第452話 「魔法剣」と「極化」
「それはもしかすると、魔法剣の「極化」と呼ばれる現象じゃないのかい?」
「え、極化……?」
「魔法剣士の魔法剣というのを君達は知っているかい?」
「魔法剣というと……ああ、デブリの兄ちゃんがぶっ飛ばした奴が使ってた技かな?」
レナ達の脳裏に対抗戦でデブリが戦った「ツルギ」の事を思い出す。彼は魔法剣の使い手であり、剣に電撃を帯びさせる「サンダーブレード」という技を思い出す。ツルギが使用していた技が魔法剣である事は間違いないが、レナが扱う付与魔法とは異なって彼の魔法剣は長時間の付与は出来ず、物体に宿した魔力を一気に解放して攻撃を行っていた。
しかし、物体に魔法の力を付与させるという点ではレナの付与魔法もツルギの魔法剣も同じであり、同系統の能力と言える。ルイはレナの付与魔法の変化に対して魔法剣の「極化」と呼ばれる能力ではないかと推察したが、イルミナが驚いた表情を浮かべる。
「極化、ですか?それは魔法剣士の魔法剣を極めた人間のみが扱える技術では……」
「だが、話を聞く限りだとレナ君の付与魔法も魔法剣士の扱う魔法剣と似通っている。それにレナ君は付与魔法を子供の頃から鍛え続け、しかも一属性に専念していたのなら有り得ない話じゃない」
「あの、極化というのはどういう力なんでしょうか?私も初めて聞きますが……」
魔法に関する知識なら大抵の事は知っているドリスだが、魔法剣士の扱う「極化」と呼ばれる能力に関しては聞いた事もない。最もルイとイルミナによると魔術師でも極化の存在を知っている者は少なく、知らないのも無理はないという。
「魔法剣士の魔法剣は武器に魔法の力を宿す、これはレナ君の付与魔法とよく似ている力だね。だが、魔法剣士の中でも熟練の実力者の中には「極化」と呼ばれる技術を扱える人間がいるんだ」
「その極化というのはどういう力なんですか?」
「もったいぶらずに教えてくれよ、団長のねえ……いや、お姉ちゃん」
「お姉ちゃん……それも悪くない響きだが、僕の事は団長と呼んでくれ。もしくは団長ちゃんでもいい」
「ええっ……」
「辞めてください。そんな威厳の無い呼び方は……」
「まあ、話は戻すが魔法剣士の扱う魔法剣はさっきも説明した様に武器に魔法の力を宿す能力だ。これは普段からレナ君の付与魔法を見ている君達も簡単に想像できるだろう?」
「はい」
「分かりやすく言えば極化というのは魔法剣を更に極めた技術……例えば普通の魔法剣士が魔法剣に雷属性の魔力を付与させたとする。その場合、刀身に電流が迸る現象が発生するのは知っているかい?」
「ツルギの奴が使ってた魔法剣はそうだったな」
レナ達もツルギが雷属性の魔法剣を使用する際、刀身に電流を帯びていたのを確認している。レナの場合は付与魔法を施すときは紅色の魔力が物体に覆うため、どちらも同じ原理で魔法を発動させていると考えられた。
「だが、極化と呼ばれる現象の場合だと変化が異なるんだ。例えば先ほどの例だと雷属性の魔法剣を発動した場合、極化の場合だと刃から電流が迸る事はなくなるが、武器その物に変化が起こるんだ」
「武器、その物に?」
「雷属性の場合だと刀身が「金色」に変色する。他の属性の場合だと火属性は「真紅」に変色するのが確認されている」
「つまり……武器の色が変色するだけなのか?何だ、思ったより大したことないんだな」
「とんでもない、極化に至った魔法剣の威力は絶大だ。その攻撃力、いや破壊力は計り知れない……下手をしたら砲撃魔法の上級魔法に匹敵する、あるいはそれ以上の威力を引き出せる恐ろしい技術だ」
「砲撃魔法の……上級以上!?」
砲撃魔法は魔術師が扱う魔法の中でも高威力を誇り、使い手によっては凄まじい威力を引き起こす。しかも上級となると砲撃魔導士の中でも10年以上を魔法の鍛錬を費やした人間にしか扱えないと言われている。
副団長のイルミナも砲撃魔法の上級は習得しているが、魔法の際に恵まれた彼女でさえも上級の砲撃魔法を扱えるようになったのは最近の話だった。ちなみに彼女の上級の砲撃魔法ならば数十体のホブゴブリンを一撃で葬る威力を誇るという。
「今まで地属性の魔法剣の極化の現象は確認されていない。そもそも地属性を扱う魔法剣士自体が滅多にいなかったからね……だが、優秀な魔法剣士でも極化に至るには10年以上の年月を必要と聞いているが、レナ君の闘拳が変色したのは本当に極化によって引き起こされた現象だとしたら、これは凄い事だよ」
「10年……そういえば、付与魔法を覚えてからそれぐらいの月日は経っているかも」
レナは子供の頃から付与魔法を扱い、毎日のように付与魔法を使用していた。村で暮らしていた時は畑仕事の手伝いや、雑草の駆除、村の周りの堀を掘るなど意外と扱う機会が多かった。
村を出てからもダリルの元で付与魔法の訓練を欠かさずに行い、この時は荷物運びなどで使用していた。その後、冒険者になった後は付与魔法を実戦で扱うようにもなり、今日に至るまでレナは付与魔法を使い続けていた。その成果というべきか、何時の間にかレナは地属性の付与魔法を極めていたのかもしれない。
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