第453話 魔力密度

「だが、極化という現象は実際の所は完全には解明されていないんだ。魔法剣士の職業の人間自体が少なく、極化の境地に至った者も滅多にいないからね」

「でも極化を発動させると、どうして武器が変色するんですか?」

「その事については諸説あるが、僕の考えでは恐らく物体に施した魔力の密度が違うんだろう」

「密度……?」



ルイの説明にレナ達は不思議に思うが、ここで彼女は考えた末、レナの扱う付与魔法を例にして説明を行う。



「例えばレナ君が通常の付与魔法を発動させた時、物体に紅色の炎のような魔力が宿るだろう?」

「あ、はい」

「この場合、付与魔法を施された物体に紅色の魔力が迸るのは完全に物体に魔力が宿っていないのが原因なのかもしれない。物体に完全に魔力を込めることが出来なかったから魔力が抑えきれず、外部に漏れてしまったのかもしれない」

「なるほど……」



イルミナの説明にレナは納得し、確かに今までも付与魔法を重ね掛けする際に闘拳から溢れる魔力が増えていた。紅色の魔力が大きくなるほどに外部に漏れる魔力の消耗が大きくなっている事を示していたとしたら、今まで付与魔法を重ね掛けしても地属性の魔石を利用しなければ魔法の効果時間が変わらなかった原因が発覚した。


魔石の力を頼らずに物体に付与魔法を維持できるのはせいぜい数十秒程度であり、これは付与魔法に重ね掛けを行っても効果時間は変わらない。その理由はイルミナの推察では今までレナの付与魔法では漏れ出る魔力を完全には押され切れず、魔力の消耗を抑えきれなかった事が原因だと考えられ、ここにきてレナは付与魔法の弱点を知る。



(今まで深くは考えてなかったけど、魔法を発動させるときに出てきた魔力は俺が制御できずに溢れていた魔力なのか……)



あまり意識はしていなかったが、自分が付与魔法を発動させる際に迸る紅色の魔力の正体が余分な魔力を放出させていると知ったレナだが、ここで極化の時は魔力が一切放出せずに闘拳の色だけが変色した事を思い出す。



「あれ?でも極化を発生させた時は魔力は出てませんでしたけど……それはどうしてですか?」

「恐らくだが、極化の時は君はその闘拳に完全に魔力を宿す事に成功したんだ。今までの様に魔力が零れ落ちず、闘拳の色が変色した理由は闘拳その物に完全に凝縮された魔力が原因だろう」

「じゃあ、凝縮された魔力を宿したから闘拳が変色したんですか?」

「あくまでもこれは僕の推察にしか過ぎないが、レナ君の付与魔法の魔力は紅色だといったね?そして闘拳が変色した色は「紅色」これが無関係とは思えない。恐らく、魔法剣士が地属性の魔法剣を極めた場合、きっと武器の色がレナ君のように紅色に変色するはずだ。魔力密度を高めた事で武器が変化したんだ」

「武器その物が変化……」

「な、何だか凄い話になってきたな……」

「ええ、本当に凄い事です。まさか魔法剣士以外の職業の人間が極化現象を引き起こすなんて……やはり、レナさんは素晴らしい魔術師です」

「当然ですわ!!レナさんは魔法学園一の魔術師……いえ、魔拳士ですわ!!」



ドリスは誇らしげな表情で自慢すると、ルイとイルミナは彼女の告げた「魔拳士」という言葉に反応し、何かを思い出すように腕を組む。



「魔拳士……そういえば何かで読んだが、勇者の中にそんな渾名を持った人間がいたような気がするよ」

「ええ、確かその方もレナ様のような魔法を使っていたような気がしますが……よく思い出せません」

「それって、もしかして重力の勇者の事ですか?」

「ああ、それだ!!よく知っているね……僕が子供の頃に読んだ絵本だよ」



レナが重力の勇者の事を告げると、ルイとイルミナも思い出したように頷き、この2人も幼少期に重力の勇者の絵本を読んだ事があるという。現在は絶版されているが、意外と読んでいる人間は多いのかもしれない。


それはともかく、レナの闘拳の変色した理由が「極化」という現象だと判明した。ゴブリンキングを倒したときの最後の攻撃の凄まじさはレナが地属性の付与魔法を極めたからこその一撃だと言える。


だが、一方で極化に辿り着いたレナは付与魔術師としては能力の限界に辿り着いた事を意味しており、付与魔法の力を極めたといっても過言ではない。つまり、これ以上の成長の余地がない可能性もあった。その事を察したイルミナは少し悲しそうに答えた。



「……こんな事を言っても仕方がありませんが、もしもレナ様が地属性以外の属性にも適性があればと思うと残念でありません。今の年齢で1つの属性を極める事が出来たとすると、他の属性も扱えていたとしたらレナ様はきっとマドウ大魔導士にも魔術師にもなれたでしょうに」

「それは……違うと思います。俺の場合は地属性しか適性がなかったからこそ、ここまで一つの属性に集中して訓練する事できました。だから、他の属性が仮に扱えたとしても、きっと極化を覚える事は出来ませんでした」



イルミナの言葉をレナは否定すると、自分の闘拳に視線を向け、逆に自分が地属性の適性しかなかった事に安堵する。仮に他の属性の適性があった場合、レナは地属性を極める事は出来なかっただろうと確信していた。


ゴブリンキングに勝てたのは自分が他の属性を意識せず、地属性だけを極めたからだと信じ、他の属性を覚えられなかった事はレナは特に落胆はしない。

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