第451話 大迷宮の異変

「あの……ロウガさんが戦ったゴブリンキングはどうなったんですか?」

「残念ながら、未だに討伐は果たされていない。私達が駆けつけてきたときには既に姿を消していた。ロウガは私達が救ったと思いこんでいるが、実際の所は私達はその存在すら確認していない」

「え?ではロウガ指導官が生き残っていたのは……」

「恐らく、見逃されたというよりはもう既に死んでいると思いこんで放置されたのだろう。私達が辿り着いた時はロウガも酷い状態だった、一見すれば死んでいるようにしか見えない状態だった。それでも私達が持参していた回復薬を与えて一命は取り留めたが……他の3人は救えなかった」

「その後、我々はゴブリンキングの件を冒険者ギルドに伝えて調査を行いましたが、今に至るまでその存在を確認されていません。しかし、煉瓦の大迷宮に挑んで行方不明になった冒険者が続出しています」

「それがゴブリンキングの仕業なんですか?」

「可能性は高いかと……しかし、実際に姿を見たのはロウガだけです。他の冒険者は本当にゴブリンキングの仕業なのかを疑い、もっと別の魔物の仕業ではないかと疑っています」



ゴブリンキングの存在を大迷宮で確認したのはロウガだけらしく、大迷宮に挑んで行方不明になった冒険者が多発するようになったのも彼がゴブリンキングを発見した時期である。だが、巨体で目立つゴブリンキングが冒険者達に見つからないという事実に疑問点が残り、行方不明の冒険者達の件はゴブリンキング以外の魔物が関わっているのではないかと疑う者も多い。


煉瓦の大迷宮は3つの大迷宮の中でも最も難易度が高く、危険性が高い魔物が数多く生息する。時にはミスリルゴーレムのような希少種が現れる事から腕に自信のある冒険者は煉瓦の大迷宮に挑む事も多かったが、最近では行方不明者が続出しているという件もあって挑む冒険者も少ない。



「現在、煉瓦の大迷宮は実質的に封鎖されています。理由は冒険者の行方不明者の数が30名を超え、その中には金級冒険者も含まれていました。なので冒険者ギルドはこれ以上の冒険者の被害を危険視し、行方不明になった冒険者の手掛かりを探すために金級冒険者で組んだ調査団を派遣して捜索を行っている状況です」

「金色の隼の元にも調査の協力の依頼が来ているよ。だからこの件に関しては僕達も無関係ではない、僕達も何度も煉瓦の大迷宮の調査を行ったけど、あの迷宮は他の大迷宮と同様で広大でしかも一定時間ごとに迷宮の構造が変化するからね、人手を増やしても調査の方は進展がないんだ」

「しかも大迷宮で死亡した冒険者の死体は時間の経過で消えてしまいますからね……正直、行方不明者全員が死んでいた場合は手掛かりを探すのも難しい状況なんです」

「煉瓦の大迷宮でそんな事が起きてたのか……」

「私達も危なかったかもしれませんわね。まさか、ブロックゴーレムやミノタウロス以外にそんな危険生物もいるなんて……」

「ゴブリンキングか……兄ちゃんが倒したのと、どっちが強いかな」



コネコの何気ない質問に部屋の中が静まり返り、実際にゴブリンキングと戦った事があるのはレナ達だけだが、イルミナは予想を告げる。



「大迷宮内の魔物と地上の魔物では危険度が違います。例えば地上のゴブリンと大迷宮のゴブリンの場合、戦った冒険者の感想は必ず大迷宮のゴブリンが強かったと断言するでしょう。大迷宮の内部は魔物達にとっては最も力が発揮しやすい環境であり、それに地上の魔物とは異なって大迷宮の魔物の殆どは人間に強い敵意を抱いています」

「敵意を抱いていると強くなるのか?」

「強くなる、というよりは恐れを抱かず命を惜しまずに向かってきます。分かりやすく言えば「特攻」ですね、大迷宮の魔物はトロールなどの一部の魔物を除いて容赦なく襲いかかってきます」

「なら、下手をしたらレナが倒したゴブリンキングよりも大迷宮に生息するゴブリンキングが強い可能性もある?」

「そうですね……恐らく、その可能性は非常に高いでしょう」

『…………』



自分達が力を合わせて苦労して倒したゴブリンキングよりも強い個体が大迷宮に存在するかもしれないという話にレナ達は黙り込む。


ルイとイルミナもこの話を聞かせるべきではなかったと考えた時、レナはある事を思い出す。それはゴブリンキングとの最後の攻防の際、自分の付与魔法の異変を思い返す。



「ゴブリンキングか……」

「えっ?どうしたのレナ君?何か気になるの?」

「いや、気になるというか……ちょっと、あの時の戦いで俺の付与魔法が少し変だった気がするんだ」

「変?それはどういう意味ですの?先ほどの試合ではいつも通りに魔法を使っていたように見えましたけど……」

「えっと、どういえばいいのかな……あの時、俺が限界まで闘拳に付与魔法を発動したとき、今までは闘拳に地属性の魔力を宿して攻撃してたんだけど……最後の攻撃の時、闘拳その物が紅色に変化したというか……」

「闘拳が変化した……?」



レナの説明を聞いても部屋の中のほぼ全員が首を傾げるが、ルイだけは考察するように腕を組み、やがてある結論へと至る。

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