第436話 金色の隼の試験

「なあ、試験なんて受けるのか?あの羊皮紙を持っていけばすぐに入れると思ってたけど……」

「僕もそう思ってたけど、違うみたいだな……」

「でも、金色の隼ほどの大手の冒険者組織(クラン)となると推薦状だけではなく、やはり実力を確かめるために試験を受けなければならないのかもしれませんわ」

「う~ん……」

「お前等、うるさいぞ。文句があるなら帰ってもいいんだぞ?」



ロウガの後に続きながらレナ達は話し合うと、ロウガは頭の獣耳を動かして不機嫌そうに振り返る。その彼の反応を見てレナ達は仕方なく黙って後に続くと、建物の裏へと回る。


金色の隼が所有するクランハウスと呼ばれる建物は敷地も広く、中には冒険者の訓練用の施設も取り揃えられていた。建物の裏側には訓練用と思われる石畳の試合場や、的当て用の木造人形も並べられていた。



「ここは本来は金色の隼に所属する冒険者専用の訓練場だが、今の時間帯は誰も使っていない。ここでお前等の実力を見計らってやるよ」

「実力を見計らうというと……何をするんですか?」

「そうだな、まずはお前等の中で戦闘職の人間はこっちへ来い。魔法が使える奴はここへ並べ」



ロウガの言う通りにレナとドリスは他の皆と別れ、ロウガの元にコネコ達は集まると、彼は推薦状を確認して名前を呼ぶ。



「えっと、魔術師の奴は……これか。おい、お前の名前はドリスか?」

「はい!!私ですわ!!」

「もう一人の奴は……あん?どうなってんだ?推薦状がない……落としたか?」

「あ、それは……」

「まあいいか、おい!!そっちの方の名前は?」

「えっ……レナと言います」

「レナ、か。女みたいな顔に女みたいな名前をしやがって紛らわしい奴だな」



レナの分の推薦状がない事に不思議に思ったロウガだが、レナは自分は推薦状を持ち込んでいない事を説明する前にロウガが本人に名前を問う。


名前の確認を行ったロウガは10メートルほど離れた位置に存在する世界樹製で作り出された人形を指差すと、まずは推薦状で名前を確認したドリスに声を掛ける。



「おい、ドリスといったな!!お前はあの並んでいる人形を倒す事は出来るか?」

「人形……あの3つの人形の事ですか?」

「そうだ、お前の試練はあの人形を全て破壊しろ。魔術師なら簡単な事だろう?」

「ええ、それぐらいなら問題ありませんわ!!」



ロウガの言葉にドリスは自信満々に答えると、彼女は魔法腕輪を装着して準備を行う。それを見たロウガは笑みを浮かべると、試験を始める前に注意を行う。



「おっと、言っておくが勘違いするんじゃないぞ?俺が行っているのは3つの人形を同時に破壊するんだ。つまり、攻撃の好機は1回限り!!その1回で全て破壊しないとお前は不合格だ!!」

「はあっ!?何だよその試験!?」

「1回で壊せなんて……」

「文句を言うな!!一流の魔術師ならこの程度の事は誰だって出来るんだよ!!」



ロウガの言葉にドリス以外の者たちは彼の付け加えた条件に文句を言うが、それを彼は黙らせた。今回の試験に用意されている人形はただの木材ではなく、世界樹と呼ばれる特殊な樹木の素材で作り出されている。過去にドリスは魔法学園でイルミナから与えられた試験を受けた際に彼女はこの人形を3つ破壊する事は出来なかった。


だが、あれから訓練を重ねてより初級魔法を使いこなせるようになったドリスならば全ての人形を破壊する自信はあった。しかし、攻撃の回数が限られるとなると一気に難易度は高くなる。


仮に熟練の魔術師だとしてもこの試験を突破するのは難しく、もしもシデやヘンリーのような「砲撃魔法」を得意とする魔術師にとっては最悪の条件と言える。砲撃魔法は基本的には高火力だが単発でしか生み出せず、3つの人形を同時に破壊するとなると威力を高めた上級の砲撃魔法で吹き飛ばすか、あるいは広域魔法などで範囲を広げて攻撃するしかない。


ロウガは困り果てる他の者達の様子を見てほくそ笑み、ドリスに至っては考え込むように人形を見つめる。そんな彼女に諦めるのならば今の内だと告げようとした時、レナが声を掛けた。



「やったねドリスさん、試験なんて言うから不安だったけど……これならドリスさんの得意分野だね」

「……ええ、その通りですわ!!」

「は?」



レナの言葉にドリスは笑みを浮かべると、彼女の予想外の反応にロウガは戸惑う。そんな彼にドリスは高らかに宣言した。



「前回は全ての人形を壊せなかった雪辱、ここで晴らして見せますわ!!さあ、試験官さん、早く合図をしてくださいましっ!!」

「お、おい……本気でやるのか?今更止めたといっても聞かないからな?」

「ええ、女に二言はありませんわ!!」

「……よし、いいだろう。じゃあ、試験を開始する!!」



ドリスの余裕の態度にロウガは訝しむが、本人が試験の開始を求めた以上は彼は反対は出来ず、試験の合図を行う。その瞬間、ドリスは意識を集中させるように瞼を閉じると、上空に向けて掌を翳した。




※こ、このドリスの構えは!?まさか、きえんざ……(自重)

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