第443話 試験〈シノ・ナオ〉

「舐めやがって……」

「私達を何だと思ってるの……こっちは金級冒険者候補よ!!」

「……試合を始めるぞ、準備はいいか?」



二人の態度にアサシとラプは怒気を滲ませるが、一方でナオとシノは涼しげな表情でロウガの問いに頷く。4人は試合場で向かい合うと、アサシとラプはお互いに視線を向けて意思を交わす。


相方が動く前にナオを倒す事を決意したアサシとラプは彼女に視線を向けると、試合開始の合図を待つ。そんな彼等を見てロウガは二人の企みにすぐに気付いたが、それでも試合開始の合図を行う。



「試合開始!!」

「行くぞっ……!?」

「行くわよっ……!?」



二人がナオに向けて真っ先に突っ込もうとした瞬間、二人の視界に存在したナオとシノが一瞬にして姿を消す。最初は何が起きたのか理解出来なかったラプだが、暗殺者であるアサシの方はナオが上に飛んだ姿を見逃さなかった。



「ラプ!!上だっ!?」

「えっ!?」

「はああっ!!」



ナオは上空に跳躍すると身体を回転させながらラプの頭上に接近し、勢いを増した踵落としを放つ。咄嗟にラプは慌てて両腕で受け止めようとしたがその程度の防御では防ぎきれず、身体が吹き飛ばされる。



「はいやぁっ!!」

「きゃあああっ!?」



想像を絶する踵落としによってラプは場外まで吹き飛ばされると、そのまま気絶したのか動かなかった。その様子を見ていたアサシはもう自分一人になった事を理解すると、唖然とした。


一方でナオの方はラブを吹き飛ばすと、即座にアサシに向けて攻撃を開始しようとした。しかし、彼女は何かに気づいたようにアサシに向けて拳を突き出すのを止め、それに気づいたアサシは慌ててナオを警戒して引き下がろうとした。



「ひぃっ!?ば、化物かっ!?」

「女の子に対して、その言葉は失礼」

「ひぎゃあっ!?」



しかし、後退しようとしたアサシの背後から声が掛けられ、振り返るとそこには短刀を構えていたシノが立っていた。咄嗟にアサシは短剣を引き抜いて応戦しようとしたが、先にシノが担当の刃を鋏のように重ね合わせると、先に首元に押し付ける。


暗殺者でもあるはずのアサシが全く気づく事が出来ず、背後を取られたという事実に彼は目を見開き、一方でシノの方は首筋に刃を構えたまま降伏を迫った。



「降参して、この距離で貴方に勝ち目はない」

「ひいっ……!?」

「……そこまでだ、試合終了だ!!」



ロウガの言葉を耳にするとアサシはその場でへたり込み、シノは短刀を元に戻す。そして無言でナオの元に戻ると、二人は手合わせを行う。その様子を見てアサシは自分たちの作戦を見抜いていたのかを問う。



「お、お前等……まさか、俺達の作戦を最初から分かっていたのか?いったいどうして……」

「……別にそういわけではないですけど、御二人とも僕に視線を向けているのは分かっていました。だから、最初に狙うのは僕だとしたら敢えて注意を引くために上空へ飛びました」

「私はそれに合わせて二人が注意を引かれている内に背後に回っただけ。暗殺者なのに周囲に警戒をしてなかったのが貴方の敗因」

「ぐうっ……ま、参った」



試合は終ってはいたが、二人が自分とラプ以上に即興で作戦を立てたという話を聞いて敗北感を味わい、改めて敗北を認める。その様子を見ていたロウガは頭を掻きながらこれで6人目の合格者を出した事を悟る。


ロウガは時間を確認して建物の3階の窓の方に視線を向け、もうルイとイルミナが気付いていてもおかしくはないのだが、一向に二人が現れない事に疑問を抱く。だが、二人が訪れるまでは彼は試験と称してレナ達の実力を計るため、最後に残ったレナと向き合う。



「最後はお前だな……準備はいいか?」

「はい、準備は出来てますけど……何の試験をするんですか?」

「んっ……そ、そうだな。的当て用の人形を新しい物を用意するにしても時間が掛かるし、かといって他の物で試すにしても何があったか……」

『ひゃっはぁっ!!面白い事をしてんじゃねえかっ!!』



唐突に訓練場に大声が響き渡ると、二階の窓から大きな物体が下りてきた。全員が驚いて視線を向けると、地面に降り立つ全身に甲冑を纏った大男が立っていた。その男の手には大盾とランスが握り締められ、それを見たロウガが驚愕の声を上げる。



「か、カツ!?お前、戻っていたのか!?」

『ロウガ!!さっきから窓で見てたぞ!!どうやらその坊主の試験の相手が決まっていないようだな!!だったら、この俺が相手をしてやるぜ!!』

「黄金級冒険者のカツさんがレナさんの相手を!?」

「お、おい待て!!流石にそれは理不尽だろう!!試験の相手が黄金級冒険者なんて、不公平過ぎるだろうが!!」

「い、いや……カツ、こいつらが混乱するだろう!!お前の出る幕じゃない、下がれ!!」



カツがレナの対戦相手を名乗り上げた事に訓練場に存在する者達は慌てふためき、流石のロウガもカツとの対戦を認められなかった。そもそも先ほどまでの試合は戦闘職の人間の試験であり、魔術師の試験の場合は対戦相手など想定していない。


仮に戦う相手を用意する事があってもそれは人間ではなく魔物である。しかし、カツも引き下がるつもりはないのか意気揚々と試合場に移動してレナを呼び寄せる。

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