第438話 力士VS巨人

「ロウガさん、連れてきました!!」

「おう、よくやったデカブツ……お前等の相手はこいつらだ」

「何だよ、本当ガキじゃねえか……」

「こいつらがうちに入るつもりなのか?」

「ふふふ……可愛い子もいるじゃない」



現れたのは5人の男女であり、その中にはレナ達がクランハウスに訪れた時に遭遇した巨人族の青年もいた。現れた5人全員が白銀級冒険者の証である白銀製のバッジを身に付けていた。


全員がヒトノ国に訪れる前のレナと同じ階級の冒険者らしく、冒険者の実歴はレナよりも長い。金色の隼は黄金級冒険者だけで構成されているわけでもないらしく、彼等の紹介をロウガが行う。



「こいつらはうちで働いている見習いの団員共だ。全員が白銀級だが、ほぼ全員が昇格試験を受ける評価点を集めている。火竜の件がなければもう試験を受けてもおかしくはない実力者揃いだ」

「え?という事は……」

「そういう事だ。戦闘職の試験はこいつらと戦ってもらう」

「おいおい、ロウガさんも人が悪いぜ。こんなガキ共に俺達の相手が務まるのか?」



ロウガの言葉に集まった5人は笑い声をあげ、どう見ても彼等の目から見たらレナ達はただの子供にしか見えないだろう。だが、そんな彼等に対して苛立ったデブリは真っ先に名乗り上げる。



「僕達を舐めやがって……よし、それなら次の試験は僕が受けるぞ!!問題ないよな!?」

「ほう、威勢がいいな。よし、じゃあうちからは……そうだな、ジャイ!!お前が相手をしてやれ!!」

「お、いきなり俺からっすか?」



デブリの体格を見てロウガは5人の中から巨人族のジャイを選ぶ。万が一の場合を考え、他の人間はデブリに押し負けるかもしれず、体格的も体重も勝る巨人族のジャイを相手にさせた。


初っ端から自分以上の体格を相手にする事になったデブリは冷や汗をかくが、どんな敵であろうと彼は引かず、正々堂々と挑む。気合を入れるようにデブリは頬を叩くと、試合方式を尋ねる。



「勝負の内容は?」

「そうだな……よし、あそこにある試合場で戦ってもらう。制限時間は3分間、試合方式は何でもありだ。身に着けている武器だったら何を使用してもいい、相手に降参させるか、あるいは気絶させたら勝ちだ」

「ふんっ……おい、チビ!!降参するなら早めにしろよ!!」



ジャイはデブリをチビ呼ばわりすると試合場に乗り込み、挑発するように中指を立てた。そんなジャイに対してデブリは鼻息を鳴らすと、上着を脱いで上半身が裸になった。それを見てロウガ以外の者達は笑い声をあげた。



「何よ、あの身体?脂肪ばっかりじゃないっ!!」

「なんだよ、ただのデブか」

「おい、ジャイ!!さっさと終わらせちまえっ……」

「おう、任せろ!!」

『…………』



デブリの肉体を初見で見た人間は最初は彼の事を肥満体型だと思うだろう。しかし、よくよく観察すれば彼の肉体を構成するのは脂肪ばかりではなく、ちゃんと筋肉も発達している。実力者であればあるほどにデブリの肉体は見事なまでに仕上がっている事を感じ取れる。



(こいつは……強いな。だが、それでも体格の差は大きいぞ)



ロウガはデブリの評価を一変するが、それでもジャイにまだ分があると考えていた。単純な素手の格闘戦では体格が大きい人間の方が有利であり、体格の大きさは骨格が大きさも現す。分かりやすく言えば大きい程打たれ強い肉体になりやすい。


ジャイは態度こそ生意気ではあるが、白銀級冒険者として様々な実績を上げ、黄金級冒険者のダンゾウの弟子でもある。彼の強さはロウガも認めており、実際に過去に彼は単独で赤毛熊などの魔物も一人で討伐を果たしていた。



「おい、ジャイ!!痛めつける真似はするなよ、さっさと終わらせろ!!」

「へっ……ロウガさんは心配性だな。大丈夫ですよ、俺はこう見えても弱い者いじめは嫌いでね」

「ふんっ!!調子に乗ってるのも今の内だ!!」

「頑張ってくださいデブリさん!!」

「負けんなよあんちゃん!!」

「デブリ君、頑張れ!!」

「おうっ!!」



レナ達の声援を受けたデブリは試合場に乗り込むと、堂々と正面からジャイと向かい合う。二人はお互いを睨みつけると試合場の端まで移動を行い、デブリはいつも通りに体勢を屈めると、ジャイは笑みを浮かべる。



「へへっ……何だその構えは?俺の足にでもくみつくつもりか?だが、残念だったな……その手は通じねえぞ」



ジャイはレスリングの「タックル」と酷似した体勢を取ると、正面から挑もうとしてくるデブリに対して自分も正面から挑む姿勢を取る。その様子を見て両陣営が驚き、どちらも退くつもりがない事を示していた。


デブリはジャイの体勢を見て表情を険しくさせると、心を落ち着かせるように頬を叩き、その場で四股を行う。片足をあげ、地面に足を降ろすというよりも叩きつけるように踏み込む。



「ふんっ!!」

「っ……!?」

「うわ、揺れた!?」

「そんな馬鹿なっ……」



デブリが足を踏みしめる度に振動が走り、四股を繰り返す事に彼は集中力を高め、気迫を強くする。その様子を見てジャイは余裕の態度がなくなり、自分も本気で挑まなければならないと判断してロウガに声を掛ける。



「ロウガさん!!早く試合の合図を!!」

「お、おう……では、試合開始!!」



ロウガがジャイに急かされて試合を開始した瞬間、試合場内に強烈な衝撃音が二つ鳴り響き、全く同時にジャイとデブリが突進した。

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