第456話 吸魔石

「ふうっ……危なかった。僕もスカートだったらお気に入りのトラさんパンツを見られるところだった」

「えっ……いい年した大人の人がトラさんパンツ?」

「なんだい、その言い方は!!トラさんパンツの何が悪いんだい!?」

「ルイ団長、落ち着いてください!!もうパンツの話はいいでしょう!?」



ルイの呟きにコネコが呆れるが、そんな彼女にルイは憤慨した様に突っかかる。最もすぐにイルミナに止められて冷静さを取り戻し、咳ばらいを行うと改めて自分の嵌めた指輪に視線を向けた。



「それにしても吸魔石を使う事態に陥るとは……すまない、僕の考えが浅はかだったよ。レナ君の付与魔法の力の凄さを見誤っていた」

「いえ、それよりもさっき何をしたんですか?」

「その指輪に風の魔力が取り込まれたように見えましたけど……」

「ああ、これは吸魔石と呼ばれる魔石さ。名前ぐらいは聞いた事があるだろう?」



レナ達の質問にルイは装着している指輪を見せつけ、魔石の効果の説明を行う。吸魔石の名前は魔術師であり、同時に魔道具関連の道具を販売している商家の娘のドリスは心当たりがあった。



「それは……もしかすると魔法の力を吸収する魔石の事ですの?」

「魔法の力を吸収……だから吸魔石と呼ばれているの?」

「その通りですわ。吸魔石は外見は硝子や水晶のような見た目ですが、魔法の力を吸収する性質を持ちます。通常、蓄積されている魔力を使い切った魔石は色を失い、砕けやすい水晶に変化しますわ。だけど、この吸魔石の場合は根本から異なり、そもそもこの魔石には最初の時点で何の魔力も蓄積されていません」

「え?魔石なのに魔力ないの?」

「ええ、ですけど吸魔石は魔力を吸収する性質を持ち、魔術師はこの吸魔石に魔法を発動する事で魔力を封じ込めて各属性の魔石を作り出す事が出来ますの。ですが、自由に魔石を作り出せるといっても、その威力に関しては最初に封じ込めた魔力の量によって比例し、更に言えば通常の魔石は数十回は使えるのに対して吸魔石の場合は発動の旅に蓄積している魔力を全て解放するので何度も使う事が出来ません。従って吸魔石を使用する場合は毎度事前に魔力を封じ込める必要がありますわ」

「ドリス君の言う通り、吸魔石は少々特別な性質を持っていてね。そのせいで吸魔石を扱う人間は少ないんだ」



ドリスの説明にルイは頷き、魔法を発動させる度に吸魔石は蓄積した魔力を使い果たす性質上、使用後はもう一度魔力を封じ込めねば効果を発揮しない。そのせいで他の魔石よりも使いにくいという点があり、大抵の魔術師は吸魔石など持ち歩かない。


そんな吸魔石をどうしてルイのような一流の魔術師が所持しているのかは不明だが、結果的にそのお陰でレナの付与魔法の暴走を抑えることが出来たといえる。また、付与魔法を解除すると闘拳に纏わりついていた魔力が周囲に拡散する事が判明した。



「どうやらレナ君の魔法は雷属性だけではなく、風属性とも相性がいいみたいだね……いや、相性がいいというには少し違う気がする。まるで、レナ君の闘拳に魔法の力が纏わりついたような気がする」

「纏わりついた?」

「僕の推察ではレナ君の付与魔法は他の人間の魔法を取り込む……というより、腕の周囲に放たれる魔力がまるで魔法の力を抑えているように見えた……だから付与魔法を解放したとき、外部に身に着けていた魔法の力を抑えきれずに拡散した様に見えたね」

「魔法の力を抑えきれなかった……」



レナは自分の闘拳に視線を向け、ルイの言葉を反芻しながら自分の身に何が起きたのかを考える。先ほどの出来事を思い返し、まるで闘拳がドリスやイルミナの魔法の力を取り込んだように見えた。



(魔法の力を取り込む、じゃなくて抑えつける……確かに闘拳から滲み出ていた俺の魔力がドリスさんやイルミナさんの魔法の力を取り込んだ、いや抑えつけていたとしたら……もしかして重力が関係しているのか?)



紅色の魔力の正体は地属性の魔力である事を確信したレナは、ここである推論に至る。それは自分の魔力によって闘拳の周囲に重力の「渦」のような物を作り出し、その渦を利用して外部からの魔法の力を抑え込み、渦の中に抑えつけていたのではないかと思う。


ここで重要なのは重力の魔力の力で抑え込んだ魔法の力は渦の中に閉じ込めるわけではなく、あくまでも渦の流れに乗って魔力を誘導しているように見えた。だからこそ闘拳その物に電流や風の力が流れ込む事はなく、あくまでも闘拳の周囲に発生する重力の渦に魔力が取り込まれただけでレナ自身には大きな影響を与えなかった。


金属製の闘拳を身に着けた状態で電撃を受けても感電しなかったのは、レナが身に着けている闘拳が魔法金属製で魔法耐性が高いという理由ではなく、あくまでも闘拳の周りに発生させた重力の渦のお陰と考えたら付与魔法の常識が覆る。今までは使い処が難しいと言われていた付与魔法だが、この事実が世間に知られれば付与魔術師の評価が一変するかもしれない。

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