第449話 団員の特権

「そういえば冒険者になったという事は私達はクランだけではなく、冒険者ギルドの依頼を引き受ける事が出来ますの?」

「はい、可能です。ですがクランの方にて発注されている依頼はギルドでは引き受ける事が出来ませんので注意してください」

「なるほど……ちなみに仕事の受け方に違いはありますか?」

「そちらは大きな違いはありません。掲示板に張り出されている依頼を確認し、それを受付に提出して受注する事はクランもギルドも変わりません。但し、念のために注意しておきますがクランの方にて発行された依頼書はギルドで提出しても受理されませんし、逆も然りです」

「まあ、そんな間違い方をする奴なんて滅多にいないがな……ちなみにギルド側がクランに譲った仕事に関してはギルドの方に立ち寄る場合もある。依頼人の情報や、もしくは依頼人本人に詳しい話を聞く事もあるからな」



イルミナの説明にロウガが補足を行い、続けてクランに入る場合の規則の説明をイルミナが行う。この場合の説明は全てのクランの共通の規則ではなく、あくまでも金色の隼の規則である。



「基本的に金色の隼に所属する団員は一定の期間ごとに必ず依頼を受注しなければなりません。金色の隼では団員は一か月に一度は依頼を達成しなければなりません。また、月の終わりに最も依頼を達成して評価点を稼いだ冒険者には特別手当が出ます」

「おおっ!?働くだけでご褒美が貰えるのか!?」

「はい。最も評価点を稼いだ冒険者には団長の方から金貨10枚が手渡されます」

「金貨10枚も!?太っ腹だな……」



金貨10枚は日本円に換算すると100万円相当であり、しかも毎月に最も評価点を稼いだ冒険者に渡されるという。この制度は冒険者達のモチベーションを上げ、依頼の達成率を上昇させるのと同時に冒険者同士を競い合いさせるのに十分な効果があった。


このシステムのお陰で評価点を上げて階級を最高位にまで極めた黄金級冒険者も、昇格のために評価点を得る必要はなくなった人間も、この特別手当を得るために依頼を励むという。



「また、団員はクランの建物内の訓練器具は自由に扱えます。食堂の食事も基本は無料、もしくは格安の値段で提供します」

「ちなみに僕の食堂の一番のお気に入りメニューはボアの豚汁定食だね」

「あ、豚汁は俺も好きです」

「あたしも大好きだ!!」

「僕もだ!!ちなみにおかわりは無料か!?」

「え、ええ……一応は巨人族の団員もいるので食堂の食材は多めに買いこんでいますので安心してください」



クランハウスには訓練場以外にも食堂も存在し、更には他の様々な設備も取りつけられている。これは団員たちが仕事でストレスを溜めないようにルイが配慮した結果、肉体面ではなく精神面も癒すための設備も豊富だという。



「クランハウスの地下には団員専用の個室も用意している。希望するのであれば団員はクランハウスに在住する事も出来るし、宿屋と違って宿泊代も掛からないから安上がりで済む。それと1階の方には食堂以外にも酒場もあるし、二階には娯楽室もある。こちらの方は異界から召喚された勇者が考案した「ダーツ」「チェス」「トランプ」「ビリヤード」といった遊戯の道具が用意されているよ」

「チェスにビリヤード!?確か貴族の方に大人気の遊戯だと聞いた事がありますわ」

「団長の趣向でクランハウス内には団員が仕事の不満や不安を発散させるため、様々な遊戯の道具を取り寄せています。このお陰で団員達は仕事に対する不安を抱える事もなく、万全な状態で仕事に挑む事が出来ます……最も一部の冒険者は遊戯に嵌まりすぎて仕事も碌に行わない輩もいますが」

「そこまでは僕、知らない」



あからさまにイルミナの言葉にルイは目を反らし、団員の肉体状態を優先し過ぎて遊戯品を多く取り揃えてしまった事はルイの落ちとである。だが、他のクランと比べても金色の隼の団員の扱い方は素晴らしく、素晴らしい環境が用意されていた。


クランはギルドと比べても仕事の場合は団員が背負う責任が重い一方、ギルドの方では絶対に用意出来ない優遇された環境を用意し、団員を気遣っていた。最初はクランに入る事に乗り気ではなかったレナだが、話を聞く限りでは思っていたよりも団員の事を大切に考えて、同時に興味も深まる。



「なんか、思ってたよりずっと楽しそうな場所だね」

「遊技場か……あたしは外で遊ぶのも好きだけど、家の中で遊ぶのも割と好きだぜ。孤児院にいた時はよく他の奴等と一緒に遊んだしな」

「訓練設備も整っているのは僕はありがたいな。魔法学園で用意してくれる設備よりもこっちの方が鍛えられそうだ!!」

「私は実家の手伝いもあるので定期的にしか顔は出せませんが、もしも仕事を引き受ける時は私も誘って欲しいですわ。必ず力になります」

「僕もドリスと同じでもしも仕事を引き受ける時は誘ってください」

「私は特に不満はない。でも、用心棒としての仕事もあるから冒険者家業ばかりは出来ない」

「僕は地下の個室で暮らせるのが有難いかな?レナ君の家にお世話になりっぱなしなのも悪いと思うし……それに食堂もあるんだよね?」

「ふむ……という事はこのクランハウスに住むのはミナ君だけという事か。ん?だけど、君は確かジオ将軍の家で暮らしていたのでは……」

「あ、えっと……実はですね」



ミナはここで自分が勘当された事、そして現在はレナの屋敷に世話になる予定という事を話す。事情をしったルイ達は驚き、同時に彼女の境遇を不憫に思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る