第441話 試験〈コネコ〉

「この、待ちやがれチビ!!」

「へへんっ!!そんな足であたしを捕まえられるかよ!!」

「何してんだお前等!!追いかけっこの勝負じゃないんだぞ!!」

「く、くそ……何で人間のガキがこんなにすばしっこいんだ!?」



試合場にてコネコは獣人族の青年冒険者と試合を行い、彼女は持ち前の足で掴みかかろうとする青年の腕を躱す。獣人族と人間は身体能力に差があるのだが、コネコの場合は小柄な体型と生まれ持った天性の勘で青年の動きを読み切って回避する。


単純な足の早さならば自分の方が勝ると青年の冒険者は思っていたが、いくら追いかけようとコネコを捕まえる気配すらなく、逆に体力を消耗してしまう。コネコは頃合いを見計らい、青年に向けてナオから教わった新しい蹴り技を放つ。



「喰らえっ!!飛燕脚!!」

「ぐはぁっ!?」



プロレスのローリングソバットを想像させる蹴りをコネコは青年の顔面に叩き込むと、青年は鼻血を吹き出して膝を付く。それを見たコネコは追撃の好機だと判断すると、再び跳躍して青年の頭部に目掛けて全体重を乗せた一撃を放つ。



「そしてこれがあたしが考えた必殺技、落脚だぁっ!!」

「ぐええっ!?」

『うわぁっ……』



青年は後頭部からコネコの両足の足の裏を叩きつけられ、地面に顔面から倒れてしまう。男の頭からコネコは退いた時には完全に意識を失っており、子供ながらに恐ろしい技を放ったコネコに誰もが引いてしまう。流石のコネコもやり過ぎたかと倒れていえる青年の様子を伺う。



「おい、起きてるか?死んでないよな?」

「あ、あがぁっ……」

「よし、生きてるな……犬のおっさん!!あたしの勝ちだよな!!」

「だから誰が犬だ!!俺は狼だと言っているだろうが……いや、まあいい。確かにお前の勝ちだな」

「おっしゃあっ!!」

「やったねコネコ!!」



ロウガが勝利を宣言するとコネコはレナの元に飛び込み、そのまま二人は抱き合う。他の者達もコネコの勝利を祝い、デブリに至っては肩車を行う。その様子を冒険者達は悔しげな表情を浮かべ、もうこれで3人目の合格者を出してしまった。


一方でロウガの方は倒れた冒険者の元へ駆け寄り、気絶しているだけだと確認するとすぐに意識を取り戻したジャイに医療室に運ぶように促す。



「こいつは駄目だな……おい、ジャイ!!こいつを医療室に連れていけ!!お前も怪我してんだろ、ついでに診てもらってこい!!」

「う、うすっ……おい、大丈夫か?」

「ううっ……」



ジャイは青年を持ち上げて建物の中へと戻り、これで残されたのはシノ、ナオ、ミナの対戦相手となる3人の冒険者だった。残っている者達はそれぞれが「盾騎士」「格闘家」「暗殺者」と思われる服装を身に着けており、偶然にも同系統の職業同士の戦闘になりそうだった。



「全く、不甲斐ない奴等め……ここは俺がやる!!お前等は下がっていろ!!」

「次はヘキか……おい、今度は誰が戦う?」

「なら、僕が行くよ」

「ほう、見た所は槍騎士の称号を持っているようだな……だが、貴様の槍で鉄壁の防御を呼ばれた俺の防御力を突破できるか!?」



ミナの相手は年齢が30代ほどの男性であり、ジャイよりは小さいが身長は180センチ近くは存在し、ミスリル製の大盾を装備していた。一方でミナの方は感動された時に槍は没収されたが、前にレナから受け取ったミスリル製の槍を用意する。


競売の件がある前は大迷宮にてレナは毎日のようにロックゴーレムの狩猟を行い、その時にミナも手伝っていた時期がある。そこで彼女にただ働きして貰うのも悪いと思ったレナがムクチに頼み、彼女専用の槍を作り出して貰う。ミナはトライデントのような三又の槍を気に入っていた。



「よろしくお願いします!!」

「ふん……初撃は譲ってやる、かかって来いっ!!」

「ヘキ、油断するんじゃないぞ!!最初から本気で挑め!!」



大盾を構えたヘキはミナと向かい合うと、ロウガが注意を行う。審判役として公平を期すために片方の選手に助言を行うのは問題があるかもしれないが、ロウガの場合は助言というよりも相手が子供だからと言って油断しないようにという注意に近い。


試合場にて大盾を構えたヘキ、それに対して距離を開いた状態で槍を構えたミナ、二人は睨み合いながら距離を測り、徐々に接近する。緊迫した雰囲気に他の者達も緊張し、やがて最初に動いたのはミナだった。



「刺突!!」

「ふん、その程度の攻撃……ぬおっ!?」



馬鹿正直に正面から槍を突き出してきたミナに対して、ヘキは大盾で槍を振り払おうとしたが、予想以上の突きの鋭さに弾き返すことが出来ずに大盾が凹んでしまう。女子が放ったとは思えないほどの威力にヘキは焦りを抱き、一方でミナは追撃を行う。



(この人は弱くない……でも、僕が毎日相手をしてもらってるのはこの国最強の盾騎士なんだ!!)



魔法学園でミナはレナ達と共に騎士科の教官を務める「ゴロウ」の指導を受けており、彼は現役の将軍であると同時にヒトノ国の将軍の中でも一番を誇る「盾騎士」である。そんな彼から直々に指導を受けているミナは瞬く間にヘキを追い詰めた。

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