第450話 大迷宮の新たな主

「なるほど……そういう事情だったのか」

「そういえば城に辿り着いた時、カイン大将軍から話を受けていましたが、まさか勘当するなんて……」

「仲間を救うために飛竜を無理やり連れ出してきた娘を追い出したのか……まあ、立場上は仕方がないとはいえ、弟の家から追い出すとはな」

「ううっ……あの、そういう事なので今日からここでお世話になってもいいですか?」

「ああ、構わないよ。女の子だからね、一番綺麗な個室を用意してあげよう。何だったら他の子供達も部屋を用意するけど……」

「兄ちゃん、あたし達もこっちに住むか?ミナの姉ちゃんも一人じゃ寂しいだろ」

「そうだね、部屋がどういうのかも気になるし……それにここの方が魔法学園から近いよね」

「え、本当に?ありがとう二人とも~」



ミナだけがクランハウスに住むのも寂しいと思い、レナもコネコもしばらくの間はこのクランハウスで世話になるかを考える。魔法学園は現在は火竜の件で休校しているが、問題が解決すればここから学園に通う方法もあった。


他の者達は色々と事情があるので住む事は出来ないが、クランに所属する以上は定期的にこの場所へ訪れて仕事をうけなければならないのでこれまで通りに皆とは交流出来るだろう。



「イルミナ、3人に地下の宿舎まで案内してくれ。今日の所は色々と疲れただろう、他の団員の紹介は後日改めて行おう」

「ちなみに金色の隼は何人ぐらいが所属しているんですか?」

「それほど人数はいません。少なくとも皆さんを含めても20人程度です。黄金級冒険者は団長、カツ、ダンゾウ、私を含め……遠征に出向いている1人を含めれば5名です」

「黄金級冒険者が5人も!?改めると凄い組織ですわね……」



黄金級冒険者はヒトノ国内では10人も存在しないと言われているが、その半数以上が集まって結成した組織だけに名前は有名だった。しかし、意外な事に団員の数は少なく、所属する冒険も全員が白銀級以上の階級である。



「ここにいるロウガもあと少しで黄金級冒険者へ昇格試験を受けられる段階だったんだが、実は先日に魔物に足をやられてね……今は指導官として働いているよ」

「ちっ……その話は止めろ、どうせ試験を受けるつもりはなかったんだ。そんな話、今はどうでもいい」

「あの闘脚と言われたロウガさんが……いったい、どんな魔物にやられたんですか!?」



ナオはロウガに憧れを抱いていただけに彼が負傷して冒険者として復帰できない話にショックを受けるが、闘脚という二つ名を持つ格闘家のロウガの足を奪ったという魔物が気になって問いただすと、彼は顔を背けて答えた。



「……ゴブリンだ」

「ご、ゴブリン?」

「ロウガ、その言い方だと誤解するだろう。ゴブリンといってもただのゴブリンじゃない……煉瓦の大迷宮の新たな「主」となったゴブリンキングだ」

『ゴブリンキング!?』



ゴブリンキングの名前が出た事にレナ達は動揺を隠せず、つい先日にレナ達はイチノの街にてホブゴブリンの軍勢を率いたゴブリンキングと対峙したばかりである。


大迷宮に現れたというゴブリンキングのせいでロウガは自分の人生を狂わされたといっても過言ではなく、ロウガは自分の義足に視線を向け、忌々しい過去を思い出すように語りだす。



「俺は仲間と一緒に煉瓦の大迷宮に入ったんだ……何という事はない、いつも通りに新しい装備の具合を確かめるために目的もなく入っただけだ。いつも通りに俺は仲間と一緒に迷宮内の魔物共を蹴散らして帰ろうとした。だが、そこで俺達の前に奴が現れた……くそがっ!!」

「ロウガ、落ち着きなさい!!」



怒りを抑えきれずにロウガは自分の足だけではなく、大切な仲間を奪ったゴブリンキングに恨みを抱く。彼は4人の仲間と共に大迷宮へ挑み、その際に迷宮を探索しているときにゴブリンキングと遭遇して襲われたという。


煉瓦の大迷宮にはミノタウロスが支配していたが、先日にレナ達がミノタウロスを打倒した事により、新しい主が誕生していた。その主の正体がゴブリンキングであり、ロウガの冒険者集団は彼を除いて全滅したという。



「くそ、くそっ!!俺達は全員が金級冒険者だったんだぞ!?奴がただのゴブリンキングだったのなら負けるはずがなかった……だが、俺達は敗れた。気付いた時には俺の仲間は全員死んで、俺は偶然にも大迷宮に立ち寄っていたこの二人に助けられなかったら死んでいただろうよ……いや、あの時に俺も一緒に死んでいれば良かったんだ。くそぉっ!!」

「きゃっ!?」



我慢出来ないとばかりにロウガは椅子を蹴り飛ばそうとした、あまりの破壊力に椅子はその場で粉々に砕け散ってしまう。片足が義足となっても「闘脚」としての蹴り技は衰えておらず、そんな彼の肩をルイが掴んで落ち着かせる



「落ち着け、ロウガ。君の気持ちは分かるが物に当たっても仕方ないだろう」

「ああ、分かってる。分かってはいるんだが……納得いかねえんだよ。俺だって冒険者だ、冒険者家業をやる以上は運が悪かったり、油断すればこんな目に遭う事も理解していた。だが、あのゴブリンキングだけは得体が知れねえんだ……ただのゴブリンじゃない、何かもっと別の恐ろしい何かにしか思えないんだ……」

「…………」

「……悪い、頭を冷やしてくる。掃除の罰の件は明日からやるよ」



それだけを言い残すとロウガは部屋を退出し、彼の話を聞いたレナはルイとイルミナに詳しい事情を問う。

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