第446話 試験の結果は……

地属性エンチャント!!」

『ぐあっ!?』



魔銃に付与魔法を施した瞬間、カツの右腕に弾丸が的中してカツは予想外の衝撃に怯む。咄嗟の事なので狙いは少し外れたが怯ませる事には成功したレナは魔銃を手放すと、右腕に魔力を込めて振り翳す。


相手の全身が甲冑に覆われている以上は魔銃を撃ち込んでも効果は薄く、並の鎧ならば貫通する威力を誇る弾丸だが、流石に黄金級冒険者が装備する鎧となると非常に頑丈な素材で構成しているのか弾丸の貫通には至らない。それを確認したレナは魔銃ではなく、闘拳に付与魔法を加えて攻撃を仕掛ける。



四重強化クワトロ!!」

『ぐっ……反動!!』



闘拳に宿った紅色の魔力が膨れ上がるのを見たカツは危険を察して大盾で身を防ぐと、相手の攻撃を跳ね返す戦技を発動させる。だが、レナの狙いは直接攻撃ではなく、闘拳の金具を外した状態で発射させる。



「どらぁっ!!」

『あいだぁっ!?』

「「「えええっ!?」」」



レナ自身ではなく、闘拳その物がカツの頭部に放たれ、そのまま大盾を素通りしてカツの額に的中した。予想外過ぎる攻撃にカツは頭部を強打した事でふらつき、その隙を逃さずにレナは接近するとカツの大盾に手を伸ばす。



(このまま間接付与で……!!)



魔法耐性が備わっている物体であろうと、レナが触れた状態ならば付与魔法を施せる事は既に証明されており、カツが意識を取り戻す前に大盾に手を伸ばす。だが、黄金級冒険者の意地なのか意識が半ば飛んでいるなかでカツは獣のような咆哮を上げる。


肉体が勝手に動いたかのようにカツは大盾を手放すと、ランスを横向きに向けて振り払う。その動作を見てレナは避ける事が出来ず、振り払われたランスが横っ腹に的中して吹き飛ぶ。



『があああっ!!』

「うわぁっ!?」

「レナ君!?」

「やばい、まともに当たったぞ!?」



レナは場外まで吹き飛ばされると、カツは同時に倒れる。慌ててレナの仲間達は吹き飛ばされたレナの元に駆けつけると、そこには瞼を閉じたまま動かないレナが倒れていた。それを見たミナが真っ先にレナを担ぎ上げ、意識を確認する。



「レナ君、大丈夫!?」

「うっ……」

「ど、どうやら気絶しているようだな……」

「怪我はしてないのか!?」

「服を脱がせましょう!!あら、意外とたくましい腹筋……どきどきしますわ」

「ドリス、こんな時に何を見とれてるの!?」



身に着けていた退魔のローブが衝撃に対して強い素材であった事が幸いし、大きな痣は出来ていたが致命傷という程ではなく、すぐにルイが駆けつけて傷の具合を確かめた。



「これは……肋骨が何本かやられてそうだな」

「ええっ!?」

「ど、どうすれば……おい、誰か回復薬を持っていないのか!?」

「大丈夫、僕の魔法で治そう」

「え?魔法って……治癒魔導士や修道女以外は回復魔法は使えないんじゃ……」

「本職と比べれば回復速度も遅いけど……これぐらいの傷なら治せるよ……レトロヒール!!」

「う、くぅっ……!?」

「レナ君!?目を覚ましたの?」



傷跡の箇所にルイは確認を行うと、彼女は掌を翳した瞬間に聖属性の魔力の光が放たれ、レナは呻き声を上げて瞼を開く。ミナが驚きながらも身体を支えると、その様子を見たルイは安心した表情を浮かべ、動かないように注意を行う。


支援魔術師のルイが扱う魔法は他人の強化に特化した魔法のため、その中には本来は治癒魔導士にしか扱えない回復魔法も存在する。但し、治癒魔導士が発動する回復魔法と比べると効果の方は非常に薄く、即効性はない。



「僕のレトロヒールは治癒魔導士の回復魔法ほどの即効性はないけど、時間が経過すればちゃんと回復するよ。だから、しばらくは動かないように」

「くっ……いったい何が……そ、そうだ試合は!?」

「それは……」



レナは意識を取り戻すと自分がカツに殴りつけられて気絶した事を思い出し、試合はどうなったのかを問う。他の者達は言いにくそうな表情を浮かべる中、ルイは試合場に振り返って様子を伺う。



「ロウガ!!カツの状態はどうだ?」

「……駄目だな、こりゃ。完全に気絶してやがる!!」

「えっ……」

「という事は……」



ロウガはカツの元に赴き、兜を外して中の様子を伺うと黙って首を振る。ちなみにレナ達は位置的にカツの中身を見る事が出来なかったが、気絶しているという彼の言葉を聞いてルイは肩をすくめた。



「引き分け、だね。レナ君も気絶したけど、カツも限界だったんだ。なら今回の試合の裁量はロウガに任せよう」

「……ふうっ、黄金級冒険者と引き分けたんだ。こんなもん、合格にしない方がおかしいだろうよ」

「や、やったぁっ!!」

「レナも合格だ!!」

「うわわっ!?」



ロウガの言葉を聞いてミナ達は我慢出来ずにレナを持ち上げ、そのまま胴上げを行う。あの黄金級冒険者と引き分けた事も凄いが、これで晴れて全員が金色の隼の試験を突破して合格を果たした。


嬉しがるレナ達の様子を見てロウガは苦笑いを浮かべ、この後に彼等に試験を受ける必要がなかったことをどう謝罪しようかと考えていると、そんな彼の元にイルミナは近寄ってため息を吐く。



「ロウガ、貴方の独断で試験を行った罰としてクランハウスの掃除係を一週間してもらいます」

「ああ、分かってるよ……」

「また、今回の試験で敗れた冒険者達に関しての慰めもお願いします。相当に落ち込んでいる様子でしたよ」

「そ、そうか……」



ロウガは今回の試験の相手として呼び出した白銀級冒険者達の事を思い出し、全員が金級冒険者の昇格試験を受けられる程の実力者だったにも関わらず、結局はレナ達に誰一人として勝てなかった。今回の敗退でプライドが傷ついた者も多く、仕方なく指導官の役目として彼等を慰めなければならなかった。

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