第454話 地属性と雷属性

「ふむ、確かにレナ君の言う通りだ。別に属性が一つしか扱えないからといって立派な魔術師になれないわけじゃない。むしろ、属性を多く扱う魔術師の方がどの属性を極めるのかで悩み、一つの属性を極める例は少ないからね」

「そうですね……失言でした、忘れて下さい」

「でもさ、兄ちゃんも前に雷属性の魔法みたいなの使ってなかったっけ?」

「えっ?」

「ほら、あのヘンリーとかいう泣き虫魔術師との闘いでさ、最後の方で闘拳にバチバチさせてたじゃん?」

「あ、そういえば確かに……」



コネコの言葉に対抗戦でレナとヘンリーの試合を見ていた者達は思い出し、確かに試合中にレナはヘンリーの生み出した雷属性の魔法を闘拳で受け止めた状態で攻撃に利用していた。あの時は地属性の付与魔法を施した物体は雷属性の魔法が効かない事が

判明し、逆に相手の魔法を利用してレナは闘拳に電流を帯びた状態で攻撃を仕掛けていた。


あの時は特に意識していたわけではないが、確かに見方によってはレナは雷属性の魔法を取り組んだ攻撃を行ったといえる。その試合はイルミナも見ていたのでルイに頷き、もしかしたらだがレナが他の属性の魔法を扱える可能性を見出す。



「ふむ、そういえば地属性の魔法は雷属性の魔法を打ち消す効果があると聞いた事があるが……その話が事実なら面白いな」

「はい。それに闘拳に地属性の魔力だけではなく、雷属性の魔力を付加する事が出来るのならば他の属性も取り込める可能性もあります」

「ですが、レナさんは雷属性の魔法は使えませんわよ?」

「ドリスの姉ちゃんが協力して魔法を送り込めばいいんじゃないの?」

「いや、それで失敗したら大変な事になりそうだけど……」



ドリスが扱えるのは火属性と風属性と水属性であり、この3つの属性の魔法をレナは闘拳で取り込んだ事は無い。ヘンリーとの対戦で雷属性を取り込んだのは戦闘中に付与魔法を施した物体が雷属性の雷撃を耐えた場面を見た上での判断であり、もしも地属性がドリスの扱う3つの属性の魔法と相性が悪ければ大惨事を引き起こす可能性がある。




――魔法には相性が存在し、例えば風属性と火属性の魔法は相性が良い。この二つを組み合わせると強力な火炎を生み出し、ドリスの扱う「火炎槍」も初級魔法の「風圧」と「火球」を組み合わせて生み出した合成魔術だった。他にも意外な事に闇属性の場合は聖属性以外の属性と相性が良く、ドリスと同じ初級魔術師のブランは火属性と組み合わせて「黒炎」という炎を扱う。




但し、魔法の属性の中には逆に相性が悪い物も当然ながら存在する。例にすれば火属性と水属性は交わる事は出来ず、合成魔術を発動しようとしてもお互いの性質が真逆なので相殺されてしまう。だが、風属性の場合は火属性の他に雷属性も相性がいいため、属性によっては相性の良し悪しの差が激しい。


聖属性と闇属性が最も他の属性との相性が良い数が多く、この二つは交わることはないが基本的には地属性以外の4つの属性とは相性が良い。特に聖属性は水属性と相性が高く、闇属性の場合は基本的に相性が良い属性ならばどれも高い効果を発揮する。但し、この中で地属性の場合は扱う人間が非常に少ないため、どの属性と最も相性が良いのかは判明していない。



「私の見立てではレナさんの付与魔法は雷属性の魔法に対して全く受け付けていないようでした。それに闘拳その物に電流が帯びていたとしたらレナさん本人も感電しそうですが、その様子もなく戦っていたように見えましたが……」

「言われてみれば確かに……よく良く考えたら、あの時は闘拳というよりも闘拳に纏っていた魔力に雷属性の魔力が混じっていたような気がします」

「ほう、それは興味深いな……闘拳ではなく、あくまでも闘拳に纏っていた魔力に雷属性の魔力が取り込まれた、か。試しにこの場で同じことができるのか試せるかい?」

「えっ!?ここで?」



ルイの提案にレナは驚くが、闘拳を装着して雷属性の魔法を受けるだけなのでそれほど手間は掛からない。それにレナ自身も自分の付与魔法が他の属性を取り込めるのかも気にかかり、言われた通りに闘拳を右腕に装着する。


念のために皆には部屋の壁際の方に離れてもらい、全員の目の前でレナは闘拳に付与魔法を発動させた。今回は極化を引き起こすまで魔力を込める事はせず、とりあえずは「二重強化(ダブル)」を発動させて闘拳全体に紅色の魔力を宿した状態でイルミナに協力してもらう事にした。



「では、私が今から初級魔法の「電撃」を発動させます。この魔法は掌に電流を迸らせる程度でせいぜい護身術程度の効果しかありませんので安心してください」

「はい、よろしくお願いします」

「……金属を身に着けた状態で電流を浴びるのは危険な気がする」

「しっ……シノちゃん、レナ君を怖がらせたら駄目だよ」



覚悟を決めて他の属性を取り入れる事が出来るのかを試そうとするレナにシノは不穏な一言を告げるが、敢えて彼女の言葉を無視してレナとイルミナは緊張した面持ちでお互いの腕を伸ばす。そして闘拳を装着したレナが右腕を突き出し、その腕を両側から挟み込むような形でイルミナは腕を広げると、初級魔法の「電撃」を発動させた。

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