第439話 試験〈デブリ〉

『うおおおおっ!!』



デブリとジャイは同時に飛び出すと、試合場の中央にて互いに身体をぶつけ合う。正面から突っ込んできたデブリをジャイが受け止める形になったが、結果的に言えば打ち勝ったのはデブリだった。



「どすこぉいっ!!」

「ぐあっ……!?」

「ば、馬鹿なっ!?」



強烈なぶちかましを受けたジャイの巨体が揺らぎ、それを見たロウガは驚きの声を上げる。体格的にはジャイはデブリの2倍近くの身長差があり、体重に関してもデブリよりも重い。だが、自分よりも巨体の相手に戦闘を挑むのはデブリは慣れており、最近ではジャイよりも体格も体重も腕力も勝るゴブリンキングの攻撃さえも正面から跳ね返した事もある。


ジャイは胸元にデブリの頭突きを受けた事で身体がふらつき、その隙を逃さずにデブリは右腕に力を込めると、強烈な掌底を放つ。



「ふんっ!!」

「ぐおっ……!?」

「う、嘘でしょう!?」

「あのジャイが……あんな小僧に膝を!?」

「デブリ君、決めちゃえっ!!」

「やっちまえっ!!」

「頑張れっ!!」

「おおおおおおおっ!!」



的確に顎に掌底を叩き込まれたジャイは脳震盪を起こし、そのまま地面に膝を付いてしまう。その様子を見ていた他の冒険者達は動揺するが、レナ達はここで畳み掛けるようにデブリに声援を送る。


仲間達の声援を受けてデブリは気合の雄たけびを放つと、ジャイの巨体に組み付いて渾身の力を込める。その結果、ジャイの巨体が持ち上げるのと同時に相手の背に腕を回してひねり倒す。



「合掌捻り!!」

「うおぁああああっ!?」

「ジャイっ!?」



巨体が試合場の場外に向けてひねり倒され、そのままジャイは地面に激突して白目を剥く。その姿を見てデブリは鼻を鳴らし、勝利を確信したレナ達は歓声を上げる。



「おっしゃあっ!!あんちゃんの勝ちだ!!」

「流石はデブリ、食事も勝負も大物食い」

「デブリさんの勝利ですわ!!そうでしょう、試験官!?」

「……あ、ああ、そうだな。お前の勝ちだ坊主」

「ごっつぁんっ!!」



ロウガが倒れたジャイを調べると、しばらくは目を覚ましそうにない事を確認する。ここまでされた以上はデブリの勝利を認めざるを得ず、彼はデブリの勝利を祝う。


一方でジャイを倒された他の冒険者達の顔色は代わり、まさかデブリがジャイに勝利するなど夢にも思わなかった。ジャイは彼等の中では間違いなく最強の冒険者であり、しかも勝負内容を見た限りでは彼は油断なんかしておらず、全力で戦った上で負けた。



「お、おい……こいつら、やばいんじゃないのか?」

「な、何をビビってるのよ!!残っているのはもう女の子だけよ、それにきっとあの男の子が一番強かったのよ!!」

「そ、そうだな……残っているのは女ばっかりだもんな」

「ちっ……おい、一人やられたくらいで弱気になってんじゃねえ!!それでも冒険者かお前等は!?」



ジャイが敗れた事で他の冒険者達の士気が下がっている事に気付いたロウガが叱りつけると、彼等は慌てて気を引き締め直す。もうここから先は相手が子供だからと言って侮るような真似はせず、最初から本気で挑む事を決める。



「よし、なら次の試験は誰が受ける?今度はお前等の方から戦う相手を選んでもいいぞ」

「え?いいんですか?」

「ああ、こいつらの中から好きな奴を選べ」



デブリの時はロウガが対戦相手を選んだが、今度は試験を受けていない者達に対戦相手を選ぶように促す。意外な申し出にレナ達は驚くが、ロウガとしても彼等に興味を抱き始めていた。



(こいつら、思っていた以上にやるな……最初はあの魔術師の二人がやばいかと思ったら、あのガキもジャイを倒すなんて只者じゃねえ……面白くなってきやがった)



最初はレナ達に試験を受けさせることに乗り気ではなかったロウガだったが、ドリスとデブリの実力を見せつけられた事で魔法学園の生徒の実力の高さを認めざるを得なかった。


実を言えばロウガがレナ達に試験を受けさせたのは魔法学園の生徒は訓練を行っているという話は聞いていたが、冒険者と違って彼等は安全な環境下で訓練を行っている事が気に入らなかった。全ての冒険者は実戦で己を磨き、経験を積む。それなのに魔法学園の生徒は冒険者ほどに実戦経験もなく、しかも年齢が10代前半ばかりの子供たちだと聞いていた彼はどうしても気に入らず、本来は必要もない試験を独断で行う。


年齢も若く、しかも実戦の経験が少ない人間を金色の隼の冒険者として迎え入れる事にロウガは反感を抱いていた。だが、実際に魔法学園の生徒の戦いぶりを見て自分の想像以上の実力を持つ彼等を見て、ロウガの魔法学園の生徒の評価は変わり、磨き上げれば間違いなく将来は優秀な冒険者になれるのではないかと希望を抱く。


足を負傷してもう前線には戻れなくなったロウガだが、指導者として自分の後に入って来た後輩たちを一流の冒険者に育てたいという気持ちはあった。もしもこの事を団長のルイや副団長のイルミナに知られればロウガは解雇されるかもしれない、だが先輩の冒険者として生半可な実力しかない人間を金色の隼の冒険者として認めるわけにはいかず、彼は自分が解雇されようと構わずに試験を続行させた。

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