第442話 試験〈ミナ〉

「乱れ突き!!」

「くっ、この程度……うおおっ!?」

「やった!!」

「流石はミナさんですわ!!」



ミナが繰り出してきた連続の突きに対してヘキは防御するのが精いっぱいであり、槍が叩きつけられる度に大盾が凹む。完全に防御が成功すれば相手の攻撃を受流せるのだが、あまりにも鋭いミナの槍に攻撃を弾くどころか受け流す事もまともにできず、徐々に場外へと追い詰められる。


ゴロウとの戦闘訓練にてミナは盾騎士との戦闘に関しての技術は磨かれており、さらにはレナ達と毎日のように鍛錬を行っていたので身体能力も上がっていた。彼女はゴブリンキングとの戦闘では披露できなかった新技を繰り出すため、敢えてヘキから距離を取ると、助走を付けて勢いを付けた攻撃を放つ。



「螺旋槍・乱!!」

「ぬああああっ!?」

「ヘキ!?」



助走を行う事で勢いを加え、更に槍を手元で高速回転させて突き出す。通常の螺旋槍よりも威力は上昇した一撃をヘキは大盾で受け止めようとした瞬間、あまりの衝撃に槍は大盾を「く」の字のように凹ませ、ヘキを場外へと叩き落す。


ヘキの元に慌ててロウガと他の冒険者は集まると、完全に白目を剥いて気絶していた。誰がどう見ても戦える状態ではなく、ロウガはすぐに勝利の合図を行う。



「この試合、ヘキの負けだ……合格だ!!」

「やったぁっ!!」

「凄いですわミナさん!!」

「うへぇっ……最後の一撃、凄かったな」



ミナの元に全員が駆け寄り、コネコはミスリル製の大盾を凹ませたミナの一撃に若干引き気味になる。だが、ミナは盾を完全には壊せなかった事に対して不満があるらしく、彼女は残念そうに呟く。



「う~ん……やっぱり、完成度は半分ぐらいかな。本当は盾を貫通するつもりでやったのに」

「いやいやいや!!そんな事をしたら相手が死ぬだろ!?もしも貫通してたらどうするつもりだ!?」

「あ、そうか……し、失敗して良かったかも」

「姉ちゃん、結構天然だよな……」

「失敗して良かったですね……」



ミナの発言にデブリが咄嗟に突っ込み、もしも彼女の攻撃が完璧に成功していたらヘキも無事では済まなかっただろう。だが、合格した事は事実なのでこれで試験を突破したのは4人目だった。残るのはナオ、シノ、そしてレナの3人だけである。


半分以上が合格した時点でロウガも、ナオとシノの対戦相手も彼等が只者ではない事はもう分かり切っていた。しかし、それでも試験を受けさせる必要があるのはロウガ自身がレナ達の実力を詳しく推し量りたいという気持ちがあった。



(こいつは間違いなく金の卵だ……だが、だからこそこいつらの実力を正確に把握しておきたい)



指導者としてロウガはレナ達の実力を知りたいと思った彼は、悪いと思いながらも他の冒険者達に試験の相手をさせる。自分が万全の状態ならば自ら戦って相手をしたところだが、片足を失ったロウガに今のレナ達の相手は行えない。



「……おい、今度は二人ずつまとめて戦え!!冒険者の仕事上、他の人間と協力して戦う機会も訪れるよくある話だ!!」

「二人ですか?」

「私は問題ない、共闘するのは慣れている」

「私達も構いませんが……」

「よ、よし……やるぞ!!」



シノとナオはロウガの提案に承諾すると、残りの冒険者達も承諾する。最後の戦闘職の試験の相手は格闘家の女性と暗殺者と思われる男性の二人組であり、この二人は普段から同じ冒険者集団(パーティ)を組んでいるので共闘に関しては慣れ切っている。


一方でシノとナオの方は毎日同じ訓練を行っているが、実を言うと共闘の経験はあまりない。理由としてはシノはダリル商会の用心棒として仕事としてダリルと行動を共にする事も多く、ナオの方もドリスと行動を共にする事の方が多い。だが、組む機会がなかったからといってこの二人の相性が悪いとは限らない。


試合場へと4人は乗り込むと、ナオは軽く準備体操を行い、シノは短刀の確認を行う。一方で二人組の冒険者は互いの顔を見て頷き、最初に狙う相手を選ぶ。



(アサシ、最初に狙うとしたら……)

(ああ、武器を持たない男(ナオの性別に気付いていない)の方だな。二人で最初に一気に畳み掛けるぞラプ)



武器を所持していないナオの方が与しやすい判断した暗殺者の「アサシ」と格闘家の「ラプ」は試合の開始と同時に彼女を先に狙う事を決める。2対2との戦闘の場合、先に相手を倒した方が有利になるのは間違いなく、どうにか最初に相手を倒す事が出来ればアサシとラプにも勝機はあると確信した。



「そういえば今回の試合の場合、合格の基準はどうなりますの?」

「そうだな……例えば片方が敗れて、もう片方が相手二人を倒した場合はそいつだけが合格だ。だが、片方が二人を倒してもう一方が相手を倒してなかったとしても合格にしてやる。それでいいか?」

「それだとナオとシノさんの方が不利なのでは?どちらにしろ二人は負ける事が許されていませんわ」

「ドリス、僕は構わないよ。元々負けるつもりはないしね」

「私も問題はない」



ロウガの告げた規則は一件は平等に聞こえるが、実際の所はナオとシノの場合は敗北は許されず、結局は二人を倒さなければ合格にはならない。しかし、特に二人とも不満はないらしく、あっさりとロウガの条件を承諾した。その余裕ともとれる態度に対戦相手のアサシとラプは額に青筋を浮かべる。

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