第437話 試験〈ドリス〉

「氷塊!!」

「氷塊だと……まさか、初級魔術師かお前!?」

「え、今更……?」



ドリスが初級魔法を発動すると、ロウガは驚いた表情を浮かべる。推薦状にも彼女が初級魔術師である事は記されていたのだが、彼はそれを読まずにただの魔術師だと思いこんでいただけに驚く。初級魔術師は魔法職の中でも希少であり、付与魔術師と評価は高い。


上空に氷の塊を生み出したドリスは意識を集中させ、氷を円盤状へと変形させる。この際に周端に関しても鋸のように刃を尖らせる事で切れ味を鋭くさせ、更に高速回転を行う事で威力を上昇させる。物体を操作するという点ではレナの付与魔法にも通じる所があり、彼女はこの動作を数秒程度で終わらせて攻撃を行う。



「これが私のとっておき、回転氷刃ですわ!!」

「なんだと!?」



掌を下ろした瞬間、丸鋸のように変形した氷塊が放たれると高速回転を行いながら横一列に並べられている人形を瞬く間に切り裂く。魔法に対する耐性は高い人形とはいえ、超高速に開店した氷の刃は防ぐ事は出来ず、人形は左端から順に切り裂かれていく。


ロウガは一瞬にして切り裂かれた人形3体を見て動揺を隠せず、まさか本当に一度の攻撃で全ての人形を破壊できるなど思わなかった。だが、ドリスの方は回転させた氷塊を手元に引き寄せると、回転を止めてそのまま消し去る。攻撃を行う際は氷塊を操作するので精神力を消耗するが、それを補って余りある成果を生み出した事にドリスは満足そうに頷くとロウガに振り返る。



「どうですか試験官!?私の魔法も中々でしょう!!」

「あ、ああっ……そうだな、見事なもんだ」

「へへん、ドリスの姉ちゃんの魔法はこんなもんじゃないぞ。もっと凄い事だって出来るんだからな」



ドリスの言葉にロウガは言い返す事も出来ず、それほどまでに見事な魔法だった。ドリスは条件通りに一度の魔法で全ての人形を破壊した事は間違いなく、更にコネコの発言を聞いてロウガは冷や汗をかく。


見事に自分の出した課題をやり遂げたドリスに対してロウガは彼女の才能を感じ取り、磨き上げればイルミナにも匹敵する魔術師に成長すると確信した。しかし、ドリスが凄腕の魔術師だからといって他の人間がそうであるとは限らず、ここは気を取り直して別の人間に試験に移る事にした。



(こいつはまずいな……適当に無理難題を押し付ければ帰るかと思ったが、この調子だと他の奴等も只者じゃなさそうだ。とくにあのガキ……一番やばそうだな)



ロウガはレナに視線を向け、長年の彼の勘がレナが只者ではないと見抜く。どういう訳なのか見た目は普通の少年、一見すれば少女にも見えかねない華奢な容姿なのだが、何故かロウガはレナの事を普通の人間には思えなかった。


獣人族の本能がレナが只者ではないと教え、このまま試験を続けるのは非常に不味い事態に陥ると判断し、別の人間から試験を行う事を告げる。



「……人形が壊れた以上、新しいのを用意するまでは魔術師の試験は出来ない。おい、お前は最後に回すから他の奴の試験を行うぞ」

「え?あ、はい……分かりました」

「何だよ、兄ちゃんの魔法を見てびっくりするところ見たかったのにな」

「そもそもレナ君なら試験なんて必要ないと思うけど……」

「その通りですわ。レナさんは私なんかが足元にも及ばない魔術師ですわよ?」

「……うるせえ、文句を言うなら試験は取り消しにするぞ」



レナの試験が後回しされた事に他の者達が残念がるが、その様子を見てロウガはやはり自分の勘が正しい事を思い知る。だが、只者ではないと分かった以上は次の試験はドリスが受けた試験以上の難題を用意する事を彼は決めた。



「犬のおっさん、次は誰が試験を受けるんだ?」

「誰が犬だ!!俺は狼族の獣人だ!!あんまり舐めた口を利くと試験を取り消すぞ!!」

「うえっ……悪かったよ狼のおっさん」

「こら、コネコ……初対面の人におっさん呼ばわりは駄目だよ」

「うちの子がすいません」

「ちっ……まあいい、それよりも次の試験を受けるのは……そうだな、お前だ」



コネコの言葉にロウガは怒りを抱くと、すぐにレナとシノが彼女を庇う。ロウガも子供の言葉なので本気で怒っているわけではなく、既に合格したドリスと試験を後回しにしたレナを除いた他の人間を見渡すと、少し考えた末に「デブリ」を指差す。



「ぼ、僕か?いったい何をやらされるんだ?」

「へっ、そんなに怯える必要はない。戦闘職の冒険者の場合は実戦方式で戦ってもらう。丁度いい、やっと来たようだな」



ロウガは建物の方に視線を向けると、まるで頃合いを見計らたように扉から数名の男女が姿を現す。全員が金色の隼に所属する冒険者達であり、彼等の胸元には白銀級冒険者のバッジが取り付けられていた。

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