第440話 教導官ロウガの過去 

――同時刻、クランハウスの3階に存在する「団長室」と呼ばれる部屋には、ルイとイルミナの姿があった。二人は窓の外からクランハウスの訓練場の様子を伺い、ロウガの指示の元で試合場に上がるコネコと対戦相手の獣人族の冒険者の姿を確認する。



「全く、ロウガの奴め……また勝手に訓練場を使って試験を行っているようだな」

「団長、すぐにロウガを止めましょう!!魔法学園の生徒の皆さんの実力は私が把握しています。そもそも推薦状を渡した者は試験を免除する事も伝えています!!いくらロウガが見習い団員の教導官だとしても今回の件は見過ごせません!!」

「確かに今回のロウガの行動は咎めなければならないな」



二人がロウガがクランハウスに訪れたレナ達に本来はする必要のない試験を課している事に気付いたのは先ほどであり、試合場でデブリとジャイが戦ったときの騒ぎで気が付いた。二人は今戻って来たばかりなのでレナ達が訪れていた事を初めて知り、イルミナは怒った様子でロウガを止めるように促す。


だが、団長のルイはロウガの顔つきを見て彼の異変に気付き、最近までは冒険者として復帰できないと宣告されて落ち込んでいた彼が今は生き生きとした表情を浮かべている事に気付く。王都では「闘脚」と呼ばれた金級冒険者だったロウガは、いずれは黄金級に昇格すると誰もが思っていた。しかし、彼に悲劇が襲ったのは一か月ほど前に起きた煉瓦の大迷宮の悲劇である。


ロウガは仲間達と共に煉瓦の大迷宮に挑んだが、その迷宮にて今まで存在は殆ど確認されていない「ゴブリンキング」と遭遇する。仲間を守るために彼は必死に戦ったが、援軍としてルイ達が駆けつけた時には既に彼は右足を失っていた。


自慢の足が奪われた事でロウガは残念ながら冒険者家業を引退し、現在は金色の隼の団員の教導官として働いている。前線に出られなくなったとはいえ、彼がベテランの冒険者である事は間違いなく、指導役として後輩の冒険者を鍛えていた。だが、冒険者時代と比べての覇気は損なわれ、現在は金色の隼に入ろうとする者達を厳しく取り締まっている。



「いくら団長がロウガの事を気にかけているといっても限度があります!!このままでは魔法学園の生徒達の機嫌を損ね、入団を拒否するかもしれません!!」

「まあまあ、まずは君の方が落ち着きなよ。綺麗な顔が台無しだよ」

「団長、こんな時にふざけて居いる場合ですか!!彼等は間違いなく全員が金の卵、特にレナ様に至っては団長が一番認めているのではないですか!!」

「そう怒鳴らくても理解しているよ。確かにロウガの行動は問題だ……だが、彼の言葉にも一理ある。実力のない人間をこの金色の隼に入れるわけにはいかない」



イルミナはすぐにでもロウガを止め、レナ達の入団を認めるべきだと主張する。確かに彼女の意見は正しいのだが、ルイは久しぶりに見るロウガの生き生きとした表情を見てイルミナを止めた。



「既にロウガが試験を与えている以上、下手に止めても彼等の印象が悪くなるだろう。ならばこのまま試験を受けさせた方が良いと僕は思うね」

「ですが……」

「勿論、試験に落ちれば当然だが入団は認めない。いくら実力があるといっても、本犯で失敗するような人間は受け入れられない。厳しいようだが、金色の隼の冒険者として活動するのならばこの程度の予測自体(アクシデント)は乗り越える力を持たなければならない」

「……では、団長はロウガの行動を止めないというのですか?」



ルイの言葉にイルミナは信じられない表情を浮かべ、もしもレナ達の誰かが試験に落ちれば金色の隼は大きな痛手を負う。間違いなく、レナ達は魔法学園の生徒の中でも「珠玉」の存在であり、そんな彼等を本来は受ける必要もない試験を受けさせる行為自体が有り得ない話だった。


しかし、既に試験は実行された以上はルイは止めるつもりはなく、最後までロウガの行動を見守る。これでもしもレナ達が機嫌を損ねて帰ってしまったとしても、彼女は縋りついてでもレナ達を金色の隼に入れるだろう。だが、あと少しで昔のような冒険者としての活力を取り戻そうとしているロウガを見ると放っておけなかった。



(肝心な時に甘さが出るのが僕の悪い癖だな……)



ロウガの行為を止めず、ルイは彼の行動を最後まで見学する。しかし、団長の立場として試験が終わった後はロウガに何らかの罰を与えなければならず、最悪の場合はロウガを金色の隼から追放させる事態に陥るかもしれない。そのためにルイはロウガの行動を止めず、最後の時まで彼の好きにさせた――


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