォームでレナに投擲を行う。



「行きますわレナさん!!時速150キロの直球ですわ!!」

「え、ちょっ……うわぁっ!?」

「なんで投げたのドリス!?」



普段のドリスならば別に触れもせずに氷塊を自由に動かせるのだが、氷塊をボールに見立てて投擲を行う。咄嗟にレナは右手を差し出して迫りくる氷塊を受ける事には成功したが、衝突の衝撃で氷塊が砕け散ってしまう。


氷塊の場合は他の属性の魔法とは異なり、炎の流動体ではなく氷の塊である個体なので取り込む事は出来ないかと思われたが、氷塊が砕け散った瞬間に氷の破片と同時に冷気が迸り、レナの闘拳の重力の渦に取り込まれる。


外見は氷の破片が混じった青色の魔力が闘拳に纏わりつき、他の属性と同様にレナの身体を傷つける様子もない。ドリスの予想外の行動に戸惑ったが、どうやら水属性の場合でも無事に取り込めることが発覚してレナは安堵した。



(良かった……これで風、火、水、雷の四属性は取り込めるのか。後は聖属性と闇属性だけど、試すのは今度だな。それより、これどうしよう)



レナは自分の闘拳に纏わりつく冷気と氷の破片を見て困り果て、ドリスは宣言通りに余分に魔力を込めていたらしく、闘拳に纏わりついてくるだけで冷気が襲ってくる。このまま魔法を解除させると先ほどのような惨事が引き起こされるために困り果てると、不意に視界の端に木造人形が映った。

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